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懐かしい空気だ。
日本の空港から出た私は強い日差しを手で受けながら空を見上げそう思った。現在、東京の気温は30℃。普段からこのような環境下で生活している日本人は凄いと思ってしまった。
日本に来た目的はほんのちょっとしたものだ。事件の関係で日本に直接赴く羽目になってしまった訳だが、せっかくなら少し寄り道をしようと思い、予定時間より早めに来てしまった。
そして私達は目的地の山の中の墓場に向かって進んだ。
山の中はジメジメとしていたが木などが影になりそこまで暑くは感じられなかった。予め花屋で買っていた花束が着くまでに暑さにやられることはなさそうだ。
「着いたぞ。」
私が辺りの木を見回しながら歩いているとロジャー、、2代目ワタリの声がした。ワタリの前には1つの墓石があった。
墓の中で眠っているのはかつての私の知り合いであるメロだ。高田清美を誘拐した後、高田が隠し持っていた殺人ノートの切れ端で殺されたものと見られる。その後は高田の焼身自殺で遺体も一緒に燃えてしまった。
そして結果的にずっと恨んでいた私に手を貸すことになってしまった。本当に哀れな人だ。
「お久しぶりです。メロ。」
そう言って花束を手向ける。薄い桃色のガーベラの花束だ。直射日光が苦手な花だが、途中でやられてしまわなくてよかった。
見栄えが良くなるように花束を調整したあと、そっと手を合わせる。
そしてそのまま隣の墓へ。
そこにはかつてのメロの友人、マットが眠っていた。マットはメロが高田を誘拐できるように時間稼ぎをしたが結果的に全方位から銃弾を食らうという結末を迎えてしまった。
私と歳がほぼ変わらないにも関わらず、、
ワタリが持っていた白い菊の花束を手向け、手を合わせる。
「向こうでも、メロをよろしくお願いします。」
マットの墓に向かって深く礼をする。メロは暴走しがちだけれど彼とメロはかなり仲が良かったようだからマットならなんとかしてくれるだろう。
墓場に背を向け、山を降りようとすると視線を感じた。視線がする方へ目線をやると幼い子供2人がこちらを木々の間から覗いているのが見えた。
「、、どうかしましたか?」
私がそう声をかけると2人の子供はこちらに手招きをした。ふと気がつくと、ワタリがいない。どこへ行ったのだろうか、、
しかし何故か私はこの時、「向こうへ行かなきゃ」という使命感に駆られていた。私はその意志の赴くままに子供の方へ歩み寄る。
すると
「あ、、ちょっと待って下さい、、」
子供が走り出して木々の奥の方へと走り出してしまった。その子供の後ろ姿はまるで「ついてきて」と言っているようだ。気が付けば先程まで蒸し暑かったが驚くほど涼しい。
私はそのまま子供の方へ歩き始める。
「はぁ、、はぁ、、どこまで行くんですか?」
普段外に出ないツケが回ってきたのか、数分で疲れが出てしまった。それでも子供は私が追いつくのを待ってまた走り出す。
数十分ぐらいだろうか。
子供を追いかけ続けていると子供が突然立ち止まった。そこは木々が何一つなく、爽やかな草原が広がっていた。
私がその草原に足を踏み入れようとした時。
「行くな!!」
と、聞き覚えのある怒号が聞こえたと思ったら私は誰かに肩を捕まれ引き戻された。肩に着いた手は大人2人の大きさの手だった。
咄嗟に後ろを振り返る。
「、、!!メr、、」
私がそう言いかかけた時、足元が突然崩れた。落下する私を見つめるようにメロとマットらしき人は立っていた。一瞬だったのでよく見えなかったが私を見ながら2人は優しくと微笑んだ後、白い塵となって消えていったような。そんな気がした。
「、、はっ、、」
目を覚ますとそこはどこかのベッドの上だった。何があったのか分からないがワタリが心配そうにこちらを見ている。
「目が覚めたようでよかった。」
ワタリはそう言った後、話を聞かされた。
どうやら私は突然、熱中症で倒れたのだそうだ。確かに慣れない暑さで多少目眩は起こしていたような気もするが、、
あれは、、夢だったのだろうか。
そういえば、この時期の日本は「お盆」と言う時期であり、亡くなった先祖や死者が帰ってくる日なのだそうだ。2人は日本で果てた為、日本の風習に習われたのだろうか。もしあの出来事が夢では無いなら、、
「ふふ、、」
少し笑いが込み上げてきた。もしかしたら私はあの2人に助けられたのかもしれない。あのメロが、私を助けたと考えるだけでもとても面白くて、嬉しい。
何故だかいつもより気分が良い。
たとえ夢だとしても、たまにはこんな非現実的な体験も悪くないかもしれない。
END