テラーノベル
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新作(没になる可能性大)
「貴方が笑顔を忘れた理由(仮称)」
第1話 優等生は辞めた
君は、一切感情を出さない。
教室内は騒がしい。
小さな紙切れを持って、座席表を見て騒いでいる人達の間に入る。俺も席を確かめるため、紙の数字と、張り出された座席表の数字を照らし合わせる。
席は教室の中央部で、なんとも変わり映えのない、地味な席だなと思った。
隣の席の、細縁の丸眼鏡を掛けた男の子は、静かに本を読んでいる。
「席隣になったし、よろしく」
意を決して話しかけると、
君は少し会釈をして、また本に視線を移す。
「…名前は?」
ぶっきらぼうに訊かれた。
「あぁ、俺?」
「俺、ぼんじゅうる。君、おんりーって言うんだよね?」
「…はい」
「じゃ、これからおんりーちゃんって呼ぶから」
「勝手にどうぞ」
冷たい反応に、思わず少し悲しくなる。
「…ぼんじゅうるさん、第二ボタンは閉めた方がいいと思いますよ」
こちらをちらりとも見ずにそう言われ、慌てて直した。
次の日も、君は全く話そうとしない。
授業中、ちらっと隣の席に座っている君を見る。
綺麗な文字でわかりやすく書かれたノート、書き込まれた教科書。
真面目ちゃんの代名詞のような感じ。
「じゃ、大問2の括弧3、ぼんじゅうる答えろ」
「えっと…」
慌ててノートを見る。
「…そこ、−17xy^5」
君は囁くように教えてくれる。
「えっと…−17xy^5」
「ああ、そうだな、それで、この問題はー」
先生は解説に移って行った。ひとまず安心して、おんりーちゃんに感謝のジェスチャーを送る。
君は相変わらず無視をしてくるけれど、根は優しいんだね。
初夏の庭園。
栽培委員が植えた花を眺め、母さんが作ってくれた美味しい弁当を頂く。
「おんりー、隣の人はどう?」
「おんりーの隣の人ってぼんじゅうるさん、だっけ?」
menに合わせ、おらふくんも話に入ってくる。
「…えっと…ぼんじゅうるさんは…賑やかな人で…楽しそうな人で、よく俺に絡んでくる」
「おんりーに絡んでくる人って結構初めて見るかも…」
「ぼんじゅうるさん?っておんりーのことどう思ってるんだろうね、仲良くしてくれるとええな‼︎」
俺はゆっくりと頷いた。
「ただいま…」
「おんりー、今日の夕飯肉じゃがにしようと思って、お母さん買い物行ってくるね」
「ん…わかった、いってらっしゃい」
そう告げて、2階に上がる。
自室に入り、リュックを置いて、学ランも脱がずにベットに倒れ込む。
「…ぁ、通知」
ポケットから携帯を取り出し、パカっと開ける。
十字キーを操作して、メッセージを確認した。
おらふくんとmenからのメッセージ。
「土曜日ショッピングモールで遊ぼうぜ」
「行きたい」
そう返して、携帯を閉じた。
「おんりー、またテスト100点やん‼︎」
「やっぱ秀才は違いますなぁ」
「そんなことないよ…でも、ありがとう」
「学年1位⁉︎おんりー、すごいすごいっ‼︎」
「おんりーは努力家で、秀才…いや、天才だな‼︎」
「えぇっ…2人とも…ありがとう」
いつもおらふくんとmenは俺を褒めてくれていた。
それは周りもそうだった。
先生も、親も、親戚も、近所の人も。
成績が良くて、努力家だった俺を褒めていた。
でも、俺は、耐えられなかった。
優等生であり続けないといけないという義務感とプレッシャーで、自分の精神は壊れた。
「おんりー…お母さんとご飯食べに行かない…?」
「…いい」
「おんりー、久しぶりにどこかに出かけないか?」
「…ごめん、いいや…」
俺が幾ら学校に行くことを拒んでも、家から出ることを拒んでも、両親は俺を大切にしてくれた。
高校は、普通の県立高校。
中学の時の担任は、「君の成績なら県内トップの学校に進学できる」と必死に勧めてきたけれど、結局ここに入学した。
トップの学校に行ったら、きっとまた優等生にならなきゃいけなかったと思う。
優等生はやめた。
別に、優等生である必要はないんだから。
でも、これを辞めたら、俺は無価値な存在になるかもしれない。
そんなことが頭を巡って、苦しい。
「じゃぁ…行ってきます」
両親はいつも、玄関まで俺を見送ってくれる。
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
学校なんて本当は行きたくないけれど、行くしかないんだ。
「…ぁーあ…おんりー…今日学校来るの遅いねぇ…」
携帯電話をいじって、メールボックスを更新しているおらふくんの横で、こっそり持ってきた携帯ゲーム機で遊んでいる俺。
「おんりーがもっと笑顔になれば…俺達も嬉しいんだけどな…」
「でも…おんりーを笑えなくしたのは…僕達だよ?」
「僕はあの子に、本気でそんなこと言えないよ」
おらふくんは真剣にそう呟く。
俺だって同感だ。あいつにプレッシャーをかけてしまったのは俺達だ。
あいつが壊れてしまった理由が自分達。
幼馴染の人生を狂わせてしまった。
その事実への罪悪感で、気が狂いそうだ。
初夏なはずなのに、蒸し暑くて、蝉が喚いている。
汗がワイシャツを湿らす感覚に、気持ちが悪くなりそうだ。
公園で平日の昼間にただ1人。
ブランコを漕いで遊んでいる…というか、この苦しい気持ちを紛らわしている自分。
「…学校行かないとだよなぁ…」
今行けば、反省文2枚で済むだろう。
でも、足が止まらない。降りることを拒んでいる。
携帯の着信音が鳴ったので見てみると、心配しているという文がつらつらと綴られている。
携帯をまた閉じて、胸ポケットにしまい、ブランコの動きを足で止め、立ち上がった。
昼休みに、君は学校にやってきた。
俺の隣の椅子をいつもよりも気怠そうな動作で引き、そこに座った。
「おんりーちゃん、今日は珍しく遅刻じゃん、どうしたの〜?」
「…理由なんてないです」
「おんりーちゃんも遂にグレたかぁ…優等生だったのに〜」
茶化すように君の背中を軽く押すと、君は急に立ち上がった。
「優等生なんて、とっくに辞めてますよ」
「ねぇ、それってどういう…」
思わず立ち上がり、君の肩に手を置く。
「だから…もう構わないでくださいよ…」
「えっ…えっ…?ごっ…ごめん、おんりーちゃん‼︎」
振り返った君は、目に涙を溜めて、
「もう放っておいてよ‼︎」
これまでに聞いたことがないくらいの大声でそう叫んで、俺の手をはらい、走ってどこかに行ってしまった。
そこに取り残され、ざわつく周りがコマ送りのように見えた。
屋上に続く階段をふらふらとした足取りで登り、ドアを開ける。
そこにはいつも通り、2人がいた。
「おんりー‼︎やっときた…って、大丈夫⁉︎」
「どうしたんだよ‼︎」
2人が駆け寄ってくると、涙が溢れ出した。
「優等生じゃなくてごめんなさい…」
「みんなからの期待…応えられなくてごめんなさい…」
次回 いつか
コメント
2件
最高すぎます…! プレッシャーにっていうのが共感性高くて、w 続きも楽しみです😖😖