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やばい、と頭の中で警告の赤ランプが点滅し始めた。
どうやらこれは、孫の相手として目をつけられたということか?
「……ですが。松田さんのお孫さんならまだお若いでしょう。私はもう三十一ですし。もっと若い将来有望な男性のほうがいいですよ」
「君は将来有望だろう。それに孫は社交的なのはいいんだが、ふらふらしていてね。家族の欲目もあるんだが、なかなかの美人だ。変な男に言い寄られる前に、少し年上の、落ち着いた男性とうまくいってくれたならと私も息子も思っていてね」
「しかし……その」
「それとも、将来を約束している女性がいるのかね?」
眼鏡の奥から油断ならない視線を向けてくる松田副頭取。
そんな女性は……いない。
ただ、気になっている女性はいる。気持ちも言葉にした。けれど彼女から来たのは曖昧な返答だった。
“変わりたい。だから甘えたくない”
“一緒にいたら、好きになってしまうから”
“……今じゃないです”
今じゃないならいつなんだ。
そう問いただしたい気持ちもあったが、あえて彼女の気持ちを尊重したのは、彼女の本気を感じ取ったからだ。
だから待つと決めて、彼女の手を放した。それがもう、ふた月も前のこと。
今まで待つことを避けてきた俺にとっては、ひどく苦しい二ヵ月だった。
希望だけを秘めた恋は、結局は羽化さえしていない卵のようなものだ。
いつか生まれると当然のように期待していたが、まっとうに生まれてくるとは限らない。
殻が割れていないから分からないだけで、もしかしたらもう死んでいる恋なのかも知れないんだ。
そんな不安がよぎったのは、やはり俺も弱気になっていたからなのだろう。
松田副頭取の鋭い視線から逃がれられるほど、俺は彼女を信じきれていなかった。
気持ちの揺らぎを見逃さない熟練の企業人は、小さな迷いを見逃さず、更に畳みかけてくる。
「なに、まずは会ってみないと分からないだろう? お見合いみたいなものだと思ってくれ。別に無理に孫と結婚してほしいと言っているわけじゃないんだ」
「はあ」
「若い子に、社会経験させると思ってくれればいいよ」
「……ちょっと考えさせてください」
明言をさせる形で俺はそう返事をした。
自分も会社をまとめる立場にあって、思う。
迷うことは、決して悪いことではない。悪いのは、迷いから目をそらすことだ。
待つのは苦手だ。
そろそろ、彼女――咲坂静乃との関係を考え直さなければいけない時期なのかも知れない。
コメント
1件
深山さん、副頭取にスカウトされちゃいましたね……。彼の「羽化していない卵」の比喩がすごく響きました。待つことがどれだけ苦しいか、彼の立場から丁寧に描かれていて、思わず応援したくなりました。静乃さんとの関係、どうなるんだろう……続きが気になります!
鷹槻れん

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鷹槻れん

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#年の差
水無月 京
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#大人の恋
月詠 涼
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