『9回の表、プリンセスガーディアン・ハイスクールの攻撃は、5番・サード・イリス君』
プリンセスガーディアン・ハイスクールの先頭打者が左打席に入る。
1球目。
龍之介が投球動作に入った。
(……とりあえずアウトコース低めで様子見だ)
アウトコース低めは、ストライクゾーンの中でも最も無難なコースと言われている。
なぜならば、打者の目や体から最も離れた位置だからだ。
まず、ストライクかボールかを見極める難易度が高い。
そしてボール球を振れば、大抵は空振りかファウルボールとなる。
ストライクを見極めて打ちにいったとしても、体から遠いためスイングの力をボールに伝えることができない。
結果的に、ボールがバットに当たったとしてもパワーのない打球になる可能性が高いのだ。
ついでに言えば、万が一すっぽ抜けてコントロールが乱れても、デッドボールになるリスクは小さい。
しかし、そのアウトコース低めの投球を……
「はぁっ!!」
イリスは打ち返した。
打球は鋭いライナーとなってレフト前へと落ちる。
(くっ……! これまでなら、あのコースをヒットにはできなかったはず……! やはり、さっきの【王女の勅命】の効果が……)
龍之介は歯を食いしばる。
この回を0点に抑えれば、その時点で勝ちなのだ。
しかし、姫様からの激励を受けた今のプリンセスガーディアン打線相手には不安が残る。
――そして、その不安は的中した。
『プリンセスガーディアン・ハイスクール、最終回で怒涛の連打です! これでツーアウトながらもランナー満塁となりました!!』
桃色青春高校は大ピンチを迎えていた。
姫様からの激励により、相手打線の集中力は極限まで高まっている。
ユイの存在により盗塁を許さず、アイリやノゾミの好守により何とかアウトを2つ取ることができた。
しかしながら、ランナーは満塁だ。
そして、迎えるのは――
『1番・ショート・ソフィ君』
プリンセスガーディアン・ハイスクールのキャプテンであるソフィだ。
彼女が左打席に入る。
「ふふふ……。今の私たちを相手に、ツーアウトを取ったことは称賛に値します。しかし、あなた方の命運もここまで。行きますよ……!!」
ソフィはバットを構えると、静かに微笑んだ。
その可愛らしい姿からは想像できないほどの威圧感だ。
龍之介はごくりと唾を飲む。
「さぁ、龍之介さん! どこからでもかかって来なさい!!」
「ああ……。いくぞっ!!」
龍之介が投球する。
しかし、彼女の迫力に気圧されてしまったのか、ボール球が先行してしまった。
『ボール・ツー!』
「た、タイムですわ!!」
キャッチャーのユイがタイムをかけて、ソフィとの勝負を一時中断させる。
マウンドの龍之介に仲間たちが駆け寄っていく。
龍之介は深呼吸をすると、冷や汗をぬぐった。
「はぁ……はぁ……。くそ……! まさかここまで劇的に変わるとはな……」
「そうですね……。わたくしたちも一生懸命に練習をしてきましたが、やはり元からの球児たちの底力は侮れませんわ」
「でも、負けるわけにはいきません! 龍様の、そして私たちの未来のために!!」
龍之介が少しばかりの弱音を吐く。
それにユイとミオが反応した。
さらには、アイリとノゾミもそれに続く。
「うん。相手の守備も打撃も厄介だけど……。ボクだって、守備なら負けてないつもりだよ! 龍之介、こうなったらどんどん打たせちゃってよ!」
「センターの守備はわたしに任せてください。どんな打球だって、全力で追いかけますっ!」
彼女たちの言葉に、龍之介は勇気づけられた。
そして、彼はチームメイトを見て微笑む。
「やはり……俺たちは最高のチームだ! 最後の1人! 引き締めていくぞ!!」
「「「「おーーっ!!!」」」」
龍之介の号令と共に、少女たちはグラウンドへと散っていく。
彼女たちの瞳に迷いはない。
最後の最後まで、勝利を信じて戦うのだ。
(頼むぜ、皆……)
龍之介はキャッチャーのユイと再び目を合わせる。
そして、大きく振りかぶったのだった。
123456789 計
―――――――――――――――――
プリンセスガ|00000000 |0|
桃色青春|00010000 |1|
―――――――――――――――――
9回表、プリンセスガーディアン・ハイスクールの攻撃中
ツーアウト・ランナー満塁
バッター:1番遊・ソフィ
ツーボール・ノーストライク
【高校野球】2099年東京都秋大会雑談スレ20【ダークホース桃色青春高校】
224:代走名無し@野球大好きオジサン
まだかろうじて無失点か……
あと1人で試合終了だが……
225:代走名無し@野球大好きオジサン
桃色青春高校、よく頑張ってる!
しかし、これはさすがにやばいな
226:代走名無し@野球大好きオジサン
プリンセスガーディアン・ハイスクールの打線が別物すぎる
姫様の激励がこれほどの効果を持つとは……
最初からやってたら、楽勝だったんじゃね?www
227:代走名無し@野球大好きオジサン
226 そう上手くはいかない
たぶんだが、一種の過集中状態だ
あんな精神状態で9イニング戦えるわけないだろ
228:代走名無し@野球大好きオジサン
そうだな、完全に限界を超えている……
この最終回の攻防に全てを賭けているっぽいな
桃色青春高校は、この大ピンチを乗り切ることができるのか……?
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