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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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この話はskfnの二次創作です

本人様に関係ないことを理解してください

コメント欄では検索避けをしてください

スクショなどの迷惑行為はやめてください

私コンテスト経験全く無いのですが1回くらい参加してみてもいいのではという事で、ピースさんのコンテストに出させて頂きます。𝖢𝖯紫桃






ワンクッション












業火が燃え盛るこの地にて。今宵も此処に、 迷い人。

ill「お前か」

La「っえ…」

illは、此方こっちを振り返ろうとした人間の後方から手を回し、額に掌を翳す。何の原理か、Laは抵抗するまでも無く気を失うように目を閉じた。







La「っん…」

意識が朦朧とする。なんだ、ここ。

狭い視界の中、見えるのは暗い石の天井。顔を横に向けると、これまた石で作られた格子。

…格子。…檻。


檻?

La「…はっ!?」

一気に目が覚めた。勢いよく体を起こすと少し頭がくらっとした。

La「いや何これ!?どこ!?」

「五月蝿い」

檻の外から聞こえた低い声に目を向ける。

La「っひ…っ」

外には、真っ黒な着物を着た男が此方を見て立っていた。前髪でよく見えない顔は、眼光が鋭く光っているのは分かる。頭からは立派な太い角。真っ黒の仮面のようなものをしている口元は尖った牙のような歯がズラリと並んでいる。誰がどう見ても人間とは言え無いその男は、異様な妖艶さと猛悪さを兼ね備えている。

その威圧感に、息が詰まる。

口が震える中、何とか声を絞り出す。

La「貴方…は?」

ill「…直ぐに敢え無くなる死ぬお前に名を教える意味など無いだろう」

淡々と告げられるその声に感情は籠っていなく、それが不気味さを増す。

La「えっと…じゃあ、此処ここは何処ですか?」

ill「牢に居る間、俺に話しかけるな」

取り着く島もなく、冷たく拒絶するような反応を返される。

La(どうしよ…そもそも、なんでこんな変な場所に来てるんだ…?)

今日の事を、一つ一つ思い出していく。






今朝、Laは自分の家から町に売り込みに行っていた。家を少しでも支えるためだ。途中で人の手伝いをしながら作業は順調に進んで、仲良くさせてもらっている友達の家で軽食を貰った。

隣に座った友達が話す。

「な、La。今日って下弦の月じゃん」

La「うん」

「下弦の月の日に太鼓や鼓、笛の音が聞こえてくるのって知ってる?」

La「ううん、知らない。何それ?」

「俺もよく知らないんだけどさ。その音が聞こえても絶対に近づいたら行けないらしい」

La「ふーん?呪いマジナイ的なものなのかな?」

「…分からない」

肩を竦めてすくめて此方を見る友人に苦笑を返しながら握り飯を頬張った。


その夜。家の事や私事で疲れた体を風呂で癒し、布団を敷いた時にはとっぷりと日が暮れ、もう夜中になっていた。

布団の中に入りいざ寝よう、と言う時。しゃらん、と鈴の音が聞こえた。そして続く太鼓の音。Laはその音色にぐっと興味を惹かれた。好奇心だけではない、人間の奥底にある根っこを掴まれるような、美しい音。

気づいた時には家を出ていた。今でも駆け出したい気持ちと反面、足はゆっくりと動く。段々と音が大きくなってきた。頭の奥で、友人からの忠告が響いた気がするが、もう足は止まらない。

神社に入る門の前、誘うような歌声が響く。

_とおりゃんせ、とおりゃんせ

六道の辻、とおりゃんせ__

門を潜ったその時。暗いはずの石道が、ぱっと明るくなった。道の横側に、提灯チョウチンが置いてあり、楽器を演奏している者が居る。俯いているので一人一人の顔は見えない。もう一息とばかりに、歌声と楽器の音が更に大きくなる。

