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第6話【君を殺して、愛した】
ふと目覚めるとそこは
〇△病棟だった。
周りには本部の制服を着た
失踪中の本部員が大勢倒れている。
その中に
湊さんの姿は無かった。
“いい加減応えんか!!”
〇△病棟の外で
湊さんの声が聞こえた。
私はすぐに立ち上がり
声の元へと走る。
その場所に着くと
湊さんと金髪の少女が居た。
“あら、目覚めたのね”
金髪の少女は私に話しかけてくる。
振り返った姿の湊さんは
絶望感と罪悪感に包まれた表情をしていた。
“初めまして、私はアリス”
“ずっと貴方に会いたかったの”
“桜庭 結城”
金髪の少女は
本部が追っていた”アリス”だった。
“結城、1回下がんで”
いつもより低い声で
湊さんは私にそう提案をする。
その瞬間
体が全く動かなかった。
まるで金縛りかのように。
“桜庭結城は逃がしませんよ”
私の背後からは
うさ耳の青年が話しかけていた。
湊さんの方を振り返ると
猫目の青年と闘っていた。
“お前らみたいなやつは初めてだよ”
“アリスの夢に耐えられるなんて”
楽しそうに話す猫目の青年に
湊さんは必死に対抗していた。
“お前らの目的はなんなんや…!!”
“紗夜は…どうなったん…!!”
紗夜…聞いたことのある名だった。
私は湊さんがなぜ
あんな表情だったのかを悟った。
“紗夜…!!”
湊さんの声に
アリスの表情は変わった。
まるで全部を
思い出したかのように―。
〜〇△病棟〜
006号室の患者さん
例の病気、治らないんだって
まだ若いのに、可哀想ね
看護師の変な心配が
廊下から聞こえてくる。
死ぬと分かっているのに
無駄な心配なんかして馬鹿みたい。
そんな事を思っていると
病室のドアが急に開く。
“紗夜!すまん!仕事長引いてもうた!”
湊は私の彼氏で、婚約者だった。
私が普通の人間なら―。
“忙しいならお見舞い良かったのに”
本当は来て欲しく無いだけ
この病院の看護師は
私の症状を偽って伝えているらしい。
湊もどうせ、私の事なんて…
きっと死んでも忘れるんだろう。
“紗夜が退院したら、どこ行こうか”
湊が急に話を振ってくる。
こういう性格には慣れたものだ。
“私は湊と居れれば幸せだよ”
“紗夜、愛してんで”
“私…何してるんだろうね”
アリスは湊さんの言葉に
そう言い返した。
“君は本当にアリスなの?”
“帰ってきてよ、紗夜―。”
私はただ、初めて愛した彼に
“ここに居てもいい”って
言って欲しかったんだ。
湊さんは泣き出すアリスに
優しく抱きしめた。
私はその姿が
昔、両親と抱き合った事を重ね
ふと涙を零した―。
“湊、最後にお願いがあるの”
“私を…殺して”
湊さんはそっと刃を出し
アリスの胸に突き出した。
“最後の望みくらい、叶えんとな”
“今までありがとな、紗夜”
2人の儚い愛は
そこで途絶えたのであった。