俺たちだけの秘密となった、森の中での覚醒。
あれからリョウちゃんは自主練を続けている様子だ。
そして気弱で自信なさげだった雰囲気が少し変わった。
柔らかな笑顔は同じだけど、静かな強さを感じられるようになったのだ。
「おはよ」
「オハヨ…」
「おはよう~」
学校の門でタイミング良く一緒になり、3人で挨拶を交わした。
モトキは 朝起きるのが苦手なため、動きがゆっくりで声が小さめ。
剣を使ってる時とのギャップが激しくて面白い。
リョウちゃんはいつもと変わらず、沢山の妖精に囲まれてニコニコと笑っている。
剣の手合わせ以降、俺たちはセットで認識されるようになり、揶揄ってくる奴らも居なくなった。
「あれから友達出来た?」
「うん~。挨拶とか、一緒に何かやる友達は出来たかな。気づくと1人になってたりするけどねぇ」
「…ひとりごと、おおいからじゃないの?」
モトキがボーッとしながらも突っ込まずにはいられなかったらしい。 まだカタコトだ。
「だって妖精さんと話してるんだよ。皆には見えないみたいだけど」
「解らない人には不審に見えちゃうもんねぇ…心の中で話せばいいのに」
「無理だよ~、勝手に出ちゃうのよ」
校舎までそんな会話をしながら歩く。
「今日の昼休みに自主練どう?」
「あ、やりたいやりたい!」
「パス…」
モトキ、今日は早退してしまいそうだなぁ。
俺とリョウちゃんで昼休みに約束をして、それぞれの教室へ向かった。
「あれ、モトキやっぱり帰ったんだ?」
「今日は駄目そうだったから。でも来てくれただけでも嬉しいからね」
昼休みは長めの休み時間なので、焦らずにのんびり出来そうだ。
「そうだ。俺に少しレベルアップしたヒール教えてほしい」
「えっ」
覚醒したリョウちゃんは最初こそコントロールに苦労していたけど、次々に高度魔法を身につけていた。
まるで今まで止められていた水の流れが、一気に流れ出したかのように。
「今も基本よりは強いヒールを使えるけど…そんなんじゃ役に立たないって解ったから」
あの時。
モトキの腕は落ちる寸前だった。
命に別状はなくても、大剣を片手で操るのは大きなハンデとなる。
魔法に自信がある俺でも、回復においては何も出来ず助けられなかった。
あんな思いは、もうごめんだ。
「本当にモトキが大事なんだなぁ。いいよ、僕で良かったら」
「ありがとう。モトキだけじゃなくさ、覚えとけば2人に何か合った時に支えられるだろ?」
そんな風に言われるとは思わなかったという顔で驚き、嬉しそうに笑ったあと。
息を吸って真面目な表情で改まる。
「あのさ、僕にも攻撃魔法教えてほしい。さすがに剣は無理そうだけど…魔法なら回復と通じる所があるし」
意外だった。
あのリョウちゃんから攻撃魔法を教えてと言われるなんて。
「確かに…それぞれが得意なもの以外も伸ばせたら、大きいよな」
「うん」
少し躊躇ってから、意を決したような目でリョウちゃんが口を開く。
「2人が気を使ってくれてたから黙ってたんだけど…。知ってるんだ。あの時、モトキが体を張って覚醒のきっかけを作ってくれたこと」
「…え?」
一瞬、周りの音が消えたように感じた。
コメント
2件
わァ…ァ……リョウちゃ… ほわほわしてるけど鋭いの解釈一致すぎます…( ´ཫ`)