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#一次創作
「お父様、お尋ねしたい事があるのですけど……」
翌日――――
バージル・ジョゼットが我が家を訪れていた理由について、お父様を問いただした。
バージル様は仕事の話だと言っていた。それを疑っているわけではないが、昨日の彼の態度がどうにも心に引っ掛かって落ち着かない。私の婚約に対してあんな質問をしたのも気になっているのだ。
「昨日、ジョゼット家のご令息が我が家を訪問されていたようですが……どのような用向きでいらしたのでしょうか?」
「リナリア……」
お父様は気があまり強くない。優しい方ではあるが、娘の自分から見てもそれが時折頼りなく感じる事がある。バージル様にキツいことを言われていないか、単純に心配だったのだ。しかし、その心配は杞憂に終わった。お父様は普段と特に変わりないように見える。
「丁度良かった。私からもお前に聞きたいことがあったんだ。さあ、そこに座りない」
「失礼致します」
促されるまま、ソファに腰を下ろした。お父様も私に話があるそうだ。思い当たることはないかと、思考を巡らせてみる。学校の成績のことかな……? 最近はそこまで悪い方ではなかったはずだけど――――
「まずは、リナの質問に答えよう。確かお前もバージル殿にお会いしたんだったな。ご本人が言っていたよ」
「はい。彼の妹であるステラ嬢の付き添いでいらっしゃる事は過去にもありました。ですが、昨日のようにおひとりでというのは初めてでしたので気になってしまいまして……」
「なるほど……」
お父様は自身の顎を右手で撫でさすりながら、私の問い掛けに対しての答えを考えている。バージル様の言葉通りなら、仕事に関わる話をしに来たとのことだったけど……それを私の方からは敢えて言及しないようにした。疑ってはいない。でも、やはりどこか引っ掛かりのようなものを感じてしまうのだ。
「リナリア……この話は決して外でしてはいけないよ。約束できるかい?」
「はい。勿論です、お父様」
「……バージル殿はある事件の調査をなさっていてね。それについて私に聞きたいことがあって訪問されたんだよ」
「事件……」
「そうだ。詳細については私にも教えては下さらなかったが、ウチだけでなく他の家にも同じ内容を聞いて回っているそうだ」
ただの確認作業だから心配することはないと、お父様は笑った。本当にそうだろうか。他の家にも聞いているからって大丈夫とはならないだろう。その事件に対して何らかの疑いをかけられている家のひとつというだけではないのか。
私は昨日、バージル様にお父様が悪いことをしたのかと尋ねてしまった。偶然ではあったけど、私のこの発言のせいで思い当たることがあるのかと勘繰られてしまっていたらどうしよう。
「お父様。バージル様が調べているというのはどのような事件なのですか?」
あのジョゼット家が動くというのは相当なことだろう。しかもバージル様自らともなると、もしかしたら王太子殿下も絡んでいるかもしれない。そうだとしたら、国を揺るがすレベルの大事件なのでは……? 私の背中に冷たい汗が一筋流れた。
「すまない、リナリア。これ以上は話すことは出来ない。バージル殿と約束をしたからね」
お父様はバージル様に口止めをされている。私にかろうじて伝えることができるのは、彼がとある事件の調査をしているということだけ。それだけでもかなり悩んだみたいだけど……
「分かりました。これ以上の詮索は致しません。私はお父様を信じていますから」
「ありがとう、リナリア」
事件について深入りはしないと伝えると、お父様はほっとしたように息を吐く。私に出来ることなんてないだろうし、下手に首を突っ込んで迷惑をかけたくはない。
でも……どんな事件なのかだけは知りたい。あとでこっそりステラに聞いてみよう。彼女なら概要くらいは把握しているかもしれない。
「それはそうとだ……今度は私の話を聞いて欲しいのだが……いいかな」
「は、はい……」
バージル様のことを語る時よりも深刻そうな顔だ。そんなに言い難い内容なのか。私とお父様の間に張り詰めた空気が流れた。
「その……あれだ、マルク殿との仲があまり上手くいっていないというのは本当かい?」
身構えて固くなっていた体から一気に力が抜けていく。またアイツ……マルクの話か。
いい加減うんざりしてしまうけど、それ以上にマズいことになった。これまでお父様にマルクとは仲良くやれている。何も問題ないと報告していたのだ。余計な心配をさせたくなくて使用人にも口止めしていたのに……どうしてバレたのだろう。私の態度から考えていることを見透かしたのか、お父様は情報の出所を教えてくれた。
「ブレントがね、教えてくれたんだよ。彼のところには使用人たちから多くの証言が寄せられていたんだ。ブレント自身も、もう黙って見ていられないと……」
執事のブレントが代表でお父様に直訴したらしい。私は使用人たちにここまで心配させていたのか……
「リナ……君が家のことを考えて言わなかったのは分かるよ。でもね、だからといって理不尽な行為を黙って受け入れる必要はないんだ」
気付いてやれなくてすまなかったと、お父様は私に謝罪をした。まずいな。このままだとお父様はレシュー家に正式に抗議しかねない。マルクの事は腹立つし、痛い目を見ればいいという気持ちはある。でも、下手に事を荒げたらこちらの方がダメージを負う可能性が高い。
お父様や使用人たちの私を思う気持ちは本当に嬉しいけど、レシュー家と揉めるのは避けなければならない。
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