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【登場人物】
明島 千秋 高1
庄野 広正 高3
桃井 春樹 高3
砂原 葵 高3
【好きな人には恋人がいました。】
俺!明島千秋は、この度「下ノ井東高校」に入学しました。
「この度は、ご入学おめでとうございます。」
校長が舞台上で、在り来りな話を長々とし始めた。挨拶が終わると、担任が次々に発表され、教室に移動した。
教室では、担任が軽く自己紹介をし始めた。
「3組の担任になった、浅村優斗です。1年間よろしく!」
入学式を終え、母親と校門前で記念写真を撮り終えた際、俺の携帯がピロンっとなり通知を見て、走り出した。
「母ちゃん!先帰っといて」
「え!千秋!?」
俺は、急いで屋上 に向かった。
「せ、先輩!」
「お、千秋!速かったな!」
荒い呼吸を整え、喋り始める。
「春樹先輩!無事、受かりましたよ!」
「おめでと、千秋」
春樹は腕を広げ、「おいで」と言わんばかりの様子に明島は春樹の胸に飛び込んだ。
「春、浮気?」
春樹の胸に沈めていた顔を離し、見上げると180cm越えの男が春樹先輩の後ろに立っていた。
「違ぇよ!中学の後輩 前に話しただろ!」
「聞いてないし、覚えてない」
180cmの男が、春樹先輩を背後から抱きしめていた。
「ッ!春樹先輩 誰?その人、、、」
「砂原葵、えっと、、、」
春樹の言葉を遮って、砂原が喋り出す。
「春樹の恋人、あげないよ、、」
「えっ!」
俺は、その言葉に動揺していた。
中1の頃好きになって、3年間追い続けた人に恋人が出来ていた、、、
「お、俺 母親待たせてるんで、帰ります 」
「門まで送るわ。」
「ッ、、、大丈夫です(やばい、、、)」
千秋は走り階段を降りている最中、足が絡まり転げ落ちた。立ち上がり、人気の無い校舎裏で涙をこぼした。
「ッ!、、、グス 」
不意に声をかけられた。
「、、、迷子?」
ビクリと肩が跳ねた。
顔を上げ、振り向くと窓から顔をだしている、知らない人が立っていた。
緩んだネクタイで先輩と同じく、赤いネクタイだった。
「新入生だろ?校舎裏で泣いてるとか通報案件だぞ」
「ッ、、、泣いてないです」
「んじゃ、それなんだよ」俺の強がりに、笑いつつもそれ以上踏み事なく、ティッシュを差し出した。
「俺、3年の庄野、庄野広正。外まだ寒いんだから風邪引くぞ」
「はい、、、ありがとうございます」
庄野先輩は、「じゃあな」と手を振って去っていった。俺は、もうこの人と関わることはないと思っていた、、、
次の日。
校舎裏で泣いた事なんて忘れたフリをして、千秋は教室で机に顔を伏せていた。
昼休み、出席番号が後ろの浅村優人に話しかけられ、一緒に飯を食べることになった。
教室で弁当を開けると、廊下から見覚えの背中がふと目に入る。
3年の庄野広正だった。
目が合った。
ほんの一瞬、先輩が口角を上げ、俺に向かって指を立てる。
「お!迷子発見」
その言葉に、浅村は首を傾げて「知り合い?」と尋ねるが、俺は首を左右に振る。
庄野は楽しそうに手を振ってその場を去って行った。
「ッ、、(なんなんだよ、あの人)」
俺は、顔が熱くなる。
昨日の事をからかわれたのに、胸の奥が少し暖かくなった、、、自分でも何でか分からなかった。
放課後。
昇降口で庄野と出会した。
「お、迷子じゃん!」
先輩はからかう様に、笑顔で俺を呼んだ。
「迷子じゃないです!」
「じゃ、名前教えて」
唐突な言葉に、千秋は少し黙り込む。
「、、、明島千秋です」
「うん、わかった!千秋、ね。」
先輩の呼ぶ声がなんだかとても心地よくて、胸の奥がまた少し熱くなる。
「千秋、昨日泣いてただろ?」
「ッ、、、!だから、泣いてないって言ったじゃないですか!」
「あ〜、そうだった」と笑う庄野の顔が夕日の逆光で眩しかった。
「ッ///」千秋は顔を背けて、地面を見つめた。
「昨日、ありがとうございました」
「ん?えっと、、、何が?」先輩は俺の感謝に対し、首を傾げていた。
「ティッシュ、くれたじゃないですか!」
「あー、いや、あれは善意というか、、、泣き顔放っとけなかったし。」
俺が顔を上げると、先輩の表情は先程とは違い少し真面目な顔をしていた。
「廊下歩いてたら、目に入って気になったんだよ。」
俺は、また目を逸らしてしまった。
「泣いても、いいんじゃねぇの?」先輩は続け様にそう言った。
俺は何も言えず、沈黙を破るように庄野が軽く息を吐いた。
「ま、いいや。またな、千秋」
手を軽く上げ、歩き去る。
少し胸がざわついた。
「(なんなんだよ、あの人、、、)」
しかし、その日から千秋は校内で庄野のことを探すようになっていた。
廊下、グラウンド、食堂で。
目が合えば、いつもの笑顔。
「お!今日も迷わず辿り着けたか?」
「大丈夫です!」
「そっか、良かったな!」
からかわれる度、鼓動が高鳴る。
悔しいのか、嬉しいのかは、俺にも分からなかった。
放課後。
廊下を歩いてると、後ろから声が掛かった 。
「おーい、千秋。」