_とおりゃんせ、とおりゃんせ

六道の辻、とおりゃんせ__

その声に背中を押されるように。ぼんやりとした明かりの中、ゆっくりと足を動かしながら進む。道を歩き、石階段を下りると、そこには。

La「っは…?」

真っ赤に燃え盛る炎が、地面を渦巻いていた。ハッと後ろを振り向くと、先程まであった筈の、階段が無くなっていた。状況が理解出来ずに右往左往する。

La(何ここ…)

とんでもない場所に来てしまったのでは無いかと不安になっていると、突然耳元で声が響いた。

「お前か」

La「っえ…」

後ろから聞こえた声に振り向く余地も無く、意識が遠のいていった。








La(それで、目を覚ましたら此処ここに居たって訳か…)

そういえば、友達が言っていたっけ。下弦の月の日、祭囃子の音が聞こえてきても、絶対に近づくなって。

La(でもそれで、近づいちゃったって事… )

我ながら頭が悪いと思いながら、腕組みをして考える。そもそも、これだけの情報で何か考えるってのも無理な話だ。どうにかして牢を見張っている番人らしき者と話をしたい。だが、相手は何を話しかけても反応しない。どうすればいい物か。ため息をついて手を地面につけると、固いものが当たった。

La「…?」

そこを見ると、そこには掌と同じくらいの平たい石があった。少し考えて、いつも持ち歩いている小さな炭の入れ物と、細筆を取り出す。そして、石に今聞きたいことを書き込んだ。



ill side

ころん、と足元に石が転がる。牢の中に視線を向けると、まるでお願いと言うかのように両手を組んで此方こちらを見ていた。

石を拾って見ると、几帳面そうな綺麗な人間の文字で「此処は何処ですか」と書いてあった。話せないなら書く、という事か。何を言われても会話はしないし教える気もない。

石を投げ捨てると、捕まった人間は明らかに悲しそうな表情を浮かべた。その顔を見て、胸の奥が何故かチクリとする。はっとして、右手で心臓の辺りを抑えるが、異常は何も無い。人間は、檻の中から縋るような目で俺を見てくる。

ill「…チッ」

俺は小さく舌打ちをして、石を拾い上げた。



La side

La(なんか今、舌を鳴らされていた気がするんだけど。)

気の所為だよね。

男の人は石を持って後ろ手に回し、目を伏せた。そのまま此方を見ずに檻の中に投げ入れる。格子の隙間から石を入れられるのはなかなか器用なものだ。

石を見ると、そこには「六道のうちの1つ、地獄だ」と書いてある。

…え。

La(地獄?俺、死んだってこと?)

訳が分からず、石に書こうとして、思い返す。

La(そういえば、表裏に書いたらもう書く場所無いか)

…だが。石をひっくり返すと、そこには何も書いていない綺麗な石面がつやっとしていた。

La(…なんで?)

人間では無い者、特殊な能力でもあるのだろうか。とりあえず、質問を書いて檻の外に投げると、また石を眺める。一瞬で帰ってきた石には「まだ、死んでいない」と書いてあった。

