ただいま、ハルキ(青龍の本体)とナオト(肉体と精神を蛇神《じゃしん》に支配されている)による激しい攻防が繰り広げられています。
「早くナオトを返せ! 私が奥の手を使う前に!」
「貴様のように、我《われ》に殺意を向けるような輩《やから》は久しぶりだ。しかし、我《われ》に勝てる保証など、どこにもないぞ?」
「そんなのやってみなくちゃ分からない! ……って、ナオトだったら言うよ!」
彼女はそう言うと、自身の体から放出した青いオーラで剣を作った。
「聖獣武装……『青龍の剣』!!」
「ほう、自身の力を剣に変化させたのか。なかなかやるではないか。しかし、それでは我《われ》に勝つことはできないぞ?」
「そんなことはない! 私の剣で切れないものはない!」
「それは過去の話だろう? 我《われ》のような神と対峙《たいじ》したこともない貴様に格の違いというやつを教えてやろう」
ナオト(『第二形態』になってしまった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)の体を乗っ取っている蛇神《じゃしん》『|夏を語らざる存在《サクソモアイェプ》』は一瞬、赤い瞳をピカッと輝かせると、右手の掌《てのひら》に『黒い球体』を出現させた。
「な、なんだ! それは!!」
「これか? これは……我《われ》のみが生み出すことができる特殊な毒を球体にしたものだ。これに我《われ》以外が触《さわ》ると、あらゆるものを溶かしてしまう。分かっているとは思うが、解毒方法はない。なにせ、これは毒であって毒ではない呪いのようなものだからな」
「そう……。じゃあ、訊《き》くけど、どうしてナオトはそれに触っても平気なの?」
「ふむふむ、なるほどな。貴様は、こやつから何も聞いておらぬのだな。よかろう、今回は我《われ》が特別に教えてやろう。いいか? こやつは……」
その時、ナオトの左手の中指に嵌《はま》っていた血液製の指輪が針に変形し、彼の両目と両耳と……とにかく全身の穴という穴を貫いた。
「ぎゃああああああああああああああああああ!! なんだ! これはあああああああああああああ!! いったい何が起こったというのだああああああああああああああああああああああああのあああああ!!」
蛇神《じゃしん》が床に横になり、悶絶《もんぜつ》する様《さま》を見ていたハルキは『黒い球体』が消滅していることに気づくと、『青龍の剣』で彼の心臓を貫いた。
「お、おのれ! おのれえええええええええ!! これで勝ったと思うなよおおおおおおおおおおお!!」
蛇神《じゃしん》の断末魔が寝室に響き渡ると、ハルキは剣を彼の心臓から引き抜き、ただの力に戻した。
「……ナオト。ごめん……私……」
ハルキが彼の手を握ると、彼はその手を握り返した。
「……ハル……キ……」
「ナ、ナオト! 大丈夫!? 痛いところがあったら言って! 私が治してあげるから!」
彼はニッコリ笑うと、ハルキの小さな手を自分の胸の上に置いた。
「……これくらいなら、大丈夫だ。すぐに治ると思うから」
身体中の穴という穴から出血している人間がそんなことを言ったため、ハルキは激しく動揺した。
「今、そんなことを言ってる場合じゃないよ! 早く傷口を」
その時、彼の血液が彼の体の中に戻り始めた。(服も再生した。なぜかって? それは彼の母親が作った服だからである)
時間が巻き戻っているような光景を目《ま》の当たりにしたハルキは彼の左手の中指に、先ほどの血液製の指輪が嵌《はま》っていることに気づいた。
「ねえ、ナオト。その指輪……誰からもらったの?」
完全に傷口が塞《ふさ》がったナオトは自分の左手を見ながら、こう言った。
「あー、これか。これはな、ミノリからもらったんだよ。俺が危ない時に助けてくれるものらしいが、まさかこれに命を救われるとはな……」
ミノリ……。あの吸血鬼のこと……だよね?
「……ねえ、ナオト。どうしてナオトの中に、あんな恐ろしい存在がいるの?」
「それは……俺にもよく分からない。けど、『ケンカ戦国チャンピオンシップ』の時とニイナの体から出てきた触手を倒すために、あいつの力を使っちまったから、その代償として肉体と精神を支配されたんだと思う」
「そうなんだ……。ごめんね、知らなくて」
「お前が謝る必要はない。そうしなきゃいけないのはむしろ俺の方だ。ごめんな、ハルキ。あいつを制御できなくて」
「謝らないで。私もナオトに酷いことしたから」
「大丈夫だよ。俺はもう心臓を貫かれるくらいじゃ死ねなくなってるから」
ハルキは彼を慰《なぐさ》めようとしたが、これ以上彼に何を言っても彼の心は癒《いや》されないことを悟ったため、彼女は彼の手をギュッと握った。
「……なあ、ハルキ。俺のことが怖くないのか?」
彼女は涙目になった状態で微笑みを浮かべると、彼の顔の方に目を向けた。
「『四聖獣《しせいじゅう》』の『青龍』である、この私が少し自然治癒能力が他人より優《すぐ》れている人間ごときに恐怖を抱《いだ》くわけないでしょ? それに、もしナオトが暴走しそうになっても私たちが絶対に止めてみせる。だから、ずっと私たちのそばにいていいんだよ」
「……ありがとう、ハルキ。お前は優しいな」
彼は彼女の頭に手を置くと、ゆっくりと彼女の頭を撫で始めた。
「……私は別に優しくなんかないよ。ただ、ナオトのことが心配で……」
「分かってるよ、そんなことは。けど、俺はこうしないと落ち着かないんだ」
「そう……。じゃあ、もっとして。なんだかすごく気持ちよくなってきたから」
彼女は彼に身を委《ゆだ》ねると、彼の首筋に軽くキスをした。
「ちょ、今のは反則だろ」
「そうかな? 今のは、ただの愛情表現だよ?」
「そうか……。愛情表現か」
「うん、そうだよ」
二人はしばらくクスクス笑っていた。
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