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手首を掴むおんりーの指先から、尋常ではない熱が伝わってくる。
ぼんじゅうるは、一瞬だけ自分の耳を疑った。
「……はは、何それ。おんりー、もしかして俺が他のメンバーとばっかり飯行くから、拗ねてんの?」
ぼんじゅうるは、引き攣った笑みを浮かべて声を張り上げた。いつものように、年の離れた後輩の「可愛い我が儘」として処理しようとする。
そうやって笑い飛ばして、この異様な空気から逃げ出そうと言い訳を探していた。
「可愛いなぁ、おんりーは。分かった分かった、次はちゃんとお前を優先で…」
「冗談に見えますか」
遮る声は、酷く冷たかった。おんりーの細い指が、さらに強く手首に食い込む。逃がさない、という明確な意思がそこにあった。
「ぼんさん。僕は、拗ねてなんてないです」
おんりーがゆっくりと顔を上げる。前髪の隙間から覗くその瞳を見た瞬間、ぼんじゅうるの背筋にゾクリとした冷たいものが走った。
それは、動画で見せるような「弄られ役の先輩をからかう後輩」の目ではなかった。獲物を絶対に逃さないと決めた肉食獣のような、狂おしいほどの渇きを抱えた人間の眼差し。
その瞳に宿る暗い情念の重さに、ぼんじゅうるは息をすることさえ忘れてしまった。
(あ、これ……本気だ)
言葉ではなく、本能が理解した。おんりーが自分に向けているのは、仲間としての親愛でも、活動者としての尊敬でもない。
もっと深く、ドロドロとした、一人の男としての執着。
「おん、りー……?」
ぼんじゅうるの声が、今度はハッキリと震えた。
いつもおちゃらけて、最年長として場を和ませていた男の余裕が、音を立てて崩れ去っていく。
掴まれた手首から心臓まで、おんりーの激しい鼓動が直に伝わってくるかのようだった。
「気づいてなかったんですか、……ずっと隠してきましたけど、もう我慢しませんから」
おんりーは自嘲気味に、視線は外さないまま、一歩、ぼんじゅうるに距離を詰めた。
あまりの威圧感に、ぼんじゅうるは思わず椅子の背もたれに体を打ち付ける。
「他の誰かに笑いかけるのも、僕以外の名前を呼ぶのも、本当は全部、耐えられない」
おんりーの吐息が、ぼんじゅうるの頬に触れるほど近くなる。その瞳には、とうに限界を迎えたスピードスターの、歪んだ恋情が満ちていた。
「ちょ、ちょっと待てって……おんりー、冗談、キツイって……!」
ぼんじゅうるの額から、冷や汗がだらりと流れ落ちた。全身の細胞が危険信号を鳴らしている。この場から逃げ出さなければいけないと、本能が叫んでいた。
ぼんじゅうるは引き攣った笑みを張り付けたまま、掴まれた右腕を力任せに引き剥がそうと、ぐっと後ろへ引いた。体格や筋肉量だけで言えば、年長であるぼんじゅうるの方が勝っているはずだった。だが、腕はビクリとも動かない。
「っ……!?」
それどころか、おんりーの細い指先が、肉を割り、骨にまで達するのではないかと思うほどの力で締め付けられた。——ミシィ……。静まり返ったスタジオに、嫌な音が微かに響く。手首の骨が軋み、凄まじい激痛がぼんじゅうるの脳を突き刺した。
「いっ、つぅ……! 離せ、おんりー! 痛い、マジで痛いから……っ!」
痛みに顔を歪め、ぼんじゅうるは左手でおんりーの肩を押し返そうとした。しかし、おんりーはピクリとも揺るがない。それどころか、掴んだ手首をさらに手元へと引き寄せ、ぼんじゅうるの体をデスクへと組み敷くようにして覆いかぶさってきた。
「冗談って言って、またそうやって逃げるんですか」
