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252
暗い。NKSR
病み
─── ───
かち、かち、かち。 無機質な針の音が時間の流れを感じさせる。現在の時刻は24時半。きっと昔なら、この時間はぼびーと盛り上がって話していたか、一緒に寝ていたか、体を重ねていた。こんな時間に、一人で天井とにらめっこすることなんてなかったのだ。俺は編集や活動に追われた時はいつもこうして一人でいる。でも、必ずふと気付いたらぼびーがいた。いつもは自らあまり来てくれない真隣。足と足がくっつくような距離に、座ってくれて。本当に座るだけで、飲み物を飲みながらスマホを見る。俺が、なんとなく、相談しようかという気分になった時に、ぼびーは口を開く。
「 どんな顔しとんねん。暗。 」
決して優しい言い方でもないし、何か相談に乗ろうと言ってくれる訳でもないが、心地よくて有難かった。
きっともう、叶わないだろう。ぼびーは生きてるし、同じ家に住んでいる。顔も見せてくれるし、話してくれる。でも、またあの、あの…笑顔を見たいなんて。我儘なのかな。そんなことを思い、まるで煙でも吐くように二酸化炭素を排出するとガタガタと音がした。
「 にき、 ぃ …、 笑 おはよ …笑 」
俺に向けられる笑顔に、恋焦がれることもできないし、同じような笑顔を向けることはできない。
自分でもわかるほど、引き攣った笑みが貼り付けられる
「 ぁ、 ぼびー 。 起きた ?笑 」
「 おん、 ゛ にき、にあいにきたんよ 」
表面だけ、言葉だけ見れば。ただの仲良しな会話であることはわかる。ぼびーの両腕と、顔色から目を逸らせば。いままさに、ぼびーが戦っていることが分かる。引かないし、否定もしない。ただ、悲しかった。今もどうせ、ぼびーじゃない。薬か何かを飲んで気分が高揚しているだけの、ハリボテ。
「 にき 、 にき… そないな顔せんといて゛ 」
縋るように口付けしてくるぼびーを見て、潜在意識に俺がいることに強く安堵する。でも、甘ったるくて大好きだったぼびーとのキスは、薬と何かで、ほろ苦かった。あれほど鬱陶しいほど湧いて出ていた可愛いなんて感情が、今はこれぽっちも出てこない。
「 なんか、言うてや゛、も、…… はぁ、゛」
薬が切れてきたらしい。ぴく、と眉を顰めさけ不快そうに此方を見ている。
「 ごめん、ぼびー 。ちょっと眠いだけ。 」
なんて、脳は何時でも冴えていて、俺はもう満足に眠ることが出来ていない。ぼびーを優しく抱き締めようとすると、鋭い痛みが頬を刺した。ぱちん。そんな不愉快な大きな音に、俺は目を細めた。
「 来んなよ゛、お前も、……お前もどうせ、 」
ぼびーは薬が切れたらずっとこの調子。何かに怒っているか、何かに悲しんで泣いている。病院を勧めても、連れていこうとしても、俺は叩かれるから。いくらぼびーが細いとはいえ、痛いものは痛い。
「 違う、違うよぼびー。今日は一緒に寝よ ? 久しぶりに、」
こっちの方が、薬使用時よりぼびーらしい。まぁ、全く違うのだけど。俺がどんなにふざけても、愛しても。以前のようには行かないんだ。
「 来んなって、どうせお前も俺の事キショいって思ってんやろ゛」
思ったことなんてない。ただ悲しいんだって。お前に、行かないで欲しいだけなんだよ。ぼびーの言葉一つ一つに、重たい感情を乗せたくなる。ただ虚しくなるだけだから、包み隠しているが、これもこれで、虚しい。
「 思ってない、好きだよ。大好き。ずっと 」
俺の言葉に嘘はないし、真実だ。どうか伝わってくれないかと、毎日毎日信じていなかった神に祈る。
「 うるさい、もう、うるさいねん……゛皆゛……」
他の奴と一緒にされることが悲しい。前までなら、どんな時でも俺を特別に置いてくれたのに。そんなことを思っていると、ぼびーはぼろぼろと泣き出した。
「 ごめん、゛ちゃうねん、にき、もうわからんくて、違う、」
きっと先程までの自分を否定しているのだろう。泣き崩れてしまったぼびーに、なんと言ってやればいいのか毎回悩む。気高くて、頭が良くて、鋭くて冷静で。そんなぼびーはいない。もうぼびーという存在が俺は好きだし、愛してるから。愛は冷めないが、元に戻って欲しくないといえば嘘になる。
「 にき、にきなぁ、ごめん、こんなんでごめんな、」
「 大丈夫、大丈夫だから、泣くなよ。 」
きっと、ぼびーの本心なのだろう。情緒不安定なぼびーが、唯一まともに話してくれるとき。でも、このモードになると必ず自傷行為に走る。