『じゃあ、どうして地獄に』

『お前が人間界に居てはならなくなったからだ』

『何故ですか』

『そういう決まりだ。詳しい事は分からない』

『俺は、どうなるんですか』

『十五日後の満月。その時が来たらお前は殺される』

「殺される」という文字に、心臓が波打つ。はやる気持ちを抑えながら石に書き込む。

『どうして』

『そういう決まり、だからだ』

『もっと詳しく教えてください』

縋るような思いで書くと、男の人は一瞬迷うように動きを止め、すぐに石を投げて寄こした。

『それは、教えられない。』

『どうしてですか』

『禁止されているからだ。悪いが自分の命を削ってまで答える気は無い』

La「…っ」

分からない。何故俺が。

俺は、何もしていないのに。

涙が、出てきそうだ。


コツン。突然石を叩くような音がして、慌てて顔を上げる。男の人が俺のすぐそばに座って、此方を見ていた。格子越しにみえる目は、困ったように細められていて。

きっと、根は優しい人なのだろう。

涙目のまま見つめると、居心地が悪そうにふっと目を逸らす。でも、初めて見た時のような怖さはあまり感じられなくなっていた。

男の人が、胡座あぐらをかきながら呟く。

ill「これは、独り言だ」

La「!」

ill「まだ、ニ週間あるから」

男の人は、少し間を開けて言った。


ill「少しだけなら、話し相手になる」

La「え…」

ふいっと横を向いて石を投げ入れるこの人の耳は、心做しかほんのり朱色に染まっていた。




ill side

Laが此処に連れてこられて八日が経った。あれから直ぐにLaは自分の名前を教えてくれたが、まだ俺は名を名乗っていない。その為、角が生えているという理由で鬼だなんてあだ名が付けられてしまった。

でも、俺からしても一日中檻の横に立っているのも暇なのでLaと石を交換しながら話すのは意外と楽しい。Laが炭を使いきった時には俺がバレないように取りに行ったのも良い事では無いけれど刺激にはなった。

今日も、Laから石が送られる。

『ね、もう一週間経った?』

『そうだな。八日』

Laの動きがぴたっと止まる。不思議に思い石を見ると、

『じゃあ、あと半分だね』

と書いてあって、胸がドキリとした。


半分。確かにそうだ。今日で八日なら、あと七日と少しで周期が来る。分かっていたはずだ。分かって…いた。

コツ、と音がして石が出てくる。

書いてあったのは

『じゃあ、今日は半端な形の月が見れるの?』

だった。裏を見ると先程書いていた内容が黒く塗りつぶされていた。

それを見て、胸が締め付けられるように痛む。自分や俺を気落とさせないためか。自然と呼吸が早くなって。自分を落ち着けるために深呼吸をする。

落ち着け。…落ち着け。

なんとか息を整えて、石を返す。

『なんだ、半端って。そうだな。今日は半端月の日だ』

『いいなあ、月。見たかった』

我慢しろ。そう書こうとして、踏みとどまる。外に出るくらい…いや、ダメだ。そんな事をしたら何が待っているか分からない。でも、一週間以上ずっとここに居ても鬱憤が溜まっていくだけではないか。でも、何か余計な事をして一緒に居られなくなったら。だけど。


