テラーノベル
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消灯時間も過ぎた頃、暗い部屋で一人、天井を見つめる。
頭が冴えて全然寝付けない。
こういう時って何したらいいんだろう。
体を温めたらいいとか誰かが言ってなかったっけ。
いやでもここ水道水しかないし。
ストレッチは……無理だな、変に体動かしたら怒られそう。
諦めてテーブルランプを付け、引き出しから日記を取り出す。
新しい事を覚えるのにも苦労する、と言われて付け始めたものだが、そこまで支障は無かったため別に付ける必要は無かったかもしれない。
思ったところで今更ではあるが…
日記といってもほとんどが、三人に聞いた昔の僕についての事しか書いてない。
パラパラとページをめくり、過去のものを読み返す。
クラスでは誰にでも優しくて、みんなから頼られる優等生だった僕。
自己犠牲さえも躊躇わない、周りが呆れる程、赤根さんのことが好きだった僕。
生徒会副会長で、先輩のことが嫌いで、反抗ばかりしていた僕。
どれもあまりに噛み合わなくて、頭がおかしくなりそうだ。
出来ることなら否定したい、どれか一つにしたい。
でも、出来なかった。
全部理由があった気がしたからだ。
けど理由ってなんだ?そもそもなんで僕は…
暗く深い曖昧な記憶の底から、形もわからないような、いつかの誰かの言葉が浮かび上がってくる。
『優等生ってかっこいいよね』
誰だ?
誰の声だ?誰の言葉だ?
こんなの知らない、
誰が言ったのかなんて僕には……
「……赤根さん…?」
その瞬間、心臓が大きく脈打つのがわかった。
褒められたわけじゃない。
求められたわけでもない。
でも僕はそれを”正解”だと思った。
だから勉強をした。
誰にでも優しくした。
生徒会にも入って副会長にまでなった。
あぁ、そうだ。
全部赤根さんが言ったんだ。
赤根さんが憧れたものは全て手に入れて、
赤根さんが好きなものは自分も好きになった。
全部全部、赤根さんの為の『優等生』だ。
記憶を無くす前の僕が赤根さんとどんな関係だったのかまでは思い出せない。
もしかすると成立した恋だったのかもしれない。
でも今の僕からすれば、たった一人の言葉で自分の全てを作り替えるなんて、ただの自己犠牲にしか思えなかった。
『優等生』は自分で選んだ姿じゃない。
なんでこんな最悪な事だけ思い出したんだろう。
出来ればもっとマシな事思い出したかった。
そんな僕の頭の中にひとつの不安がよぎる。
副会長だった僕はどうなんだろう。
先輩に噛み付いて反抗していた僕も、誰かの隣に立つ為の仮面だった?
僕は誰かの言葉や評価を基準に自分を作り替えていたのか?
もしそうだとしたら、今更どれが本当の自分かなんて選べる訳がない。
自分しか知らなかった蒼井茜も、みんなが知っていた蒼井茜でさえも僕は知らないのに。
胸の奥が痛い程に冷えていく。
同時に、酷く静かになった。
あぁ、そっか。
なんだ簡単なことじゃないか。
わからないなら迷う必要はない。
全部演じればいいんだ。
優等生だった僕も、
病的なくらい一途だった僕も、
副会長だった僕も。
どれか一つを選ぶ必要なんてない。
全部が『昔の蒼井茜』なら、僕はその続きをやればいい。
たとえそれが嘘でも、誰かの言葉から生まれた偽りでも。
僕は昔の蒼井茜の続きじゃなきゃいけない。
何も持たない空っぽの僕にはなりたくない。
僕は『蒼井茜』にならなきゃ。
コメント
4件
蒼井茜の酷く強い自己犠牲がさらに悪化している感じがなんか、ものすごくギュゥゥウゥゥンッッッってきました(急に語彙力)物語進めるの上手すぎて羨ましいデス泣
わ~展開すごく好きです、!! みんながどんな反応するのか気になる、、続きも楽しみにしてます🫶🏻💗