「 止まらへんねん、もう、分からんから 、」
ごめん、部屋戻る。とゆっくり立ち上がるぼびーの腕を優しく掴む。優しく掴んだはずだが、少し痛そうに顔を顰めた。
「 行かないで、一緒に寝よ。一緒に、いよ。 」
欲を言えば、1番元に近いこの状態を崩して欲しくない。まだ俺が何とかできるこの状態を。
「 ん゛、や、……でも、 も、」
カタカタと腕が震えている。きっとこの後は自分で自分を痛め付けて、また薬を飲むんだろう。先程打たれた頬が、痛みを増す。
「あァ、頬、ごめん、俺よな、ごめん、 」
俺の頬に丁寧に触れ、悲しそうに眉を限界まで下げるぼびー。可愛いと思った。今日は一段とぼびーの機嫌がよくて、これなら少しだけ話ができそうだと思った。腕をひいて、自室に連れてくる。
「ぼびー、病院、いこ。」
「 ッ゛、いや、や。ニキと離れたらホンマにおかしくなってまう、 今でもなんも分からんのに゛……!」
俺の両手をぎゅ、っと握り体ごと震わせている。それでも俺は、病院を進めるしかなかった。俺には何も出来ないから。俺が1度、耐えきれなくて自分を傷付けた時。ぼびーは悲しそうに優しく話し、少し俺を叱った。暖かくて、俺もいつかぼびーが落ち込んだら何とかしようと思った。
そんなことは出来なかった。頭のいいぼびーにできること。俺にできるわけがない。ぼびーを、分かった気になってた。俺よりストレスの感じやすいぼびーが、俺より酷く気を病んでしまうことがあるとは思っていた。だから時折相談には乗ったし、毎日一緒に寝ていた。でも、避けられるようになって。そこで俺は無理にでも入り込むべきだった。少し距離を置いたこと、いまでも自分を殴り飛ばしたい。
「 ニキ、は俺の事嫌いになったん?こんなんだから、もう、いらん、?」
「 違う、違うよ。また、前みたいに笑って欲しいだけ。 」
困っまうに目をそらすぼびー。情緒不安定さは変わっていないが、なんとなく話せていることに喜びを感じる
「 じゃ、ぁ … 1回、明日、 連れてってや、 1人は、怖いから 、」
ここ数ヶ月。はじめて了承してくれたぼびーに、目の前が輝いた。これでいい方向に持って行けるかもしれない。また、二人で上を目指して笑い合えるかもしれない。そんな先走った考えで、俺はぼびーを抱きしめた。
「 ちょ、苦しいわ 、なんやねん 、笑」
しかも、しかも。前のぼびーみたいな、そんな空気感で。ずっと堪えていた、枯れていた涙が、遂にぼろぼろと溢れ出た。
「 明日、明日な、うん、ちゃんと覚えとく、紙貸して貰ってもええ 、?」
記憶が混濁しやすいぼびーは、紙とスマホ、手にまでメモしてくれた。前向きなその姿勢に、俺は酷く安堵した。
「入院とか、嫌やから、ニキと、会えんのはいや、苦しいねん、ずっと……」
心臓を抑えているぼびーが、自傷行為を抑えているのは容易にわかった。だから優しく抱きしめてやり、ゆっくり撫で続ける。もうしくじっては行けないから。
「 ン゛、ぅ、… ぅ゛ っ、 ひ、っく、 」
弱々しく涙をながすぼびーが少しでも寝れるように。なんて思っていたら、俺の方がぼびーが腕の中にいることに安心してしまったのか眠りにいてしまった。
朝目を覚ますと、ぼびーは隣にはおらず、一気に背筋が凍った。久しぶりによく寝れてしまい、もうかなりの時間をぼびー1人にしたことになる。苦手な筈の朝だが、ばっと飛び起きてぼびーの部屋へ向かう。
「 ぼびー、ぼびーいる? 」
返答がないため、中にいるのかも分からない。ただ、嫌な匂いが鼻を刺す。
ドアを開けて目に入ったのは、もう、何とも言い表せない、ぼびーの姿。
泣き叫ぶことも出来ない。喉が震えて。
あんなに明日約束したのに。何も、今日じゃなくたって。いいじゃん。でも、昨日書いていた紙が、握りしめられていたかのようにぐちゃぐちゃになって落ちている。最後まで葛藤してくれていたのだろうか。真意は分からない。もしかしたら、この俺の選択があまりにも不快で、死に追いやったのか。あぁ、もう分からない。絶望してら血や尿や、ぼびーの色々なものでぐちゃぐちゃになった部屋を見る。1つ日記を見つけて、手に取った。それは、ぼびーが病み始めてしまった頃ぐらいから。
「 最近 悪いこと続きでだいぶウンザリしてきた。にきに相談しても、なんとなくモヤが消えん。
ニキに腹が立つ。あんなにキラキラしてて、羨ましい。良いなって。俺もあんなふうになりたかった。今は近付かないで欲しいとは言ったけど、それでも抱きしめて欲しかった
かなりまずい気がする。自分が何をしたのか分からない。パッと冷静になった頃にはニキが、ニキが今までで1番悲しそうな顔をしてこちらを見てた。怖い。どうなるか分からない。