「すみません。」

ぐるぐると考えを巡らせていると、前から声が聞こえる。

ill「…っはい」

顔を上げると、俺と同い年くらいのここの世界の者が居た。

「上の方から、お呼び出しです。」

ill「…分かった」


牢から出て、上に上がる。この城の最上級が地獄の摩訶不思議な者の中で一番上の位の妖怪が住んでいる場所だ。

「失礼します。牢の番人の紫暮しぐれです。お呼び出しを受けて参りました」

畳に額をつけて待つ。

「顔を上げよ」

その声にそろそろとそれに従うと、早速だが、と始まり要件を話す。

「様子はどうだ」

ill「始めは怯えた様子が目立ちましたが、今では大人しくしています」

「そうか。」

「…ところで、その神の者と戯れをしているようだが」

ill「っ!」

何故、バレた。

「まさか、その者に情を抱いている訳ではあるまいな」

心臓が打ち鐘の如く早く鳴り始める。

ill「…いいえ。」

動揺を隠し、堂々としたら態度を向ける。

ill「少し油断させた方が良いかと思っただけです」

ill「やはり、今回の人間は死んだら神になるという私達より高くなる存在」

ill「此処で殺して封印するというのも神の者となれば危険です故」

探る様に俺の顔を見つめる怪に冷や汗をかく。こちらもじっと見返すと、ふうとため息をついた。

「では、もう良い。帰って見張り番を続けろ」

ill「御意」



さっきは危なかった。何か勘づかれても良くない。

牢屋に戻ると、足音に気づいてLaが顔を上げた。ぽそっと呟く。

La「おかえり」

ill「…ただいま」

Laが驚いたように少し目を見開き、口元に手をやりくすくすと笑った。

少しむっとし、なんだよと返す。Laが何かを書いて石を渡してくるので、また牢屋のそばに座る。

『鬼さんがただいまって返事してくれるとは思ってなくて』

ill「…」

なんとも言えない気持ちになり、遠くを見る。その様子を見たLaがまたくすくすと笑った。

俺は小さくため息をついて、ボソリと言う。

ill「…ぃ…」

La「ん?」

声が小さくて聞こえなかったのか、首を傾げて聞き返すLa。俺はその不思議そうな目を見て言った。

ill「…いるま。」

La「…ぇ」

ill「…..俺の名前」

大きな目を見開くLaにこっちが気恥ずかしくなって顔を逸らした。

数秒後、Laが呟く。

La「いる、ま」

ill「…ん」

La「そっか、いるま、か」

La「いるま、いるま」

何度も何度も俺の名前を言うLaに言う。

ill「あんま言わなくていいよ」

La「ん、やだよ。やっと教えてくれたんだもん」

牢の壁に寄りかかって微笑むらんに、また胸がドキリとした。

本当に、おかしい。こんな事今まで無かったのに。

La「まあ、俺が死ぬ迄に吐かせようとは思ってたけどね」

冗談混じりに躊躇いもなく言った言葉に心がずしりと重くなる。


ill「…怖くねえの?」

La「…え?」

ぽつりと零した言葉に、戸惑ったような声を上げるLa。

ill「だって…此処に迷い込むその日まで、普通に暮らしてたんだろ」

ill「楽しく、普通に」

それを、俺らは…。

La「…そう、だけどさ」

Laが静かに、淡々と声を出す。

La「だって…仕方ないじゃん?」

ill「…仕方、ない?」

La「うん。そういう運命だったんだよ、俺は」

La「生まれた時から、きっと此処に来て、死ぬ運命だった」

ill「…」

それはそうだ。天の者に成る人間なんてそうそう産まれてこない。だって、だからLaが今、ここに居るんだから。

La「まあ、そりゃ不満はあるよ?」

不満、という単語に肩が跳ねる。

La「連れ去るんなら連れ去るで、もうちょい前から告知して欲しかったよね」

La「そしたら、覚悟もできたかもだしさー」

La「あとはそもそも、なんで俺なんだよーっ、とかね」

あっけからんと笑うLaに、逆にやるせない気持ちになる。

La「…なんでいるまが辛そうな顔するの?」

La「いるまだって、この世界の住人でしょ?」

ill「それは…そう、だけど」

でも、と続けようとして、Laが言葉を発する。

La「あ、でね。いるまに聞きたいことあったんだ」

ill「…聞きたいこと?」

La「うん。これまでに、こういう役目ってした事ある?」

ill「…?まあ、そりゃな」

La「ふーん。じゃあ、殺す役目をした事は?」

ill「は?何言って…。無いよ」

La「へえ、そうなんだ。ありがと」

含みのある表情で笑うLaには、やっぱり強がっているような怖がっているような、そんな感情が見え隠れする。

ill「…な、らん」

La「ん、何?」

ill「お前、本当に元の場所に戻りたくないのか?」

La「…え?」

大きく目を見開いたLaに言う。

ill「だから、此処から逃げ出したくねえのかって話」

La「いや…でももう、死んでるし 」

ill「言ったろ。まだ死んでない」

ill「生きた状態のままここに来たから」

La「…どういうこと?」

ill「今のらんは、自分が生きる世界から、違う世界に来ただけの生きた人間って訳だ 」

La「…でも、ここから出る道なんて…」

ill「ある。隠されているだけで」

ill「ここに来る途中、聞こえただろ。六道の辻って」

六道の辻。六道とは、6つの迷いの世界の事。人間の世界もこれに含まれる。また、地獄の他に餓鬼が住む世界や天上など色々な世界が存在する。

六道の辻とは、その六道に繋がっている道の事。人間界から地獄に繋がるのは一月に1回、下弦の月の日。地獄から人間界に繋がるのは、一月に2回、満月の日。そこの道があるのが、祭囃子を響かせる普段は無い神社で。つまり、殺されるその日に逃げ出せば、人の世に帰れる訳だ。

