夜の帳が降りる頃、部屋の証明を消して窓辺に立った。夜中でも灯りの消えないこの街は、夜目の効く俺には少し明るすぎる。眩しい灯りから目を逸らし、そっとまぶたを閉じた。
昼の間は腹の奥底の方に閉じ込めているモノをゆっくりと引き出していく。それを身体に馴染ませるように循環させ、本来の姿へと戻していく。シュルシュルっと音を立てて伸びていく細くしなやかなしっぽ。背中には夜の漆黒に染められたような羽。頭にはちいさな角。着ていた服は消え去り、体にピッタリと張り付いたような手袋と大事なところだけを隠すようなものに変わっていた。
「んー……やっぱりこのカッコのがおちつくな」
しっぽを身体に巻き付けながら、フワッと浮き上がって唇をひと舐めした。部屋の中をフワフワと移動しながら、うーんと唸った。
「そろそろ、精気集めんとやなぁ……」
俺の生きる糧は人間の精気。俗に言う、淫魔と呼ばれる俺らは、セフレや恋人から精気を頂いて生きている。俺も以前はそうだった……。
通常、淫魔は不特定多数を相手にすることが多い。だが、恋をしてしまうとそれが出来なくなる。その恋した相手のものしか摂取できなくなるからだ。今の俺がそうだ。
「どうしたもんかなぁ…相手……ニキやしなぁ」
相棒であり、1番の仲間であるニキへ恋心を抱いてしまった。女好きのニキにどう話したものか……悩みすぎて1ヶ月以上精気を摂取出来ていない。流石にそろそろ限界が近かった。電子タバコを咥えて、深く吸い込みながら下腹部にある淫紋を撫でた。これはそれぞれ微妙に違う淫魔の証のようなもので、同じ模様を人間に刻むと契約できるようになっている。契約をした人間は、こちらが破棄をしない限りは、命尽きるまで精気を捧げなければならなくなる。まぁ、俺の場合は恋に落ちた瞬間に全ての契約者との契約が自動的に破棄されたので、誰とも繋がっていない。
限界を超えると、この淫紋が暴走し命を落とす……わりと危険な状態ではあった。
「どうしたもんかなぁ……」
相変わらずフワフワと部屋の中を行ったり来たりしながらボヤいていると、鍵を閉めていたはずの玄関が開き誰かが入ってきた。俺は慌てて戻ろうと床に降りたところで、リビングの戸が開き侵入者と目が合ってしまった。
「ボ……ビー?」
「え?なんでお前がおるん?」
入ってきたのは俺の想い人であるニキだった。俺は、人の姿に戻るのも忘れその場に固まってしまっていた。
ニキは一瞬目を見開いたあと、ゆっくりと俺のそばまでやってきて、おもむろにしっぽを掴んできた。
「んっ……ゃっ……」
そこは、俺らにとっては性感帯で、触られただけでも少し喘いでしまう。不意打ちだったのと、欲求不満も重なって、思いのほか甘い声が出てしまっていた。
それを見たニキはより大きく目を見開き、まじまじと俺の事を見てきた。
「ほんもの……なんだ……」
「んっ……あんま……さわんなや……」
本物かどうか確認するためなのか、根元の辺りをまさぐられるように撫でられ、ビクビクと身体を震わせた。久しく他人に触られていない身体は、いつも以上に敏感になっていて、それだけでも瞳が潤んでいくのがわかった。
そんな俺の様子を見ていたニキは、ニヤッと嫌な笑みを浮かべて俺の事を抱き寄せてきた。
「んん……なんや……」
「ねぇ……ボビー?ボビーのこの格好ってさ……」
「なん……や?」
「エロ漫画とかにある……淫魔ってやつ…だよね?」
「っ……そうだって言ったらなんや?」
ニヤニヤとしながら聞いてくるニキを、軽く睨みながら言っているが、嗅覚も強い俺には想い人であるニキの匂いが近くにあるのは辛かった。それですら今の俺には身体を高める刺激となっていた。
「へぇ…羽とか生えてんだ……あ、角もある…かわいいじゃん……」
