◇ cm side
犬…犬……犬、ねぇ……?
どうやらこの生き物を届けてくれたみっどぉはコレを犬だと思っているらしい。
「あー!助かったァ〜!いや、もう危うく死ぬとこだったぜ、あの一撃がなぁ〜!」
ペラペラペラペラとお喋りが止まらない犬。
時折、ワフッと犬らしい鳴き声が混じるあたりはなんだかそれっぽい。
「ぐっち、怪我酷かったんじゃ……!?」
「お、焼きパン!いやぁ〜、なんか生きてるわ!天窓突き破った後くらいからずっと体ポカポカしてんの!今はもうないけどさ!」
ぐっちことぐちつぼ。
犬こと狼は尻尾を振り、上機嫌に答えた。
焼きパンの一の質問に対して十じゃなく百で返すあたりはとても彼らしいといえば彼らしいのだろう。
でもコレだといつまで経っても話がまとまらないので、少し強めに両手をパンパン、と打ち付ける。
「はいはい、そこまでにして……人型になってくれないと怪我の治り具合も見れないから」
粘土をドロドロにしたみたいに陰を纏った犬のような生き物の種族名は人狼。
人の型と狼の型を持つ種族。
触診で様子を見ながら確認していると、一つだけ気になる箇所があった。
心臓の斜め下あたり。人狼の特殊な器官。
「んー…?ぐちつぼって、ここの自己治癒器官が駄目になってるんだよね…?」
「え、そうっすよ?どうかしたんすか?」
人狼には程度の差はあるけれど自己治癒を担う器官が体内に存在する。
彼のそれは昔に壊れてしまっていたはずなのだけど……
これは…俺の見立てがあっていれば……
「…ちょっと腕出して?」
素直に差し出された腕に医療用ナイフで小さく傷を付ける。
ぷつ、と浅く裂けた皮膚から赤い血がぷっくりと浮かび上がってきた。
ここまでは今までと変わりない。
「…えっ!?」
「やっぱり…治ってるね〜……」
待つことおよそ三秒。
傷口付近の血が吸い戻させるようにして傷が消えていく。
瞬きをする間に傷は綺麗さっぱり無くなって、滑らかな肌が見えるだけになっていた。
「ぐっち、いつのまに回復したの…?」
「いやいや、自己治癒器官は一度壊れると治ることはないって焼きパンも知ってるだろ?……いや、でもそれならなんで…」
うーん。と三人揃って考え込んでいると、その思考と医務室の横開きの扉をぶち壊す勢いでスパーンッと扉が開かれた。
「コンちゃんッ!!!!!」
「ら、らっだぁ?」
「あ!ぐちつぼ、焼きパン!」
よっ、と軽い挨拶に返事をしながらみっどぉの居場所を聞いてくる。
相変わらずのみっどぉ至上主義…
いや、それとはまた別なのかな……?
「ありがと!!行ってくる!!」
バタバタと慌ただしく帰って行ったらっだぁに嵐と似た何かを思いながら手を振った。
「あ…」
「?」
突然声を上げたぐちつぼに視線を向けると、モジモジと指先を合わせながら目を逸らした。
「あの、俺…潜入してた国の特殊部隊に追いかけられてて……」
「まさか、ぐっち……」
「国に…侵入されたかもなぁ〜……?」
パキッとカルテを記入していたペンが上下に弾け飛んだ。
あとでカケラを回収しておかないと…
「ひぃ……」
具現化してしまった耳と尻尾を震わせながら様子を伺ってくるぐちつぼにとびきりの笑顔を向ける。
「取りこぼしは自分で処理すること…とはいえ、怪我をしているのもまた事実……」
「……は、はい」
「焼きパンと二人で処理に向かうこと」
ぴゃ〜っと走って侵入者の処理に向かう二人の背中も見送る。
今日は見送ってばかりかもしれない。
「みっどぉは……レウさんがいるからいいか…!」
そろそろレウさんが焼き菓子を届けている頃合いのはず。
らっだぁはみっどぉに辿り着けたのかな?
それと、ぐちつぼの自己治癒器官の回復の原因についてだね……
「……少し調べてみるかなぁ」
大きく伸びをすると、椅子がギッと鳴った。
歯車はもう音を立てて急速に動き始めている。
◇
コメント
2件
わ……、前の話のみどりくんの言動とか合わせて、ワクワクが止まらない…。 そして、最後の『歯車はもう音を立てて…』の所の表現が良い…!!!