長い説明をLaは真剣な表情で聞いていて。

ill「らんは、どうしたい」

牢越しに目をしっかり合わせると、迷うような、困惑したような、色んな感情をごちゃ混ぜにした顔をして、言った。

La「…俺は、帰れるなら帰りたい」

La「急にこんな所に来て、死ぬって言われて…正直凄い怖かった」

ill「…分かった」

ill「じゃあ、七日後。祭が始まったら、逃げるぞ」

La「ん…う、ん」

Laはそう言いながらも何か言いたそうな顔をしていた。


この命。お前の為なら惜しくも何ともない。


絶対に帰してみせる。



守り抜いてみせる。










_七日後。

俺は牢の中のLaに呼びかける

ill「…らん、らん」

La「…あ。いる、ま。おはよう」

ill「…緊張してる」

La「…まあ、逃げるんだもん。怖いよ」

ill「俺はこれから、午前の間は上のヤツらの所に行ってくるから。」

La「…分かった」

俺の話にこくりと頷くLaを背に、上に向かった。



「それで、神の使いの様子はどうだね」

ill「問題ありません。今回はすぐ終わるかと」

「そうかい、仕事が出来る男だね、君は」

ill「ありがとうございます」

「何かあれば、また君に脚の骨を折ってもらわないとだったから」

ill「…そう、ですね」

「なるべく傷はつけないままにしないと危険性が高いからな」

はっはっは、と笑うジジイに苛立ちを覚える。ただ自分の保身のために言っているだけで人を傷つけるのには一切抵抗が無いから。

…俺だって、前はそうだったけれど。

でも今は、怪しまれない事優先だ

ill「あー、そうですね。傷物はいつ壊れてもおかしくないですから」

「うん、君は分かってるね~。表情が変わらないのが難点だけど」

お前の話が楽しくないからだろ。

「それよりさ_」


適当に相槌を打てば、どんどん時間は過ぎていく。長い話が終わったのは、昼を越した辺りだった。

「うん、ありがとう。もう見張りに注力しなさい」

「逃がしたら…分かるな」

鋭く見てくる此奴コイツに、くっと息が詰まった。

「…分かってます」




牢に戻ると、退屈だったのかLaは床で寝ていた。昨日、緊張でなかなか眠れていなかったかもんな。

ill「少し、眠らせてやるか」



数時間後。朝と同じようにLaに声をかけて起こす。

La「っ、はぁい…ん」

ill「行くぞ」

La「え…もう、?」

ill「ああ。もう、祭囃子は始まるから。」

牢の閂城を動かして、扉を開ける。Laの手を引いて外に出ようとした時、頭上からエネルギーの塊が落ちてきたのが分かった。

ill「…っ」

La「っわあ!?」

間一髪、Laの体を抱えて飛ぶ。充分に離れてからLaを下ろす。振り返って見ると、俺達が居た場所には大きな焦げ後がついていた。厄介な物に舌打ちをする。

ill「死線かよ、めんどくせぇ」

La「死線て、一定の範囲を超えると攻撃される…あれ?」

ill「そうだな。らんが対象っぽい」

La「ええっ…!?それじゃ、出れないんじゃ…」

途端に不安そうな顔をするLaに言う。

ill「…任せろ」

La「え?」

本当はこの姿はあまり見せたくないんだけど。

俺は口に着けていた面を剥ぎ取る。ついでに前が見えない邪魔な髪をかきあげてLaを見ると、呆然としたように此方を見ていた。

ill「…どした?」

La「いや…あの、それ仮面だったんだな…と」

ill「…まあな。俺の先祖が夜叉だから、猛悪さを出す為と」

後は

