第3章 最初の一筆
START__
「で、君は?」
今度は彼が私に問いかける番だった。戸惑いながらも、自分の名前を小さく口にした。
「…花羽〇〇。」
マイキーはその名前を一度繰り返すと、満足げに頷いた。
「〇〇か!今日から俺のダチな?」
そう言って彼は、再びにっこりと笑い、去っていった。その背中を見送りながら、私は胸の中で何かが変わるのを感じていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
マイキー君が去った後、回復した足で、家…じゃなくて、病院の方へと歩き始めた。帰っている途中も、マイキーとの出会いが私の心に強く残っていた。その一言一言が心の奥に響き、私の中に小さな変化が生まれつつあった。
(私も、あんな風に強くなれるのかな…?)
病弱で、小さな体。みんなに守られるばかりで、自分の力では何もできない自分…。そんな自分が変わりたいと願い、立ち向かうことができるのだろうか。
病院の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。カバンからスケッチブックを取り出すと、ふと今日の出来事が頭をもう一度よぎる。マイキー君の堂々とした姿と、ふわっとした優しい笑顔が、何度も思い出されて胸が熱くなる。
(あんなふうに、私も強くなりたい…)
彼女はその思いを胸に、スケッチブックをそっと開いた。何も描かれていない空白のページを見つめながら、いつもとは違う新しいような感情がわき上がるのを感じた。
(あんな風に、私も…強くなれたら…)
そう想いながら、しばらく空白のページを見つめていた。やがてペンを握りしめ、ゆっくりと最初の一筆を描き始めた。私が描いたのは、大きな翼を持つ姿。現実の自分とは違い、力強く、どこまでも飛んでいけるような、自由で凛とした表情の「目標の自分」。スケッチブックの中で、彼女の小さな夢がかたちを持ち始めていた。
「これが、いつかの私……」
少し恥ずかしさも感じながら、その羽のある「未来の自分」を見つめる。
彼女はスケッチブックに描かれた羽を持つ自分を見つめ、
「強くなりたい。絶対に強くなる!」
いつも、強くなりたい。走り回りたい。いいな…。と思いながら、窓の外を眺めていただった。でも今回は違かった。
「強くなりたい」この気持ちが、これまで以上よりずっとずっと強い思いに変わっていた。
ただ見つめていて、理想を描いて、羨んでいた私とはお別れ。確かな決意が心に宿った瞬間だった。描かれた「目標の自分」に向けて、彼女は密かに誓いを立てた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スケッチブックを閉じた彼女の表情には、ほんの少しだけど自信が芽生えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はスケッチブックをそっとカバンにしまい、描いていてこってしまった体を起こした。まだ体は弱く、少し動くだけでも疲れてしまうけれど、その心には新たな光が灯っている。今の私には、小さな一歩がどれほど大きな意味を持つかがわかっていた。
集中しすぎていたな…。もう窓の外には、夕焼けが街を染め、赤く輝く空が広がっていた。その景色に目を向けながら彼女は思う。
「頑張らなきゃね。」
「ありがとう。マイキー君」
小さく呟いた。
Next___.
第4話→
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!