テラーノベル
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ものすごく遠い名も無い時代のお話
とある集落の名も無い幼い少年の
誰も知らないおとぎばなし
名前がないと言いつつ
自分で元貴という名前をつけた
誰にも呼ばれることはないけど
その土地のしきたりにより
生まれついた時から忌み子、鬼の子として
人にあらざる扱いを受けてきた
こんな生まれだから
悲しいことはなにも無い
夕焼け小焼け
母親に手を引かれて帰る子供の気持ちも知らない
知らない
僕はなにも知らない
叱られた後のやさしさも
雨上がりの手の温もりも
でも
本当は
本当は
本当は
本当に
寒いんだ
死なない
死なない
僕はなんで死なない?
夢のひとつも見れないぐらい酷い状況で生きてるのに
誰も知らない
僕の人生
おとぎばなしは
夕焼けの中に吸い込まれて
消えてった
吐き出すような暴力と
蔑んだ目の毎日に
君はいつしかそこに立ってた
優しい笑顔の綺麗な人だった
だけど全身ボロボロ
僕と同じ忌み子だと一発でわかった
話しかけちゃだめなのに
m「君の名前が知りたいな」
?「ごめんね」
?「名前も舌もないんだ」
舌がない
生まれつきだろうか
それとも
罰として抜かれたのだろうか
喋ることはできるようだ
初めて人と言葉を交わした
僕の居場所は
何処にもないのに
?「一緒に帰ろう」
君に手を引かれて
僕は逃げ出した
知らない
知らない
僕は何も知らない
君はもう子供じゃないことも
慣れない他人の
手の温もりは
ただ
本当に
本当に
本当に
本当の
幸せなことなんだ
やめない
やめない
君はなんでやめない?
見つかれば殺されちゃうくせに
話しかけたらだめなんだから
一緒に逃げ出すなどもってのほか
m「バレたら死んじゃうのに」
「どうして助けてくれるの?」
?「うーん」
「なんとなく!」
雨上がりに忌み子がふたり
夕焼けの中に吸い込まれて消えてった
それから僕はあの子とよく遊ぶようになった
日が暮れて
夜が明けて
遊び疲れて
捕まって
こんな世界
僕と君以外
みんないなくなればいいのにな
m「皆いなくなればいいのにな」
知らない
知らない声が聞こえてさ
僕と君以外の全人類
抗う間もなく手を引かれてさ
夕焼けの中に吸い込まれて消えてった
奇跡が起こった
なにが起きたのかはわからないけど
この世界で涼ちゃんと二人きりになった
知らない
知らない
僕は何も知らない
これからのことも君の名も
これからどうれば良いのかは全然わからない
だけど
今は
今はこれでいいんだと
ただ
本当に
本当に
本当に
本当に思うんだ
今は
忌み子としての酷い環境から
ふたりとも解放されたことを良しとしよう
知らない
知らない
あの耳鳴りは
夕焼けの中に吸い込まれて消えてった
m「ねぇ」
「名前つけてあげるよ」
r「いいの?」
m「うん」
「涼架なんてどう?」
r「いいね、可愛い!」
m「じゃあ涼ちゃんだね」
r「え?」
m「あだ名」
r「へぇ」
「可愛い」
「君の名前は?」
m「元貴」
「自分でつけたんだ」
r「かっこいい名前!」
m「ねぇ」
r「なに?元貴」
m「これからどうしようか」
r「今はいいんじゃない?」
「今はさふたりで自由を満喫しようよ」
m「それもそっか」笑
r「笑笑」
六兆年と一夜物語/kemu
end
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