La「角の色…!」

目を丸くして叫ぶLa。制御していた力を取ったので、俺の角は全部真紫に染まっている。これで、全力を出せる。

俺はLaに近づき、背中と膝裏に手を回す。そのままふわっと持ち上げると、分かりやすくLaが動揺した。

La「ちょっ…」

ill「急ぐぞ。一度死線を跨いでいるからすぐ追手が来るかもしれない」

La「いやいやいや…」

ill「しっかり掴まっとけよ。振り落とされるから」

La「ええ!?」

何がなんなのか分からない様子で騒ぐLaを尻目に、数を数える。

ill「いーち、にーのっ」

La「ちょっと待…っ」

ill「参ッ!」

ぐっと踏み込んで死線を超える。案の定すぐにまたあの攻撃がかかってきたが、それが落ちる前に前に出る。

ill「よし、一旦は…ッ!?」

1度超えただけでは駄目らしい。次々と攻撃が飛んでくる。

ill「らんっ!多分これ城を出るまで続く!」

La「っはぁ!?」

Laの絶望の叫びを聞きながら、攻撃を避け、無理な時は力で無理矢理押す。


牢がある地下から石階段を上がり、建物を出て門も出ると、すっかりLaは目を回していた。

La「手加減…して…」

ill「…御免ごめん。」

La「いいけど、さ」

ill「…まあ、それどころじゃねえし」

前を向き、その光景に顔を顰めた。

illは、人間界から連れてきた封印されるはずのLaを逃がそうとした。地獄を裏切ったillは、もう犯罪者だ。囚われていたLaも同じ事。

地獄は悪人を許さない。

真っ赤に燃え上がった火が、月灯を紅蓮にした。満月がまるで逃がさないとでも言うように、赤く揺れた。


「居ました!彼処あそこです!!」

「裏切り者ッ!!」

「攻撃をしろ!逃がすな!!」

奥からゾロゾロと怪異達がやってくる。場違いな桜の花びらが黒く宙に舞った。

ill「…らん」

La「なに…?」

ill「もっかい。捕まっといて」

La「…りょーかい」

俺の首に腕を回して抱きついてくるLaにまた胸がドキリとするが、それ以上に相手側の数が多い。

ill「早く片付けるか」

この人を無事、帰らすために。征けいけ

片手でLaを支えながら、力強く踏み込む。半径一町まで近づいてきた敵を一気に吹き飛ばす。警戒して後ろに下がった怪達に 自分から近づき、目で追えない速度であっという間に敵を切り裂いていく。俺が攻撃をすると同時にあちこちから悲鳴や呻き声が聞こえ、血飛沫が飛ぶ。俺は、屍の花道を作りながらどんどん死線を超えて征く。俺に必死にしがみついているLaはこういう物は苦手なのかぎゅっと目を瞑っていた。

そこらの敵を蹴散らし、神社へ向かう。行く手を阻むように紅蓮の炎が燃え盛ったが、迷わず飛び込み、火の間を潜り抜ける。そうしたら直ぐ目の前に、神社への石階段が出てきた。丁寧に、でも素早く下ろす。

とんと肩を押して行けと合図をするが、何故か数歩進んだ所でLaは立ち止まる。それどころか、振り返って俺の方に戻ってきた。

ill「どうした?早く行かないと彼奴らアイツらが来る」

早く行け、という意味を込めてそう言うと、らんは何か言いたそうな顔で此方こっちを見る。少しの間目を泳がせて…、縋るような目で俺を見つめた。

La「いるまは、どうなるの?」

ill「…」

恐らく、Laを逃がした俺は殺される。もしくは拷問を受けて奴隷として働くか。俺一人で戦いながら生きるのも出来るがこの世界は人間界と比べて格段に狭い。きっと隙を突かれればあっという間に死ぬ。何より、俺はLaを逃がせれば、それでいいから。


