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俺の隣にはいつも、イヤホンマンが居る。
イヤホンマン、本名「高科 満」。
高校に入ってからずっとイヤホンしてるからイヤホンマンというあだ名が付いたらしい。
高科くんとは一度も話したことが無いし、そもそも高科くんが誰かと喋っているのを見たことがない。
イヤホンから何か音漏れしている訳でもなく、本当に不思議な男の子。
俺はそんな高科くんがどうしても気になる。
何聴いてるんだろうとか、友達は何人とか、恋人は…きっと居ないだろう。
でも高科くんは意外に美人。
ブラウンのストレートヘアだし、つり目で平行眉、三白眼だけどなんか綺麗。
あの地味な青のスクエアメガネだけを取ればきっとモテるし、身長も172とあるから誰の恋人になってもおかしくはない…見た目だけなら。
そんな高科くんの隣の席は俺。
どうしても高科くんと喋ってみたいと思い始めて一年が経とうとしている。
二年生になって始めて同じクラスになったけど、もちろん高科くんから喋りかけてくることは無い。
流石にこのままじゃ終われないと、俺は冬休み中に決心した。
冬休みが終わったら、高科くんに話しかけよう。
冬休みが明けて初日、俺もクラスメイトも久しぶりでテンションが上がっていた。
だが高科くんは相変わらずイヤホンをしていて誰とも話さない。
いつ喋りかけようかとタイミングを見計らっていると、もう下校時間になってしまった。
皆が帰って行くのに、俺は中々帰られない。
あと数人残っているのに、高科くんと俺だけのように感じた。
高科くんは帰る間際もまだイヤホンを付けている。
「…あ、あのさ高科くん。」
そうもじもじしていると自然と口から言葉が出ていた。
…が、なぜか高科くんは反応せずにリュックを背負ったままスマホをいじっていた。
「いや、高科くん?高科くーん。」
手を振って高科くんの顔を覗き込んでも、チラチラとこちらを見るだけ。
高科くんの顔が赤くなっているが、表情はまだ変わりない。
「…高科くん、聞こえてる?」
高科くんの肩を揺らしたその時、高科くんはやっとイヤホンを外した。
でも喋らない、目を見ないし頷きもしない。
そんな高科くんに少し笑ってしまった。
「しつこくてごめんね。高科くんってさ、いっつも何聴いてるの?それだけ聞きたくて。」
高科くんは教室を見渡すと誰も居ないことを確認し、ようやく口を開いた。
『…言えない。』
少し掠れた声でそう答えた。
俺もしつこいが流石に気になる、言えないくらいの何をずっと聴いているのだろうかと。
曲やラジオならそのまま言ってくれれば良いのに、何故か言わない。
「えぇっ、なんで言ってくれないの〜?教えてよ〜。」
スマホの画面を覗き込もうとすると高科くんはすぐに一歩引いた。
『…ふ、藤谷さん嫌だと…思うし。』
「嫌だと思う?…嫌になるものって何?」
『…本当に、大丈夫なの。』
俺は迷いなく頷いた。
そんなに恥ずかしいものなのかと好奇心が度を超えた。
頷いたのを見ると高科くんは安堵したように肩の力を抜いてイヤホンを片方俺の方に出してきた。
「えっ、付けて良いの?」
高科くんの返事を聞く前に、イヤホンを耳に挿した。
誰かの声が聞こえた0.5秒、そして自分の声が聞こえた2秒。
「…何これ。」
冷静に考えろ。
俺が「さっきの何だよ」と怒っている、そしてクラスメイトの鈴木が「藤谷が悪いんだろ」と怒鳴った。
『…あ、あの。一年生の時に、ふ、藤谷さんと、鈴木さんが喧嘩、してた時の、録音です。』
顔を真っ赤にさせながらさっきより少しハキハキと喋った。
俺は混乱してただ立っているだけになってしまった。
高科くんの三白眼が夕焼けに照らされてオレンジ色に輝いていた。
『…あと、これも。』
次に再生されたのは、二年生の初めに俺から女友達に告白した時の声。
見事に振られたあの時がフラッシュバックする。
『…この、「好きです」ってと、とこが、大好きで毎晩聞いて、ます。』
今まで喋ったことの無い高科くんが、今この場で物凄く気持ちの悪い発言をしている。
「な…なんで…聞いてるの。」
『…ぼっ、僕、藤谷さんのこっ、ことが。ずっと好きで、好きで好きで堪らなくて…。』
『でっ、でも喋るのは怖いから録音してずっとイヤホンで聴いてて…。』
何も頭に入らないまま、高科くんの声を聞いていた。
『だからっ、僕…その…今藤谷さんとしゃっ、喋られて…嬉しい。』
高科くんは一歩こちらに近付いて、俺に抱きついた。
包容というよりも束縛に近いそのハグは、脇腹が強く締め付けられて気色悪かった。
『ふ、藤谷さん…も、僕のこと…好き?…好きだよね、喋りかけてくれたし。ぼっ、僕は…大好き。』
ブラックホールのような瞳がこちらを見上げ、その奥では何を考えているのか分からなかった。
『…ねぇ、好きって言って。』
『…最近さ、藤谷くん来てなくない?』
『だよな、どうしたんだろ。』
イヤホンの外からそんな声が聞こえるので音量を上げた。
〈好き…満のこと、愛してるよ。〉
まだやっぱり声に感情が込もっていないからか、平坦に聞こえる。
今頃何をしているのだろう、きっといつもみたいにボーッとしてる。
もう僕以外考えられなくなってるんだ、きっと。
〈…今日も早く帰って来てね。〉
もちろんだよ、藤谷さん。
#殺し屋パロ
みんみんぜみ ミ"!!
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コメント
1件
うわ、予想外の展開でした…! 最初は「イヤホンで何聴いてるんだろう」って軽い気持ちで読んでたのに、最後の「好きって言って」からの一気に不穏な空気に変わるところがゾクッとしました。高科くんの、ずっと録音してたっていう執着具合と、藤谷さんの声を毎晩聴いてるっていう告白の仕方、気持ち悪いけど切実さもあって、すごく印象に残りました。続きがすごく気になります…!