いつものニキとは違う、少し欲を纏った声に淫紋がズクンっと疼き出す。あーやばいなぁと思った時には、もう後ろがジクジクと蜜をたらし始めていた。俺の身体にある、淫魔としての特徴を1つずつ確認するかのように優しく触っていくニキ。その緩い刺激が、もどかしくてどんどん情欲をかきたてられていった。
はぁはぁと息が荒くなっていく俺を、ニキは楽しそうな目で見つめている。バカにされてるのかと思い、怒ろうと思ったその刹那、俺の淫紋の辺りにニキの熱く滾り始めたものが当たっているのに気がついた。
「ねぇ…この姿だと体も小さくなるんだね……」
「……るせぇ……」
正確に言えば、相手が抱きやすいサイズに変わるというだけなのだが、そんなことを言っても何も変わらないので放っておくことした。
それよりも、俺はこの俺に当たっている昂りが気になって仕方なかった。今すぐにでもしゃぶりついて、精気を搾り取りたい衝動を必死で抑えていた。精気不足の禁断症状がではじめていた……。
「ん……はぁ……なぁ……」
「なぁに?そんなエロい声だして……」
「この熱いの……どしたん?」
「んー?可愛い子がエロい格好してるからさ……」
「ん?可愛い……子?」
「ふふ……俺の目の前にいるじゃん…とびきり可愛い子♡」
「……え?」
至近距離で、情欲を隠さないギラギラとした目で見つめられて、触ってもいない後ろからどんどんと蜜が溢れていくのがわかった。
そして、無意識のうちに瞳孔の形を捕食タイプのハートの型へと移行させ、ニキへとびきり濃いフェロモンを浴びせた。完璧に限界を超えた瞬間だった。もう、本能的に目の前のニキを捕食対象としてロックオンし、彼の意志とは関係なく存分に精気を搾り取る状態へと入ってしまった。
理性はすでに消し去り、淫魔としての本能のままに動き出した俺は、俺のフェロモンにあてられ、軽い酩酊状態に陥っているニキの体をフワッと浮かべてベッドへと移動させた。
ベッドの上に降ろされたニキは、瞳を潤ませ頬を上気させて薄く唇を開いていた。その姿はとても艶めかしく、下半身で痛そうな程に滾っている彼自身も触ってもいないのにフルフルと揺れていた。
「ニキ……えぇよな?」
「はぁ…はぁ…お前……えろいな……」
「せやろ?……ほら……こんなに濡れてるんやで」
そう言って、ニキの顔の上に跨り濡れそぼっている陰部を目の前にもっていった。それを見たニキが、ゴクリと喉を鳴らしたのを俺は聞き逃さなかった。
「ここ……つかうか?」
「……舐めたい……ヂュル……ペロペロチュプチュプ……」
「んぁぁぁぁぁぁ……んんん……はぁ……ん……」
いきなり身体を襲ってきた強い快感に、身体中が震え喜んだ。ニキは、必死で舐めながら舌を中へねじ込んで来たりしてきていた。ひととおり舐め終わったあと、ニキはいっきに指を2本中へと押し込み、音を立てながら中を掻き回してきた。
「やっ……ぁぁぁぁぁん……ふっんんんん」
「声…抑えないでよ…可愛い声……聞きたい」
「やぁ……ぁぁぁぁんっ……ぁぁぁぁ」
久しくヤッていない身体には強すぎる刺激で、声が抑えられず全身を震わせながら喘ぎ続けた。そんな俺を、下から見つめるニキは催淫効果のある俺のフェロモンの効果が強すぎたのか、息を荒くしながら欲情のせいで潤む目で観察するようにみていた。
しつこいくらいに刺激され、泡立つほどにかき混ぜられた俺は、徐々に体を支えることが出来なくなってきていた。ガクンと膝の力が抜けてニキの顔の上に座り込みそうになった俺を、ニキは支えるようにして持ち上げた。
「ねぇ……いれたい……」
「んん……はぁ……はぁ……えぇで……」
全身から力が抜けていて、ほぼ淫紋に操られている俺は、力の入らない手で両足を持ち上げて穴をニキの目の前に晒した。
その様子をみていたニキは、唇をペロッと舐めてニヤリと笑った。
「エロぉ……いいね…俺好み……」
「ねぇ……はやく……」
「……ナマでいい……?」
「なんでもええから……はやく……」
「っ……いれるよ……」