嗚呼、やっぱり。俺は。



君の事が__





だから。眉を下げて安心させるように笑う。何も言わない俺を 見て、Laは苦しそうに顔を歪ませる。

La「やっぱり、死んじゃうの?」

肯定も否定も出来ず、ただ笑う。きっとLaは沈黙を肯定と捉えたのだろう。更に歪ませた顔で此方を見る。

ill「ほら、早く。奴が来る前に」

急かすように声を出す。

早くしないと本当にマズイ。そんな事を思ってLaを見ると、何故かLaはぽろぽろと涙を零していた。

ill「っえ…?」

俺は予想外の事に面食らう。

ill「ちょ…おい、どうし…」

La「やだっ、やだ…!」

La「いるまが死ぬなら、俺も此処に残る!」

ill「何馬鹿な事言ってんだ!早く行かないと!」

つい言い方が強くなる。それでもLaは門に向かおうとしなかった。涙を流しながら、叫ぶ。

La「でもっ、やだもん!いるまは、だって…ッ」

遂に道の上に座り込んでぐすぐすと更に泣き始めてしまった。

…はあ。

俺の溜息にLaがびくりとする。

ill「ったく。最後まで世話が焼けんなあ」

俺がしゃがんでぽん、と頭の上に手を乗せると、驚いたようにLaが顔を上げた。泣いたせいで、鼻と目が赤くなっている。ふわふわとした感触が気持ちいい。

ill「あのなあ、らん」

本当にお前は、仕方のない奴だなあ。

ill「なんで、俺がお前に協力したか分かるか?」

こんな、上から言われた事を従順に従って行ってきた冷たくて非情で最低な俺が。

出会って七日も経たないうちに、石面で会話をしていただけの、男に。何か特別な思いを抱き、行動をするに至ったのは。

ill「好きだよ」

らんが、また涙を溢れさせる。何かを伝えようとして震える口を遮るように、言葉を繋いだ。


俺みたいな奴が、こんなに誰かに何かを感じて、こんな事を思って。

抱いたことの無い感情を、会ったばかりの、しかも普通は敵対関係である人間に情を感じて。


その感情が大きすぎるあまり、その人の為に自分の命を懸ける。




仲間を裏切ってまで。




こんな事をするのは、お前が初めてだよ。


好きという感情を誰かに抱いて。


俺みたいな薄情な奴でも誰かの為に行動できて。



それを全部与えてくれたのは、紛れもないらんなんだよ。



俺がどうなろうとらんが無事に帰ってくれればそれでいい。


らんが、更に大きな声で無く。涙で濡れたその顔はもうぐしゃぐしゃだ。俺はらんの目を見て、伝えた。



俺は、お前が




らんが幸せになってくれればそれで充分なんだよ。




_______

らんが大きな瞳からぼろぼろと落ち、さらに激しく泣き出す。俺は泣き崩れるらんを立たせ、階段の前まで連れて行く。耳を澄ますと、遠くから怒鳴り声が聞こえてきた。

ill「さ、らん。そろそろ本当に時間だ。早く行け。そこの門を潜れば、もう追いかけられはしないから」

それでもらんは嗚咽混じりに、必死に声を出してこう言った。

La「でもっ…っそれでも…..っ、おれ、は…..ッッ」

出会った時と同じ、縋るような目つきで此方に訴えてくるらんにたった十五日前の事を懐かしく感じた。

La「おれは、…っ…いる、まが…….ッ 」

ill「らん」

自分でも吃驚びっくりする程の優しい声が出た。らんの瞳がさらに涙で濡れる。目からはもうずっと雫が零れ落ちている。

ill「早く、行くんだ 」

封印する為の場所に連れて行くときの冷たい声色じゃない、相手を思いやって出る暖かい声。


それでも。


らんは。

La「やだよっ…やだっ!! 」

絶対に離さない、と言わんばかりで俺の体を抱きしめてくる。

ill「だから…」

自分から入らないなら無理矢理押し込んでしまおうか、と思った時。


La「俺も!好きなの!!」

ill「…は?」

突拍子も無い言葉がらんの口から出てきた。一瞬、思考が止まる。

La「俺だって、俺だっているまに幸せになって欲しいもん!!」

La「俺だけなんて…..やだよ…」

最後の辺りはもう掠れてしまっている。

