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ルーイ様に相談したことで、私とリズはとても心が軽くなった。彼は私達とレオンの仲立ちまでしてくれるそうだ。ジェフェリーさんも心配していたような扱いにならなそうで良かった。ルーイ様には感謝の気持ちでいっぱいだ。
「みんな待ってるだろうし、そろそろ行く? 息抜きも限度があるからね」
「はい」
私達3人は座っていたソファから腰を上げ、レオン達の元へ向かった。
ルーイ様の方からこちらに来てくれたので、私が会合に混ざる理由がなくなってしまった。でも、せっかくふたりが迎えに来てくれたのだ。それに、会合はセドリックさんの部屋で行われているそうじゃないか。これはちょっとかなり覗いてみたい。
「レオンの側近の方達はみんな王宮に私室をお持ちなんですね」
「私のような見習いにも用意してあったくらいですもの。『とまり木』の皆さんに無いわけないですよね」
王宮勤めの使用人は基本的に島内にある専用の宿舎で生活をしている。よって、王宮に私室を持つのは使用人にとってステータスのひとつらしい。『とまり木』の方達はあまり使ってないそうだけど。
「ルーイ様もいずれお部屋があてがわれるのでしょうか……レオンの先生ですし」
「うーん、あんまり必要性を感じないなぁ。今回みたいに王宮に何日もいることは無さそうだし。あったとしても、その時はまたリオラドに泊まるよ。もしくは……今度こそセディの部屋でお世話になっちゃおうかな」
ルーイ様は本当にセドリックさんを気に入っているんだな。彼の事を話す時の顔がとても嬉しそうだった。
「隊長特権でセディの部屋が1番広いんだって。俺ひとり泊まるなんて余裕だよ。ねー、リズちゃん」
「お部屋も綺麗に片付けられていて、さすがセドリックさんって感じでしたね。でも、もうサプライズは遠慮してあげた方が良いと思います」
会合場所がセドリックさんのお部屋に変更されたのを、あろうことか本人だけが知らなかったらしい。そのせいで会合が始まる前に一悶着あったそうだ。
「あはは、そうだね。怒ってるセディ可愛くて好きなんだけど……やり過ぎはよくないね」
「ルーイ様、リズの言う通りです。お泊まりしたいならきちんとご本人の許可を取って下さいね。無理やり押しかけちゃダメですよ」
話を聞く限りセドリックさんは、きっと本気で怒ってはいないのだろう。でも、だからと言って迷惑をかけて良いことにはならない。せっかく仲良くなられたのだから……
「分かってるよ。その辺の引き際は心得てるつもり。つか、セディがガチで抵抗したら俺がマウント取るなんて出来っこないからね。軍人さんだよ、しかも隊長」
つまりそういうことなんだと、ルーイ様は笑った。何がそういうことなんだろう。妙に含みを持たせた言動の数々……。直接的な表現を避けながらも喋りたくて堪らない。どこか浮かれているようにも見えた。そんなルーイ様とあれやこれや話をしているうちに目的地についてしまう。
「クレハ、いらっしゃい」
「姫さん、遅くなっちゃってごめんねー」
部屋に入ると、レオンと『とまり木』の面々に出迎えられた。会合の場所を変えたのは、ルーイ様やリズが居やすいようにとの配慮から。彼らが囲むテーブルの上には人数分のティーカップに美味しそうなクッキー。見た感じお茶会のような雰囲気だ。
セドリックさんの部屋はルーイ様とリズが言ったようにとても綺麗だった。広さも充分。これならルーイ様が押しかけても平気そうだな。
「いいえ。皆さんお疲れ様です」
「クレハはここ座って」
レオンは自分の隣に座るよう指示を出した。私はそれに従い、彼が座っているソファへ向かうと腰を下ろす。続いてルーイ様とリズも着席した。リズは空いている椅子に、ルーイ様はレオンと反対隣に。私が来る前にふたりが座っていた場所なのだろう。レオンとルーイ様に挟まれるような形になってしまい、ほんの少し緊張した。
「仕事の話はとりあえず終わり。だから楽にしてね」
「クレハ様も紅茶でよろしいですか?」
「はい。ありがとうございます、レナードさん」
「それと……これもどうぞ」
ルイスさんが正面のテーブルの上に小さなお皿を置いた。そこには取り分けられたクッキーが乗せられていた。ご兄弟は今日も『とまり木』の制服を着ている。給仕をする姿は一昨日も見せて貰ったけれど、やっぱりカッコいい。
「殿下、クレハ様のご意見も聞いてみましょうよ」
用意して頂いた紅茶を受け取り、カップに口を付けようとした所で、ミシェルさんがそんな事を言い出した。私の意見とは? レオンの方を伺い見ると彼は説明を始める。
「クレハ達を待ってる間に話をしてたんだ。色んなことが落ち着いたら店の方で何かイベントができたらいいなって」
レオンと『とまり木』の皆さんが言うには、常連のお客様へせめてものお詫びだそうだ。店はしばらく休業になってしまうから……
「わぁ、素敵ですね」
「それどころじゃないだろって言われるかもだけど、不穏な話題ばっかりだと気が滅入っちゃうしね。計画するだけなら自由だから」
「それに合わせてルーイ先生のお披露目もできたら良いですよね。盛り上がること間違い無しです」
「ミシェル……先生は見せ物じゃないぞ」
「俺は構わないよ、面白そう。でも、まだ何をするとかは具体的に決まってないんだろ?」
過去に何度か、そのような催しをやったことはあるらしい。その時は当日限定メニューを用意したり、ドリンク無料サービスや来店記念プチギフトを配ったりしたんだって。
「はい。ですので次回のイベントはクレハにアイデアを出して貰いたいなと思っています」
「は?」
聞き間違いじゃないよね……? イベント自体はとても楽しそうでわくわくする。でも、その内容を私に任せるなんてどういうつもりなんだろう。表情だけでレオンに訴えると、彼は私の困惑など想定内だとでもいうように話を続けた。
「難しく捉えないで、まだまだ先の事だし。そうだね……俺からひとつ注文を付けるなら、従業員も一緒に楽しめるようなのがいいかな」
突如湧いたイベント話。なぜこのタイミングでと思ってしまうけれど、気晴らし程度に考えてみてとレオンにお願いされてしまう。
ルーイ様やリズと相談しても良いと言われたので、やるだけやってみようか。実現できるかどうかは別だけど、お祭りの準備をするみたいで気持ちは高揚していくのだった。