夜明け前。
大学の屋上に、薄い靄がかかっていた。
風が冷たく、街の灯がまだ遠くに瞬いている。
その中心で、紺はひとり、ヴィルの端末を膝に乗せていた。
画面には、淡く揺れるノイズ。
けれどそのノイズは、どこか——“声”のようにも聞こえた。
「……また、聞こえる。」
小さく呟くと、背後でドアが開いた音がした。
「おーい、朝っぱらから何してんだよ、紺。」
ピンク色のパーカーの輝が顔を出す。
眠たそうな目をこすりながらも、口元には笑みを浮かべていた。
「ヴィルが……何かを拾ってる。
人の声でも、電波でもない。——世界の“残響”だと思う。」
輝はその言葉を聞いて、少しだけ真顔になる。
「残響、ね。つまり、魔法の“起源”みたいなものか。」
「そうかもしれない。」
そのとき、ヴィルの声が割り込むように響いた。
『——観測。対象:世界構造の異常点、東京圏にて複数確認。』
紺は息を呑んだ。
「まさか……本当に、魔法が“発生”し始めてるのか……?」
昼。
寿爾の研究室。
ホワイトボードには、膨大な数式と回路図、そして「魔法定義案」と赤文字で書かれた紙。
寿爾はコーヒーを片手に、真剣な顔でデータを見つめていた。
「観測データのほとんどが“熱力学的矛盾”を起こしてる。
通常ならあり得ないエネルギーの振る舞いだ。」
「つまり……」メルが言う。
「“理屈を超えた現象”が、現実に起こってるってことか。」
寿爾は頷いた。
「そう。君たちの言う“魔法”の条件に、確かに近い。」
紺はヴィルを見つめながら、静かに言葉を紡いだ。
「これは……誰かの願いが、世界に干渉してるんだと思う。
人の“意志”が、理を越えて形になろうとしている。」
夜。
屋上に全員が集まる。
街の光の海の上、風が優しく吹き抜ける。
メルがヴィルを起動させると、ホログラムの粒子が空へ舞い上がり、
夜空に光の文様を描き始めた。
まるで星々が言葉を紡ぐように——。
『解析中……“心象波”の発生を確認。』
寿爾「心象波?」
紺「人間の感情が、情報として世界に干渉してる……? でも、そんなの——」
輝「そんなの、まるで……」
「“魔法”だな。」と、紺が答えた。
その瞬間、ヴィルのホログラムが一際強く輝いた。
彼の瞳の奥に、映像が流れ始める。
見知らぬ街、人々の笑顔、光、そして涙。
それはまるで、世界中の“願い”が可視化されているかのようだった。
「ヴィル……これ、何を見てるの?」
『——世界の祈りです。』
風が止まり、皆が息を呑んだ。
ヴィルの声は、どこか優しく、それでいて哀しかった。
『この光は、あなたたちが求めた“魔法”そのものです。』
紺は拳を握った。
「だったら——僕たちが、それを“形”にしよう。
この願いを、現実に変える。“魔法”を、世界に創るんだ。」
メルの瞳に、かすかな涙が浮かんだ。
「……うん。これが、私たちの始まりだね。」
ヴィルの光が夜空に広がり、星々と混ざり合う。
世界が、静かに動き出していた。
はあーい
どうだったでょうか
四章でした。書くことないし、五章書かないとなので、
Kitsune.1824でした。ばいこん🦊
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