テラーノベル
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監獄ダンジョン・カルケルの防衛任務は完了した。
六駆は防壁を解除して「やれやれ」と息をつく。
「お疲れ様、六駆くん! 待っててね、今、収集箱に入ってるアクエリアス出すから!」
「ああ、ありがとう。莉子さんや。半日ちょっとの戦闘だったけど、回数が多かったから疲れたなぁ。いやぁ、僕も衰えた。昔は2日続けて戦っても平気だったのに」
莉子からアクエリアスを手渡されて、六駆は喉を鳴らした。
体を動かした後に飲むスポーツ飲料の味は格別。
「逆神くん。疲れているところ悪いんだけどね。大吾さんは無事なの? 未だに木になってるんだけど。私の人命優先の号令で大吾さんが犠牲になってたらものすごく後味悪いんだけど!! いつものあれやったげて! 時間巻き戻すヤツ!!」
六駆はチラリと父親の姿を見て、「ああ」と呟いた。
続けて「『鬼火』、遠隔発現」と言って人差し指を木になった大吾に向けた。
「おぎゃあぁぁぁぁぁぁっ! あっちぃぃぃぃぃぃ!! 何すんだよ、六駆ぅ!!」
「ああ、大吾さん。無事でよかった! けど、どういう理屈で木に変異させられていた人が元に戻ったのかさっぱり分からない!!」
「この程度のスキルなら、親父の煌気で解除できますよ。今の『鬼火』は親父蹴飛ばすのが面倒だったので。木ってよく燃えそうだなって! うふふっ!」
「いや、倫理観!! 君ぃ! 蹴飛ばす代わりに放火したの!?」
「親父! 3万円あげるから、しばらく黙ってて!」
「おぎゃぁぁっ、えっ、マジで? じゃあ黙っとくわ!!」
南雲修一は無言で「親子ってなんだろう」と考えた。
そこにやって来たのは、久坂剣友監察官。
彼は辺りを見渡すと「こりゃあまた、派手にやったのぉ」と言って笑った。
「修一、生きちょったか! 良かったわい。なんかお主の煌気が訳の分からん変化したもんじゃから、古代の化け物にでも再構築されたんかと思うて心配しよったで」
久坂剣友、結構鋭い予測である。
南雲は「その件には触れないでください……」と肩を落とした。
肩を落とした南雲を確認したように飛んでくる、サーベイランス。
『南雲さん! お疲れ様っす! これでとりあえず全作戦の終了となりますんで、これから五楼さんに号令かけてもらうっすね。いやー、無事でよかったっすよー! ……ふっ』
「おおおおい! やーめーろーよぉー! 君ぃ! さては見てたな!? 見てたなら、情報で援護しなさいよ! 2番を私たちの代わりに注視したりしろよぉー!!」
『やー。すみません! なにせ逆神くんと小坂さんの煌気がすごくて、感知機能がバグってたんすよ! ああ、古龍の戦士の煌気もすごかったっす! ……ふっ』
南雲はそろそろ傾き始めた太陽を見て、「協会本部のオペレーター室にバケツで水撒いたら、私はクビになるだろうか……」と真剣に考えたと言う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
サーベイランスが4基、カルケルの地上で展開する。
聞こえてくるのは五楼京華上級監察官の声である。
『本作戦に参加した全ての者たちへ。ご苦労だった。アトミルカを取り逃がしたのは残念だが、諸君らの戦いによって引き抜かれようとしていた者の多くをカルケルに留める事は叶った。よって、本作戦は成功したものと協会本部は考えている。まずは各々、近くにいる負傷者の救護に当たってくれ。【稀有転移黒石】でこれより事後処理をさせる人員を送るので、負傷や煌気の枯渇した者はその場を動かぬように。以上だ』
今回もなかなかハードなミッションであったが我らがチーム莉子は全員無事に戦い抜き、逆神六駆はチーム莉子に復帰した。
ここで、主な被害を確認してみよう。
まず、監獄ダンジョン・カルケルは地上施設がほとんど大破。
第1層にも被害は及んでおり、復旧までにはそれなりの時間が必要だろう。
さらに第11層の被害も大きく、これは戦闘によるものと六駆と莉子の共同作業によるものに分ける事ができる。
どちらの被害が甚大なのかは、言うだけ野暮だろう。