俺の足を押さえて、一気に腰を進めてくるニキ。無遠慮に掻き分けられる肉壁が、どんどんとニキの形に馴染んでいく。
「ふっ……ぁ……中…やば……」
「はぁ…ビクビクしてる……♡」
中で小刻みに震えるモノを感じ、俺は全身でその存在を感じようと全神経をそこへ集中させた。熱く脈打つソレは、俺の意思とは関係なく収縮する肉壁を押し戻すように一回り大きくなった。
「ぁ……おっきくなった……」
「はぁ……お前の中やばぁ……もたないかも……」
「なんかいでも……ちょ……だい」
「んっ……煽るな……」
苦しそうに眉をひそめ、荒い息を吐きながら言葉を紡ぐニキは、俺の腰を痛いほど強く掴むと、乱暴に腰を前後させ始めた。その勢いに負け、ベッドの上を腰の動きに合わせ上下させられている俺は、しっぽをきゅっと身体に巻き付け、止むことなく与え続けられる快感に酔いしれた。
身体の中では、強すぎる快感のせいか先走りを出しながら必死で出入りするニキ自身が絶頂が近いのか、ビクビクと小刻みに震えていた。
「はやく……なか……だして……」
「おまぇ……なぁ……」
はやく精気を摂取したくて、奥の奥まで吐き出して欲しくて強請るように甘い声を漏らす。それに、苦しそうな顔をしたニキが吐息混じりで不平を言う。そんなもの、精気不足で身体が思うようにならない俺には関係なかった。搾り取るように中をわざと収縮させて、吐精を促した。
その瞬間、ニキは身体を強ばらせて一際奥へと自身を進めるために、強く腰をうちつけてきた。
「くっ……ぁ…………はぁ…はぁ…」
「んぁぁぁぁぁ……ぁ…ぁ…あったかい……」
最奥に大量の熱を吐き出されて、俺は全身を震わせながら歓喜した。そこから染み込んでくる精気が身体を駆け巡り、一際大きな快感が全身を支配する。こんなに深い快感を得られたのは初めてだった。
「にきぃ……」
「なぁに?」
「俺の……になってくれん?」
『契約者』という部分をぼやかして、ニキに提案する。一瞬、キョトンという顔をしたニキは、数秒後言葉の意味を自分なりに処理できたのか、ニヤリと笑って俺の顔を覗き込んできた。
「俺と付き合ってくれるってこと?」
「え?……お前れ俺のこと好きなん?」
「なにいまさらw気づいてなかったの?ww」
「いや、分かるわけないやろ……」
「ま、いいや……返事は?」
わざと甘く声を掠れさせ、頬を指先で弄びながら問うてくるニキに、俺はもう抗うことが出来なさそうだった。その瞬間、下腹部の淫紋が熱を持ちゆっくりと形を変えるのがわかった。より複雑な紋が刻まれて、ニキの足の付け根辺りにもおなじ物がスっと現れていた。
「ん……なにこれ?模様?」
「あーそれは淫紋って言って……」
そこから俺は、淫魔という種族について先程ニキの身体にも現れた淫紋についての説明を始めた。それを黙って聞いていたニキは、一瞬何かを考えたあと、ニッコリと笑って俺の顔を覗き込んだ。
「いいねそれ……すごくいい……」
「ええんか?お前、俺に利用されるんやぞ?」
「利用っていうか……これは俺とボビーを繋げるものってことでしょ?」
「まぁ……よく言え……ば?」
「俺はボビーのこと愛してるし、ボビーも俺を求めてる……」
これって最高じゃん……。そう囁くように言われ、俺の身体はまた疼き出した。瞳孔がハート型から戻らない……。発情状態が終わらない俺の身体は、延々と精気を求め続けていた。
「ねぇ…このハートの目ってさ、俺が欲しいって言ってるって事だよね?」
「せやな……」
「じゃあ、もっかい……いい?」
「……えぇで……」
この後俺は、何度も奥に出され俺自身も何度も達して意識を手放した。朝、目が覚めたらちゃんと気持ちを伝えよう……。そう思いながら、深い深い夢の世界へと意識を沈めていった。
コメント
4件
これ、pixivにも投稿されてたやつや、!めちゃこの物語好き~ෆ
最高です