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東雲先生に2回?恋した理由

東雲先生に2回?恋した理由

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第3話 最愛の妻としばらく離れなければいけない理由

♥

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2021年10月06日

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—202×年。

“ 時空移動装置”

所謂 “タイムマシン”が開発され、一部機関で一般化されてきた現代。

研究員の俺は、研究の為今日から一年間過去の教育の現場へと“出張”する事になった。

いくら一般化されてきたとはいえ、時空移動装置は一般人が気軽に使えるような物ではない。

一年間という長期間、異世界の様な所で、現代の家族や友人と一切連絡を取る事は出来ないのは、いくら研究員の俺でもかなり不安だ。

俺の不安を他所に、時空移動の移動の準備は着々と進められていく。

準備の最中、俺は椅子に座っては立ち上がってウロウロ歩いてみたり、掛けていた眼鏡を外して服で拭いてみたり……

と、無意識に落ち着いていられなかった。

そんな時、時空移動装置の準備を進めているこの研究の責任者である所長がこちらを向いて口を開いた。

準備が整ったのかと思い、思わずビクッと体を揺らしてしまった。

「 東雲(シノノメ)君、まだ準備に時間が掛かるから出発までの時間奥さんと過ごしていなさい」

「え?良いんですか?」

「あぁ。準備が出来たら呼ぶから」

「ありがとうございます!」

恐らく、俺が不安で落ち着かないのを察してくれての配慮だろう。

俺は急いで研究所の待合室にいる妻の元へ向かった。

「花梨!」

「 龍二(りゅうじ)……もう時間?」

自動ドアが開いた瞬間に立ち上がった花梨は、少し目を潤ませながら俺を見つめた。

左目の下の泣きぼくろが特徴的で、昔っから少し意地っ張りで、泣き虫で……とにかく全部引っくるめて愛おしい花梨の姿を見ると、胸の奥がギュッと熱くなった。

「いや、所長が準備が終わるまで花梨と過ごして来て良いって言ってくれてさ」

「そっか……」

「少し座って話そうか」

待合室のソファに二人で腰を下ろすと、俺は花梨の手を握った。

花梨は握った手をすぐに握り返してくれて、黙って俺の顔を覗き込んだ。

「はぁ……今日からしばらく花梨と会えないのか……」

花梨とは高校の頃に付き合い始めて、去年結婚したばかりだ。

今回の研究で過去に行く事は結婚した後に決まった。

今までも仕事が忙しくて花梨には迷惑を掛けてきたというのに今度は一年も花梨の元に戻れないなんて。

「……龍二……ごめ……時間ないのに、何話していいかわからなくて……帰って来るまで会う事も、連絡だって取れないのわかってるのに……」

花梨は、涙を零しながら無理矢理笑う。

そんな花梨を見ると、堪え切れなくなって花梨の顔を胸に押し当てて抱き締めた。

幸い、待合室には俺と花梨しかいなかったので俺は時間ギリギリまで花梨を抱き締めていた。

時空の移動が出来るくらいなら今のまま時間を止めてくれればいいのに……と、さえ思う。

待合室の自動ドアが開いて、所長がわざわざ知らせに来てくれる。

「東雲君……おっと、邪魔してすまない」

「い、いえ……そんな……」

所長が入って来た瞬間に俺達はサッと離れた。

「準備は整ったから、話が終わったら来るように」

「はい、ありがとうございます」

所長が待合室からすぐに出て行くと、俺は左手の薬指の結婚指輪を外した。

そして、花梨の手に握らせる。

「金属は持っていけないから……帰って来るまで預かってて」

「うん……龍二が戻って来るの待ってる……ほら、眼鏡も外さないと……」

花梨に眼鏡を外されると同時に、優しく花梨の唇が俺の唇に触れる。

珍しさに目を見開くと、花梨がクスッと笑った。

「……花梨。もう一回して良い?」

「ん」

俺は花梨と唇を重ねた。

名残惜しいが、花梨と待合室を出て所長の所へと向かった。

「それでは始めるとするか。何か重大な問題が無い限りは、君が受け持つクラスの卒業式の日までの任務となる。君は、レポートと現代に戻って来る前に現地の“記憶の修正”さえしっかりやってくれれば、問題ない。下準備は完璧だからな!」

所長は少し早い口調で、無精髭を指で掻きながら笑顔でそう言った。

俺も不安だが、所長も緊張しているのが伺える。

所長は能天気そうに見えるが、仕事はしっかりと出来る人だ。

まさか“ 重大な問題”なんか起こる訳がない。

 ヴ

  ヴ

   ヴ

    ヴ……

少し耳鳴りがする……。

「データしっかり取って来ます。それより、俺が教師をやる方が心ぱ……」

目の前が一瞬明るくなったかと思ったところで、目の前にいた所長と花梨はフッと見えなくなった。

そして、俺が今いるのは、どうやらどこかのマンションの一室のようだ。

耳鳴りも治まっている。

時空移動装置は何か箱に入ったり、体に色んな線を繋いだりなどはなく、時空移動は本当にあっさりとしている。

多くの研究員や所長、花梨がいた空間から突然一人の空間に放り出されるのは今までに経験した事のない不思議な感覚に襲われた。

喪失感というか…寂しいという感覚が一番近いかもしれない。

例えば、人がごちゃごちゃしてる場所からトイレの個室に入って一人になるようなのと同じようにも思えるのだが、それとは少し違う。

その場合トイレから出れば、普段の当たり前と思っている日常にすぐに戻る事が出来るが、扉を開けた所で……

ここは普段の当たり前の日常ではないのだから。

「……飛ばすタイミングもう少し見計らってくれよ」

会話の途中というすごいタイミングで飛ばされたけど、何か問題があったわけじゃない……よな?

行く直前まで花梨との時間も作ってもらったし、文句は言えないか。

明日から俺は昔通っていた母校で教員として働く。

“自分が在学していた5年前”の母校で。

俺の任務は、当時の教育の現場・教員や生徒達の思想などを目で見て、肌で感じて、データを取る事。

時空移動装置が開発されて以降、人類の科学技術は目にも止まらぬ速さで進化した。

特に生身の人間の転送が出来る様になってからは、過去の時代調査がたくさん行われる様になって、俺の所属する研究所でも、このような取り組みは数えきれない程行われている。

平和な時代でのデータ収集というのは、まだ幸運な方かもしれない。

俺はマンションに用意されているこの時代の生活で必要な物の確認をする。

自分が生きていた時代にあった物だけあって、やはり全てが懐かしい感じがするな。

お、ちゃんと眼鏡も用意されてる。

テーブルの上に真新しい黒ぶちの眼鏡も用意されていて眼鏡を掛けた。

ピコンッ-ピコンッ-

ん?

眼鏡の横に置いてあった用意された当時のスマートフォンから音が鳴っている事に気が付いて、画面を見ると“ 出勤時刻です”との表示が出ている。

スマートフォンの時計は7時30分。

「 んん!?」

部屋の時計を見ても同時刻。

ちょっと待て!?今、朝の7時30分なのか!?

教員勤務は明日からだったはずだ。

変なタイミングで飛ばされたから、もしかしたら時間がズレたのかもしれない。

俺は急いで時空移動の為に作られた特殊加工の服を脱ぎ捨て、用意されていたスーツに着替えてマンションを飛び出した。

勤務先の高校へは徒歩圏内ではあるが、急がないと最悪勤務初日に遅刻してしまう。

走りながらふとある疑問が頭の中を過ぎる。

俺が高校に入る五年前にスマートフォンってあっただろうか?

……いや、今はそれどころではない!そんな事は後で確かめよう。



*つづく*

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