気持ち悪い。薬の副作用は毎回最悪だ。止めたい。止めないと、ニキが困る。こんな状態にだったらニキもきっと落ち込んでいる。話を聞いてやりたいけど、ニキを前にすると脳が焼けるように苦しい。きっと、嫉妬心の暴発だろうな。
腕痛くて、文字が震える。希死念慮がずっと俺にまとわりついてる。少しでも落ち着けた時に綴っておかないと、何かあった時に、後悔する
好き、ほんまに好き。大好き。言えなくてごめん。こんな弱くてごめん。ニキが俺を愛してくれてるのなんか、分かってるんに。何もかも上手くいかない
病院、行かないといけない。ニキと離されるかもしれないけど、どうしても治さないと行けないのはわかっとる。大丈夫。ニキと離れるくらいならなんて、絶対。これから一緒に進めるとええな
」
こんな日記を読まされて、どうしろというのか。きっと、情緒が安定していない時に、病院に行くくらいならと死を選んでしまったのだろう。これを見る限り、きっと葛藤して、それでもぼびーの心の声に、従ってしまって。
こんなことなら、こんなことになるなら病院なんて行かなくてよかったのに。高くを臨み過ぎたのか。寝てしまったせいで、ぼびーを止めてやれなかった。もう死臭も気にならないほど、全てが麻痺している。今までずっと一人で抗っていた痕跡が、酷いほど目に入る。そこだけ綺麗にされている俺との写真が、暗く歪んで見えた。部屋から出て、倒れ込んだ。世界で1番大好きで、愛してて大切だった人が、自ら命を絶った。俺のせいで。俺が間違えたせいで。心臓の鼓動がうるさい。もう、俺の人生何も出来ない気がした。活動休止してるぼびー、のファンには、どう伝えようか。俺はひとりで歩んでいけない。
数日、数日はもう、何も考えず無心で生きている。そんな時、ぼびーの声がした気がした。
「 にき、にき。 」
ふわ、と、甘い香りがして、目を見開く。
「な、ぼびー?、いんの? なら教えてよ 」
「 俺より頭いいんだから、俺どうしたらいい? 何したらいいん? もうわかんねぇって 」
久しぶりに口を開いたから、詰まり詰まりに話した。
「 来る? こっち。 」
その台詞に、これは俺の幻聴だと確信する。でも、もう従わざる追えない。聞こえてしまったのだから、俺はもうそちらに行くしかない。スマホを手に取り、久々にSNSを見ると、えげつない量の通知があった。その中にはメンバーからの通知も。でも、そんなもん全部無視して。ぼびーが死んだこと。俺も死ぬことをツイートし、ぼびーの部屋向かった。縄から下ろしたぼびーをそこに、寝かせている。警察に言うのも、疲れるから。その横で目をつぶり、甘い香りに包まれた。数時間そうしていると、ガチャガチャと音がしたし、スマホの通知はさっきからうるさい。でも、ぼびーが全部かき消してくれるから。俺は自分で自分を刺した。これであいつらが入ってくる前に死ねるといいけど。隣で死にたいから、これ以外は無理。痛みなんて感じず、ぼびーの言うがままに自害した。
「 ニキニキ !!! 」
りぃちょの声。それが最後に聞いた音だった
「 なんで、なんで来たん。 あんな、いっ、たい死に方して。 」
「 ぼびーだって、苦しそうだったよ。 」
「 いや、それはもう、意識ちゃうから、 」
「 俺もだよもう、笑 会えてよかった !」
「 あァ、うん、呑気やな。今現世は壮絶としとるで普通に。 」
「 りぃちょまで死なないといいな、見に行くか。 」
「 見に行ってもお前は死んだけどな。俺本人は何回もとめたんに」
「 ごめんごめん、でもこれでずっと一緒じゃん。ここでてっぺん目指そ。」
「 場所的にはてっぺんやけどな。 」
なんて。 死んだことに満足してる。ぼびーに会えることがいちばんの幸福だから。
コメント
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うわあ……読んでいて胸が詰まりました。 「にき」と「ぼびー」がそれぞれに相手を想いながら、すれ違って、どんどん深みにはまっていく感じが生々しくて苦しかったです。特に、ぼびーの日記で「病院行かないといけない」と書いてあったのに、結局行けなかった切なさ。にきが「寝てしまった」ことをずっと後悔するところも、読んでいてやりきれなかった。 「死んだことに満足してる」というラストの一文に、もう救いようのない二人の関係性が凝縮されていて、しばらく言葉が出ませんでした……素晴らしい作品でした。ありがとうございます。