夢が叶えば、どれだけよかっただろうか。誰よりもずっと願っている。
そう、思っていた。
ある日の夜。夜の蛍光灯に照らされた桜が雪のように積もっている。 窓から見ただけでは分からない美しさがそこにはあった。
当たり前だが、夜は暗い。たまから 僕の影も空にある顔も夜には見えてこない。
でも、僕の心の中ではずっと、桜という鏡に君が映っている。
それを誰かが見ることは無いし、君にだって伝わらない。
あの日の姿が、あの日の桜が、ずっと、ずっとサビのように取れない。
今ある現実から逃げるように、僕はあの日の君から離れられていない。
3年前の今日、電車の脱線事故が原因で約240人が亡くなった。
その電車には、いつものように小説を読んでいる君もいた。
僕は無事だった。駅に着いたとき、忘れると絶対駄目な宿題を忘れたことに気づいて、急いで取りに向かったから。
でもあの時、君も同じ宿題を忘れていたっていうのに僕は君に「一緒に取りに帰ろう」という一言をかけることが出来なかった……。
だから…僕のせいだ。
ハッと気がつくとそこには見慣れた天井。どうやら夢から覚めたようだった。ふと時計を見ると、朝の6時34分。
「やばいもう行ってるかも…!」
身支度をし、今にも倒れるのではと思うほど、ふらつきながら走った。
「怜華!」
絞り出したような声であの子を呼んだ。
すると彼女の顔は、最初こそ不思議そうな顔ではあったが、すぐに呆れたような、諦めたようなそんな表情に切り替わった。
「朝、弱いんじゃなかったの?」
「怜華と一緒に行きたいから!」
僕は怜華が好き。
転校初日、初めての転校で緊張の色で心が塗りつぶされていた僕に優しく話しかけてくれたあの姿に一目惚れした。
それからもっと話をして、仲を深めていった。
「……今日は言わないんだ?」
「言って欲しいの?」
「別に、そういう訳じゃないけど…いつも言ってたから」
顔を少し赤らめ、照れくさそうに言った。
「好きだよ、怜華」
いつもこうやって好きを伝えている。でも怜華は真面目には受け取ってくれない。
英語で表すのなら僕の気持ちは「Love」で、彼女の気持ちは「Like」なのだろう。
友達として、親友として、クラスメイトとして…僕に対して怜華は、それくらいの「好き」なのだと思う。