ill「…でも、俺が其方人間界に行く事は出来ないんだ」

La「…どうして…?」

ill「さっきも言っただろ。その門の先には、怪…この世界の住人は行けない」

La「…」

ill「だから、らんが俺の代わりに生きてくれれば俺は…」

La「…なら。」

らんが、低く小さく呟く。

ill「ん?」

反射的に聞き返すと、らんは決意したような表情で俺を見た。









La「俺の事、殺して」





ill「…….は、?」


訳が分からなく、辛うじて出した声が掠れる。

La「俺、いるまだけが死ぬなら帰れない」

ill「何言って…」

La「いるまになら、殺されていいよ」


理解出来ず、絶句する俺を真剣な目で見つめて話すらん。本気、なのか…?


La「そりゃ沢山の人を殺したのは罪に問われるかもしれないけどさ」

La「俺の事を殺したら、少しは軽くなるんじゃない?きっと」


ill「そんな…!」

俺の罪を軽くする為にらんを利用なんて出来ない。そんな俺の気持ちを感じとったのか、もう一つ付け足すらん。


La「それに」



La「いるま、人間を殺した事、無いんでしょ?」

La「俺、いるまの初めてになりたい」


にこっと笑ってくるその表情に、本気と決意を感じる。


初めて、か




悪くない。





ill「そんな事言って。後悔しねえの?」

La「…まさか」

ill「…そう」

らんが腕を広げて言う。

La「いいよ、いつで…もッ」


俺はその言葉が言い終わる前に、持っていた刃をらんの腹に突き刺した。さっと背中を支えて呟く。


ill「…何時でもって言ったのはお前だからな」

La「…う、ん…ッ…いるま、大好きだよ」

俺の頬を両手に挟んでにこっと笑うらん。


ill「…じゃあ、最後の仕上げだ」

俺はらんを横抱きにして神社の横の崖へ向かう。下を見ると、そこは地獄の業火が谷の奥底に燃え盛っていた。

もう近くに迫って来た声を無視して覚悟を決める。


ill「…行くぞ」

そう呟いて、俺は躊躇いもせずその谷に飛び込んだ。












貴方が死ぬなら私も。
















伴に逝きましょう。

















下からの風圧と、炎の熱を感じながら、抱きしめた愛人の耳元で囁く。



































「愛してる。」











𝑭𝒊𝒏.








え、長っ…長!!歌詞パロっぽいの書こうと思ったらなんか一万二千文字超えてた。恐ろしっ

マジで疲れた。そもそもオリ曲の歌詞の言い回しとかが難しいのよ()

だから歌詞パロって言うよりかは歌詞から想像と妄想を膨らませた全く別の世界線って考えた方がいいかもですね


あ、えと…

コンテスト参加させて頂いてありがとうございます。コメント欄で参加します!とか言ってなかったけど大丈夫かな…。

んと、賞貰えたら嬉しいです。



最後まで読んで頂きありがとうございました




この作品はいかがでしたか?

999

コメント

11

ユーザー

もう自分のコンテスト用の作品って だけで泣けるんですけど!!ッ その言葉選びの繊細さと一語一句の 描写がとても分かりやすくどの方でも 想像しやすいのは小説・ノベルにおいてとても重要な事だと思っています。 風花さんが思う世界感などがまた自分と異なる事も読んでてとても楽しかったです!。改めてコンテスト参加 ありがとうございます!!

ユーザー

え、、、、絶対風花さん頭いいですよね、、、読めない漢字いっぱいあったんですけど() 🌸🌸が初めて📢くんに抱かせた感情とかがあって、最後らへんの🌸🌸が「初めて」っていう言葉使っていてすごっ、、、、、、、って1人でなってました😭😭 アイコン真っ白ですがのんです!! 何のアイコンにすればいいのか分からんくて真っ白にしてました笑

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