テラーノベル
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「きゃ~! 落ちたぁ!」
そこに、ルリの突然の叫び声が響いた。
え? まさか。
慌ててモニターを見てみれば、俺が危惧したとおり鎧達が二人、早くも落とし穴に落ちている。
王子様達が入った駆け出し用ダンジョンは至る所に罠が仕掛けられている。この落とし穴の中は剣がギラギラと上を向いている、落ちたら命がない危険なタイプだ。
普通だったら即死か大けが。
もちろん、このダンジョンでは剣の上に透明な板が張られていて、冒険者は死にはしない。視覚的に、「あんた死ぬとこだよ」と伝え、ヒヤリとさせる事が目的だからだ。
ゼロが落とし穴の部屋にアナウンスを流す。
「落とし穴に落ちた2名の方は、残念ですがここでリタイアです。今、部屋の隅が青く光っていますが、そこがワープポイントになっています。そこからお帰り下さい。またのチャレンジをお待ちしております」
鎧2人の姿が消えると同時に、ゼロはルリに目配せする。ルリは「好みじゃないわ~」とつぶやきながら、治療室に向かってトボトボと歩いて行った。
見た目は美女で回復系の魔法使えるルリが、挑戦者たちのケガも体力もしっかりと回復して優しく慰め、気持ち良くお帰りいただくのだ。いい人選だと思う。
それにしても、レベル20オーバーなのにこんなにあっさりとリタイアがでるなんて、難易度高く造り過ぎたか?
考え込む間もなく、ダンジョンに叫び声がこだました。
「なんなんだ、あいつらは! あれでも僕の護衛か! まだ入って30分も経ってないんだぞ!?」
王子様の怒りももっともだ。さっきまではあまりの事に声も出なかったんだろう。だが、彼らが死んでないからこそ、思いっきり罵倒も出来る。次にこの教訓を活かして欲しい。
「アライン様、ヤツらには私が責任持って、死んだ方がマシだったレベルの仕置きをしておきますから、ご勘弁を」
うわぁ……ユリウスの笑みが恐ろしい。残った3人の鎧は真っ青だ。
可哀想だが、まだまだ先は長い。そしてこっちのダンジョンは本当に、まあまあ意地悪な罠が多いんだ。恨むなら途中で楽しくなって仕掛け過ぎた、うちのヘタレマスターを恨んでくれ。
ひとつひとつの罠にうっかり引っかからないか、ハラハラしながら見守る。
実は最短ルートを選ぶとかなり短時間で攻略出来るんだが、王子様達は宝箱も多いが罠も多いルートに入ってしまっている。
ヘタすると、同じ場所をぐるぐる周ってしまう可能性もある、魔のゾーンなんだよな。本当に頑張ってくれよ、鎧達。
そしてその頃エリカ姫は、廃墟部直前に位置するドワーフのアクセサリー店で、ショッピングを楽しんでいた。
のん気なもんだ。
買い物を終え、廃墟部に入ったエリカ姫一行は、さすがに苦戦し始めた。
ここはピクシーやコボルト、ゴブリンが、集団で襲ってくる場所だ。特にピクシーの様な飛ぶ系のモンスターが混ざると戦いにくくなるから、ここは意外と体力を削がれる場所かもしれない。
ちなみにカエンが手を出すと話にならないので、傍観を決め込んでいるようだ。
だがそのせいで、戦闘で一番活躍しているのはエリカ姫、という残念な感じになってしまっている。
しかし、みんなケガはあるものの誰も脱落していないし、宝箱ももれなく回収している。まあまあ優秀なんじゃないか?
一方、王子様ご一行については、さっさと治療を終えてマスタールームに戻ってきたルリが様子を追ってくれている。
だが、さっきから「きゃっ」「危ない!」といった、小さな叫びがちょいちょい聞こえてくるあたり、なかなか危なっかしい冒険具合のようだ。
俺はゼロと交代して、ルリが見ているモニターを覗いてみた。
「あちゃー、こいつヤバいんじゃねぇの? リタイアさせたら?」
「やっぱりそう思う? 結構前にポイズンスライムの毒を受けたんだけど、毒消しの宝箱もスルーしてるし、回廊ループしてるし、そろそろ潮時かなって思ってたのよ」
俺たちのモニターには挑戦者のHPとかも表示されてるから、HP切れ間近なのは一目瞭然だ。
鎧の中ではなかなかのイケメンだから、ルリとしては折檻が可哀想だと思ってるんだろうが、ここはちゃんと引導を渡してやるべきだと思う。
「リタイアさせて、ルリが優しく介抱してやればいいんじゃねえか?」
「それもそうね。……うふふ」
嬉しそうだ。良いことをした。ルリのそんな様子を見て、ゼロが再びアナウンスを流す。
「ポイズンスライムの毒を受けた方、HP切れのためリタイアです。残念でしたね。それ以上動くと死にますから、動かないで下さいね」
ゼロはひと呼吸おいてユキを見た。ユキはリュックを背負って準備万端だ。やる気に満ちた目で、しっぽもふりふりと揺れている。可愛い。
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