囚人の脱獄は6名。
姫島幽星、パウロ・オリベイラの2名に加えて、Z3番ロブ・ヘムリッツ。
そこにZ3番が転移寸前に回収したZ5番バッツ・ホアン・ロイ。
さらにZ3番は2名の囚人も回収しており、こちらはまだ誰が脱獄したのか確認作業中のため分からない。
人的被害は探索員協会本部、カルケル職員、囚人、アトミルカと各陣営で多く出たものの死者は0人。
「南雲修一の参加する作戦では死者が出ない」と協会本部では噂が立っているが、今回もそのジンクスは破られなかった。
ただし、カルケル防衛司令のズケッチョ・ズッケローニが重傷。
川端一真監察官および、木原久光監察官も同じく重傷である。
刑務官の中にも負傷者が多数おり、これから協会本部より転移して来る和泉正春Sランク探索員率いる救護部隊が対応する予定。
各階層の囚人は、意外な事に暴れたり騒ぎに乗じて脱獄を試みる者がほとんど見られなかったと言う。
これは、彼らも煌気を感知できるゆえ「外ですげぇヤベーのがいっぱいいる!」と言う恐怖が勝ったのではないかと、後日、南雲修一が提出したレポートにて考察されていた。
被害の出た事実から目を逸らしてはならない。
が、それを最小限に抑える事ができたのは、紛れもなく探索員協会の奮戦によるものである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
六駆と莉子は芽衣を連れて海岸線へ向かい、クララや小鳩と合流した。
「あららー。小鳩さん、煌気消費が激しいですね。僕の新鮮な煌気を入れときましょう! はい、『注入』!!」
「くぅぅっ! わたくしの返事も聞かずに、男の方の煌気を体内に注ぎ込まれるなんて……! お排泄物ですわ! ……もっとやってくださいまし!!」
「莉子ちゃん、芽衣ちゃん! 無事でなによりだにゃー!」
「クララ先輩も! さっき加賀美さんに会いましたけど、大活躍だったらしいですねっ! すごいっ!!」
「にゃははー。01番くんのおかげだぞなー。ねー?」
「はい。マスタークララ。ワタシとマスタークララの相性を看破した、グランドマスター逆神六駆の慧眼あってこそです。それから、ワタシの性別は女です」
「そうだったのかにゃー!? ごめんぞなー! くん付けで呼んじゃってたにゃー!」
「えっ!? そうだったんですか!? サイボーグに性別とかあったんだ!!」
「もぉ! 六駆くん、ダメだよぉ。女の子に対して失礼だよ!」
「お気になさらず、ミス莉子。ワタシは気にしておりません」
つまり、01番もチーム莉子の乙女の仲間と言う事になる。
女子に囲まれて羨ましい六駆おじさん。
「そう言えば、芽衣は口数が少ないね? どうしたの? 煌気足りなかった?」
「……みみっ。芽衣はひどい裏切りにあったのです。六駆師匠がおじ様を連れて来たのです。何なら、師匠と莉子さんが戦っている間ずっとおじ様が至近距離にいた芽衣が一番苦しい戦いをしていたまであるです。……みみみっ」
「わぁぁ! ごめんね、芽衣ちゃん! 六駆くんも悪気があったわけじゃないんだよ!?」
「そうそう! 僕も戦うこととお金稼ぐことに必死だったからさー! 許してヒヤシンス!!」
「……みみっ」
この日、木原芽衣は少しだけ世の中のおっさんが嫌いになったらしい。
それから本部よりやって来た和泉正春Sランク探索員と雨宮順平上級監察官、それに六駆と四郎が加わって各所で回復作業が行われた。
その全てが終わる頃には、すっかり日も暮れて辺りは暗くなっていた。
こうして、監獄ダンジョン・カルケルの長い1日は終わったのであった。
コメント
1件
読み終わりました…! 防衛作戦、死者ゼロで終わって本当によかったですね。六駆さんとお父さんの「倫理観!」なやりとりには笑っちゃいました。南雲さんの「クビになるだろうか」の真剣なボケも好きです。それにしても芽衣ちゃんの「おじ様が至近距離にいた」苦労エピソード…「みみっ」が切なかったです(笑)。長い一日、お疲れ様でした!
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