おんりーの声には、もう一切の感情の抑揚がなかった。ただ、ぼんじゅうるを見下ろす瞳だけが、暗い鬼火のように妖しく燃えている。
「痛いですか? だったら、忘れないでください。僕がどれだけ、毎日胸を掻きむしられるような思いで、あなたの隣にいたか」
骨を軋ませる指の力は、おんりーの歪んだ愛情の質量そのものだった。いつも冷静で、誰よりもスマートにゲームをクリアしていく年下の相棒。
その仮面の下に隠されていたのは、ぼんじゅうるという存在に狂わされ、壊れてしまった一人の男の姿だった。
「ねえ、ぼんさん。僕を怒らせたら、どうなるか……分かってますよね?」
視線だけで縛り付けられているかのような錯覚に、ぼんじゅうるは恐怖で声を失った。手首の痛みなど霞むほどの、圧倒的な執着の深さに、ただ圧倒されるしかなかった。
「あ……、あ……」
ぼんじゅうるの喉から、掠れた悲鳴にも満たない音が漏れる。手首を締め付ける激痛と、目の前の男が放つ圧倒的な狂気に、完全に思考が白く染まっていた。
いつも自分を慕ってくれていたはずの後輩は、もうどこにもいない。
「もう、逃さないですよ。ぼんさん」
おんりーが低く、酷く甘い声で囁いた。その瞬間、おんりーは空いていたもう片方の手で、ぼんじゅうるの胸ぐらを掴み、そのまま背後のデスクへと手荒に押し倒した。
「う、わっ……!?」
ガタァン!! と激しい音を立てて、デスクの上のキーボードや資料が床へと滑り落ちる。背中に走る衝撃にぼんじゅうるが息を詰まらせた瞬間には、すでにおんりーの体が覆い被さっていた。
おんりーの両膝が、ぼんじゅうるの体をガッチリと挟み込み、完全に身動きを封じる。
「おんりー、やめ、ろ……! 何考えてんだよ!」
必死に叫ぶぼんじゅうるの声を無視し、おんりーは迷いのない手つきで、自分のポケットからスマートフォンを取り出した。そして、画面のロックを解除すると、あるアプリを起動し、ぼんじゅうるの目の前に突きつける。
画面に映っていたのは、見慣れた地図のデータ。そこには、赤く点滅するピンが二つ、ぴったりと重なり合っていた。
「これ……、位置情報、アプリ……?」
「そうです。僕のスマホから、ぼんさんの居場所がいつでも分かるように、貴方が寝てる間に、同期させました。」
おんりーの唇が、歪んだ弧を描く。
「これで、あなたがどこで誰と何をしてるか、僕は全部把握できます。拒否しても無駄です。もしアプリを消したり、スマホを置いて逃げたりしたら……その時は、ショックであなたを閉じ込めるかも」
「っ……!」
ぼんじゅうるの背筋に、戦慄が走った。プライベートのすべてを監視される恐怖。
一線を越え、完全に壊れてしまったおんりーの瞳には、一切の躊躇がなかった。
「言ったでしょう。僕以外の名前を呼ぶのも、耐えられないって。これからは、僕のことだけを見て、僕のことだけを考えて生きてください。……ね? ぼんさん」
おんりーの細い指先が、今度はぼんじゅうるの怯える頬を優しく、愛おしそうになぞる。骨を軋ませるほどの暴力的な力から、一転して触れるような愛撫へ。
その異常なまでの温度差が、ぼんじゅうるをさらに深い絶望へと突き落としていった。
The,end…?
リクエストがあったら続き書くかも
Next…♡200
コメント
2件
おお……第7話、読んだわ。タイトルの「愛はチェストに隠せない」ってまさにこれか。 おんりーの豹変ヤバすぎて、背筋がゾッとした。「冗談に見えますか」の声の冷たさ、手首を掴む力の質量——普段の弄られ役から一転した狂気じみた執着、ガチで脳に焼き付いた。 ぼんじゅうるの余裕が音を立てて崩れていく感じもリアルで、あの閉塞感がたまらん。続き、早く読ませてくれ…!🔥