キーンコーンカーンコーン…
「3時間目はなんだっけ?」
短髪の青年が俺に向かって言う。
少し怠い頭を持ち上げながら、黒板横に貼ってある予定表に目を凝らし目の前のソイツに仕方なく返事をしてやる。
「3限目は理学だな…」
「ゲッ!マジかよ…」
あの先生嫌いなんだよな…と呟きながらもそそくさと移動教室の準備を始める彼を見送る。
自分も準備をしようと引き出しの中から教科書、ノート、メモ帳を取り出す。
いそいそと準備を終わらせた彼がその光景を目の当たりにしたらしく、顔を強張らせた。
「またメモ帳なんて持ちやがって…優等生気取りですかこんにゃろ〜」
人差し指でおでこを何度か小突く。
少し痛いそれを片手で払いのけ、椅子から無理矢理立ち上がると同時に彼の横に立ってやる。
「まぁ…お前よりかは優等生ですかね」
「はぁー⁉︎」
皮肉を垂れてやると、まんまと引っかかる彼に多少笑みが溢れる。
まぁ、そんなことないですぅ〜と口を尖らせて言う彼は学年トップ5に入っている1人だが。
僕は香坂花枝(こうさかはなえ)。16歳。
可愛らしい名前に似合う可愛らしい男の子だ。
生前の名は能浦千晃。
警察官をしていた事もあり、元から優等生だったので現高校生の問題となれば簡単に解ける。
が、油断は禁物と勉学に励んでいる。
なぜ生まれ変わったのかは自分も分からない。
漫画のような生まれ変わりで、熱で寝込んでいた青年に僕は移り込んでしまったらしい。
神のイタズラなのか、生きていた世界と全く同じものらしく、今朝のテレビでは僕のことがニュースとして報道されていた。
警察署内で殺人、と。
少し間違えば、この青年も報道される運命にあったのだろうと思うと申し訳ない気分になる。
彼の両親はというと、彼の体の持ち主である僕を認識することはなく今でも”記憶喪失”としてなんとか記憶を取り戻そうと懐かしげのある物を取り出しては僕の前に持ってくる。
中身は全く違う人間だと言うのに…
けれど、説明してしまえば、あの人たちは納得してくれるのだろうか。
自分の息子は死んだ、と説明すれば…
「香坂?」
いつの間にか放課後になった教室にオレンジ色の光が教室を淡く照らしていた。
鞄を片手に意識を飛ばしていた僕に対し、短髪の彼が心配そうに顔を覗かせる。
あぁ…一人称を”僕”にしているのは僕なりの理由があるんだ。
「ごめん、ぼーっとしてた」
「勉学も良いけどほどほどにな?」
頑張りすぎるからぼーっとするんだぞ〜と軽く説教じみたものをし、教室の外に出る彼。
鍵を閉めてくれるのだろう鞄の反対には教室の鍵が握られていた。
「言われなくても分かってるよ」
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