振り返ると、庄野先輩が片手をポケットに突っ込んでもう片方の手を振って歩いてくる。
いつもより少し息が上がっている。
「な、なんですか?」
「暇?」
「いや、いきなりなんですか?」
「うちの部、マネージャーが風邪引いて、、、ちょっと手伝ってくんね?」
断わろうと考えたが、言葉に出来なかった。
先に、嫌という感情より先輩のバスケ姿を見たいと思ってしまった。
「、、、いいですよ。」
庄野に連れられ向かったのは、部室棟だった。
扉を開けると、見覚えのある横顔があった。
「!、、、(春樹先輩の、、、)砂原先輩」
「ん?あっ、春の後輩 へぇ〜、広正に捕まったんだ」
「“捕まった”言うな!強制してるみたいだろうが!」
庄野が笑いながら砂原の肩を小突く。
「助かる。うちの部、人手足りなくて。バスケ部、知ってる?」
「え、バスケ部……?」
春樹先輩も昔、同じ部にいた。
思い出すと、少し胸が痛む。
「砂原、タオルどうすんの?」
「倉庫の奥。春樹の後輩くん、、、?」
「えっと、、、俺、明島千秋です」
「千秋、これ、持ってって」
「は、はい」
部室の奥に砂原に頼まれた箱を運ぶと、壁に貼られた写真が目に入った。
そこには、笑う春樹先輩と、隣に寄り添う砂原葵の姿。
「ッ、、、(やっぱり、似合ってる。)」
その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
「……千秋」
振り返ると、庄野が立っていた。
優しく目を細めて、言う。
「そんな顔、すんな」
俺は、今どんな顔してるんだろう。
一瞬、息が詰まった。
その瞳は、何もかも見透かしているようで
怖いほどに、優しかった。
部活の手伝いを終え、昇降口に向かう途中。
角を曲がった瞬間、誰かと肩がぶつかった。
「ごめッ、、、」
「……千秋?」
顔を上げると、春樹先輩だった。
目が合った瞬間、時間が止まる。
「久しぶり。高校でも頑張ってるみたいだな」
「……はい」
笑って言う声が、優しくて、懐かしくて。
でも、その背後から砂原が顔を出す。
「春、帰ろ」
「うん、今行く」
砂原は少しだけ申し訳なさそうに千秋を見たあと、 「またな」とだけ言って去っていった。
その背中を見送るしかなかった。
胸の奥が、あの時、入学式の日と同じ痛みで軋む。
でも、その瞬間
背後からそっと肩を叩かれた。
「ほら、迷子になってる」
庄野先輩が立っていた。
いつもの軽い声。しかし、その目だけが真剣だった。
校舎裏に夕日が差し込む。
風が冷たく、二人の間に落ち葉が舞った。
「……好きだったんだろ」
千秋は驚いたように顔を上げる。
「顔に出てる。てか、分かりやすい」
「そんな事ないです、、、」
「でも、泣きそうな顔してる」
庄野が距離を縮め、 息が詰まる。
「俺さ、あん時思ったんだよ。校舎裏で泣いてたお前、放っとけねぇなって」
「……」
「それから、ずっと気になってた」
真っ直ぐな声。
冗談も軽口もなくて、まるで告白のようだ。
「泣くのは似合わねぇ。だから、、俺がもう、泣かせねぇようにしてやる」
千秋は言葉を失った。
胸の奥で、何かが静かに崩れていく。
春樹の笑顔よりも、今の庄野の瞳が、 ずっと強く、温かく、心に焼きついて離れなかった。
その日は、先輩が駅まで送ってくれた。たわいもない話をしたが余り思い出せない。
次の日。
グラウンドの隅、夕日に染まった影が二つ並ぶ。
ボールを蹴りながら、何かを考え込んでいる。 千秋。
あいつ、表情がすぐ顔に出る。
笑えば全部明るくなるくせに、落ち込むと世界まで灰色にするタイプだ。
「千秋」
声をかけると、びくっと肩が動く。
あの頃と同じ反応に、思わず笑った。
「……庄野先輩」
「何してんの。迷子?」
いつもの調子で言うと、千秋は少しむっとした顔をして振り返った。
けど、そのあとすぐに、ふっと笑った。
それが、初めてちゃんと見た “迷子じゃない顔”だった。
「もう、迷ってません」
「へぇ、そりゃ残念」
「なんで残念なんですか」
「迷ってる方が、探す理由になるだろ?」
千秋が目を見開いて、ぽかんとする。
その反応が可愛くて、俺はつい笑ってしまった。
「……先輩、ほんとずるいです」
「そうか?」
「けど、、、俺」
「、、、?」
「迷子じゃなくても、先輩探して欲しいです!」
勢いに任せて、千秋が思っていることを言い捨てた。
あの日、校舎裏で泣いてた子が、
今こうして俺の前で、まっすぐ言葉をぶつけてくる。
「……やっぱ、お前ずるいな」
「え?」
「そんな顔されたら我慢出来ねぇわ。」
手を伸ばして、頬にかかった髪をそっと払う。
そう言って、庄野は千秋の手首を引き寄せた。
次の瞬間、唇が重なる。
千秋が目を丸くして、でも、すぐに笑った。
その笑顔が、夕日に溶けていく。
「……おい、千秋」
「はい?」
「お前が迷子でも、迷子じゃなくても、探して、見つけてやるから」
千秋は顔を真っ赤にしながら、 笑って頷いた。
『もう、泣かせない。』
俺はその笑顔を、何よりも守りたいと思った。
俺は、ようやく“迷子”を見つけた。