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翌朝、いつものように準備して、王子様のお部屋を訪ねる。
「昨夜、城内にダークラッドが現れた」
「はい、知っています」
私が頷くと、レクレス王子はテーブルを指した。朝食を一緒に食べようというジェスチャーだ。
「汚染ネズミは、魔の森に汚染された生き物だ。放置しておけば、瘴気がうつって汚染されてしまう」
「厄介ですね」
「昨日は合計3匹が確認され、全て仕留めた。他にもいないか調べている」
お互い席につき、オートミールメインの朝食のお時間。
「それで、何かアイデアは見つかったか?」
「魔法杖を考えてみました」
昨晩、メイアと話し合った、誰でも魔法が使える杖案を披露する。
「――なるほど、面白いな」
レクレス王子の反応は上々に思えた。
「よそでの需要という面では、正直わからんが、少なくとも魔の森で戦う我々にとっては、かなり需要がある!」
一般にも魔石の需要を、という点では残念ながら王子様の期待に届かなかったみたい。それは残念だけど、レクレス王子の機嫌はむしろよかった。
「アンジェロ、お前はまだここでの戦いは経験していなかったと思うが、よく勉強したな」
「はい……?」
魔の森の魔獣については、全然勉強していなかったんですけど……。
「誰でも攻撃魔法が使える杖か。これはぜひ量産して、全員に持たせたい」
予想以上の食いつきだった。私もビックリ。
「フライヤー対策に持ってこいだな。あの浮遊する魔物は、こちらの攻撃が届かない位置から汚染液を飛ばしてきて厄介だった。これなら奴を叩き落とすことができる!」
フライヤーがどんな魔獣か知らないけど、空を飛んでいるということかしら?
「連続して使えますが、一種類しか魔法は出ません」
「一種類で充分だ。あいつを撃ち落とせるならな」
とても楽しそうな顔をするレクレス王子。そのフライヤーとやらは、相当、王子様たちを悩ませていたようだ。
「あいつは矢の1、2本が当たった程度では落ちないからな。魔法での攻撃手段があるのはありがたい」
現状、青狼騎士団は、私を除くと攻撃魔法が使えるものが2人しかいないという。治癒魔法が使える者も私以外に治癒術士の2人だけである。
「それに他の杖も面白い。……このヒールロッドは、大発明ではないか?」
治癒魔法のヒールが発動する杖だ。魔力は当然、魔石。王都で、治癒魔法の効果が発動する魔法の指輪を見たことがあって、それを真似てみようというアイデアだ。
「あくまで初歩的なものなので、応急手当程度ですが」
「ないより全然いい。……覚えているかアンジェロ。お前が初めてこの城に来た時のことを」
「はい。負傷者が溢れていました」
「そう、大きな攻勢の直後でな。治癒術士たちも頑張ったが、魔力切れで倒れてしまった。……あの時、お前がいなければ、何人か命を落としていた。改めて感謝する」
「いえ、そんな……」
もう過ぎたことだ。改めてお礼を言われるものでもない。
「それで、だ。このヒールロッドがあれば、治癒術士たちの負担を減らすことができよう。応急手当程度というが、戦場では軽傷者も多い。重傷者に備えて治癒術士を温存して、傷の軽い者たちにはヒールロッドで対処、ということもできるだろう」
「なるほど」
「……いや、先ほどはよそでの需要どうこう言ったが、取り消す! これは大当たりかもしれん。ヒールロッドは、戦場での治癒術士不足を解消することになるかも。うむ、アンジェロ、お前は凄いものを考えたぞ!」
レクレス王子が声を弾ませた。他にも案を見ていく。
「防御魔法が発動する杖か……。これは盾と違うのか?」
「重さですね。杖の大きさにもよりますけど、大型の盾より軽量ですから、持ち運ぶのが楽ですし、使わない時、視界を妨げにくいでしょうか」
「なるほど」
魔法でできることは、大体できる。たとえば、杖から炎を放射して、焼き払ったり、光を放って照明にしたり、水を放射して敵を流したり、汚れを洗浄したり、などなど。
「最後のほうは、地味だな……」
「でも使い方は色々考えられるんですよ」
強い水をぶつけることで敵の動きを抑え、傷つけることなく取り押さえたりできる。
「水量を絞れば、お手洗いとか、あるいは水袋代わりに飲み水を出したりとか……」
「!? それはつまり水の確保が楽になるのではないか!?」
王子はまたも驚愕した。
「飲み水の確保は、前線では重要だ。池や川の水は煮沸せねば飲めず、また確保した水も腐ってしまう。この水の杖があれば、いつでも新鮮な水を得られる! これは画期的だ!」
「……よかった。武器に使える魔石を、そんなことで使うとは何事かと怒られるのではないかと思いました」
たぶん、頭の固い魔術師たちだったら、この魔法杖案を一笑に付したんじゃないかな。最初にメイアが言ったように、貴重な魔石を飲料だのに使うのは馬鹿げている、とかどうとか。
「怒るも何も、騎士団長として、こういう団の維持に欠かせないものの確保こそ重要だ!」
レクレス王子は手を組んで、急に私を拝むような姿勢になった。
「アンジェロ、お前はやはり天使だ!」
「ええっ!?」
ち、違いますよ。私は天使なんかじゃ――あ、そういえば私の名前って、天使って意味なんだっけ。そうだよね、うん。名前のことだよね?
大体、これらのアイデアだって、魔道具で実際に存在しているものも少なくない。それを今ある魔石で再現してみただけなんだから!
先にも言ったが、魔術師たちが、武器以外に魔石を使うことをよしとせず、作られなかっただけである。
「それで、アンジェロ。我々は魔石を売却して資金を得るが、それに平行して、これらの魔法杖も採用していきたい。それで問題になるのは、これの製作なのだが……」
「はい。一応、わた……ボクは製作できます。お師匠から学んだので」
「また、お前の魔術師の師匠か」
レクレス王子は眉をひそめた。
「その者を、こちらに呼ぶことはできないのか?」
「……ええっと、大変申し上げ難いのですが、そのお師匠は、『女性』です」
「うっ……。すまん、聞かなかったことにしてくれ」
女苦手体質ゆえ、女性に近づけない王子様である。
「しかし、色々できる人なのだな。アンジェロは、魔法の武器や魔道具製作もできるのだな……。天才ではないか」
「いえ、天才だなんて、そんな……。お師匠の教えがよかったのです」
魔法を使いたい、覚えたいと幼少の頃からメイアにせっついて教えてもらった結果ではあるのだけど。
「あ、それと殿下。レドニーの町に、そのお師匠のお仲間さんが、商会を立ち上げたそうです。人材を集めるのも得意だそうで、おそらくこちらの杖を製作できる職人なども集められるかもしれません」
メイアが作ったという商会が、必要なものを揃えてくれる……というか、こういう事態の時に私をサポートするために作ったらしい。
「アンジェロ」
「は、はい……」
なに、急に真面目な顔をして。それ以上、真摯に見つめられると芯から熱くなってくるんですけど!
「お前、ずっとここにいろ! お前は、レクレス領に幸運を呼び込んだ天使だ!」
やっ、天使呼びはやめてっ。背中がムズムズして、足が勝手にバタバタと動いちゃうじゃない!
はい、我を忘れて悶えました。イケメン王子様、あなたはずるい!