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[キイタカキイタカ]
[一体ナニヲダ]
[銀座ノ怪人ノウワサダ]
[シラヌ]
[其ノ怪人、鳥ノ様ナ面ヲ被リテ、夜ナ夜ナ銀座ヲ歩キ廻ッテワ、人ヲ攫ッテ顔ヲ啄ム]
[啄マレタ者ハ、顔ガ腐リ落チ、カノ男ノ様ニ、面ヲ被ラネバ生キラレヌ]
___________________
…………
……
…
「………なんです?これ」
そこまで読むと、彼は怪訝な顔をふいと上げる
「次回の怪奇小説…〔銀の巣〕だ」
「はぁ…このクソみたいな原稿はなんだつってんですよ」
私がそう返してみれば、彼は軽蔑の目を向けながら原稿を机に置く。
おかしいな、この書き出しを読ませればまず大絶賛、その次に涙を流して拝んでくると思っていたのだが…
目の前の男。馬鈴薯くんは、依然変わらず軽蔑の目を向けつつ、煙草を蒸す
「…まず、この面の男ってあなたの事でしょう?…よく自分そのままの人物をだそうって思えますね。僕なら恥ずかしくて無理です」
そう言いながら紫煙をフゥと吐き出す
「この本を世に出した後、銀座を練り歩いてキャーキャー言われたいのだ」
「馬鹿か、」
即答かよ。酷いな
「それに。なんですか書き出し?余りにも陳腐だ。こんなの見るなら人は夢野か涙香を読むでしょうね。」
咥えていた煙草を手の中に転がり込ませると、そのまま原稿に灰を落とす
「な…ッ、き、キミ!なんてことを!!…〜嗚呼私の傑作が…!」
「こんな駄作にそこまで愛情を込めれる貴方は凄いですね」
更に、灰を落とすどころか今度は煙草を押し付けクシャクシャにしていく
「あぁ〜…」
「今日の批評はここまでです。僕はこの後講義があるので、では」
そう言い残し、ポイと原稿だったものを捨てて行くと彼はスタスタ歩いて私の家を出ていってしまう。
嗚呼一人残されるのはいつも辛いな、うむ、いつの時でも堪える。…いや、一人ではないか、私には読者がいるし
…そうだ、自己紹介が遅れた。
私の名は梅屋。きっとこの物語では便宜上、先生と呼ばれることが多くなるだろうから先生と記憶してくれ。
姿についても描写しておこう。私は少々、空気と言うものが怖い。汚いからだ。だからそんな物を吸わぬ様常日頃からmedico della peste…謂わば、ペストマスクと呼ばれるものを装着している。30代後半のくせっ毛頭がチャーミングな、大学の教授兼作家見習い男だ。
先程の嫌な青年は馬鈴薯(ばれいしょ)。…馬鈴薯とは、また変な名前をしているだろう?私もそう思う。
彼は私が教授を担っている大学の生徒であり、現在私の作品の批評をしてくれている。編集者と言ってもきっと過言ではないだろう。
と、まぁ。ここまで人物を纏めてみるが、淋しさは埋まらず、逆に虚無感が生まれてくる。ハァドウシタモノカ、そう呟いても誰一人として返してはくれない。
そうだよなぁ、キミ達は見るだけだもんな。
私は少し不貞腐れながらも、自室に戻り、〔銀の巣〕の続きをまた書く。馬鈴薯くんは記憶力が抜群だから、きっと先程の書き出しもあぁは言ったが結局覚えてくれているだろう。全く、可愛い男だ。
そうして机に向かい、喰らいつく様に書き出していく。銀座の怪人、それを確かめる為に夜に家を抜け出し数多の冒険を繰り広げる少年達、そうして銀座の怪人と相対し、逃走と攻防の末、怪人の正体をついには破る!…と、そこまで書き終わり、顔を上げる…すると、自室の扉がずっと叩かれていた事に気付く
「おぉスマン。入れ入れ、」
「失礼します」
私はこの家の唯一の家政夫…服部を中へと入れる
「すまないな、少々執筆に集中していて…」
「そうでしたか。…本日は427回目のノックで気づいていただけたので、何も問題ありません」
数えてたのか…相変わらず末恐ろしいな
「うむ、で、何用かね?」
「馬鈴薯様が訪ねて来て居られましたよ。もう帰られてしまいましたが」
「え、な、なんで…一度来たのだ?」
「ご要望を聞く前に此方を叩きつけて帰られました」
私は服部から差し出された紙を覗き込む、それはどうやら…、金色夜叉の活動のチケットだ
「これは…金色夜叉のチケットじゃないか!…然し何故…?」
「分かりかねます」
そう言うと、デハ失礼シマシタと戻って行く彼。
ふむ、金色夜叉、嬉しいは嬉しいが、何故服部くんが私にこれを?
まぁ何はともあれ頂いたのだ、行かねば彼に悪いだろう。そう思い予約時刻を見てみれば、今夜の10時からだ。現在は8時…私は取り敢えず、夕食を食べ、ゆっくりとしてから行くことを決意した。