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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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後ろでコシヌルイ公爵が口を開いた。


「猊下は病で療養されていると聞いておりました。そうではなかったのですね?」


ノクサは頷きその質問に答えた。


「大司教として教皇として、長年神にこの身をささげ生きてきた。だが、この歳になって、大司教でも、教皇でもなく、ただの民草として自由に過ごしたくなったのだ。幸い、今では私の顔を知るものはほとんどいない。もし知っていたとしても、この身なりを見て私が教皇だと気づく者もいまい。それで療養の名目で教会を離れ身元を隠し、市井に紛れた。それも今日で終わってしまったがな」


と、しんみり言った。


カルはノクサに訊く。


「猊下、お訊きしたいことがあります。聖女をないがしろにしたからと言って、結界が崩れるようなことはあるのでしょうか?」


ノクサは頭を振る。


「結界は結界石によるもの。聖女を召喚するのは信仰心が必要だが、張られた結界は信仰心とは関係ない」


と答えた。それを受けてカルは頷く。


「そもそも我々も聖女を蔑ろにした事実もない。寧ろ聖女が礼儀を欠き、我々を愚弄した」


そう言って聖女を見据え話を続ける。


「それが原因でなければ、なぜ結界が一部消失したのか? 実は結界が消失していた場所を調査したら、光魔法を使った痕跡が見つかった。聖女よ、これがどういうことだかわかるな? 結界を打ち消すような光魔法を使えるのは、この国ではただ一人、聖女だけだ」


すると栞奈は答える。


「なにそれ~笑える、おもしろ! そんなの全部出鱈目でしょ? だいたい、きょうこうってなによ、げいか? そんな人知らないし」


そして、余裕の表情で言った。


「あのね、私は聖女なの。結界石を作ってもらわないと困るんじゃないんですか~?」


カルは鼻で笑う。


「負け惜しみは見苦しいぞ。それに何を勘違いしているか知らないが、聖女は何人でも召喚できる。君に頼まなくても必要ならば、また召喚すれば良いだけの話だ。過去に力が弱く大きな結界石を作れなかった聖女は何人かいる。それでも小さな結界石は作れるから、ありがたい存在だったが。さて、君はどうかな聖女様?」


侮蔑の眼差しで聖女を見た。栞奈は突然動きを止めると、不思議そうな顔でカルを見ていった。


「あれ? カルミア様? 本当は心の底ではカルミア様は私のこと愛してるんですよね? その女から私を守るためにその気持ちを隠しているんでしょう? 私の方が断然その女なんかより可愛いし。それに、私はヒロインなんだもの! カルミア様、もう我慢してそんな芝居しなくても、その女に本当のこと言っても良いころなんじゃないですか?」


カルは無表情で言った。


「それも訂正せねばと思っていた。アザレア公爵令嬢を求め欲しているのは私の方だ。彼女に対する気持ちが強くなることはあれど、気持ちが離れていくなんてことは絶対にあるはずがない。それに断言できる。私は今もこれからも君を愛することは決してない。君はヒロインになりたかったのかもしれないが、残念ながらヒロインにはなれないようだ」


栞奈は明らかに動揺し、頭を抱えた。


「そんなの嘘! だって、だって私本当にヒロインなのに……。またこんなことになるなんて……」


そして、突然顔を上げ怒りに顔を歪ませながら、アザレアを指差す。


「アンタが! アンタが死んでないのが悪いのよ!!」


アザレアは頭に血がのぼるのを感じた。この数ヶ月生き残るためにアザレアやカルたちがどれだけ苦労したのか、栞奈は何も知らない。


その上、マフィンの毒でリアトリスが死んでいたかもしれないのだ。アザレアは我慢の限界だった。気がつけば無言で栞奈の前まで行き、思いきり栞奈の左頬を叩いていた。


パン! と大きな音がし、一瞬の静寂ののち栞奈が叩かれた左頬を押さえる。


「この糞女、なにすんのよ!!」


その言葉に、アザレアは躊躇なく、今度は裏拳で逆の右頬にもう一発入れた。すると栞奈は床にへたりこんだ。そしてアザレアを下から睨みつける。


「ゔぁぁ!!」


獣の咆哮のような叫び声をあげ、アザレアにつかみかかろうとした。その瞬間、フランツとカル、リアトリス、ファニー、ノクサまでもが栞奈の前に立ちはだかり、アザレアを守った。そして、まもなく|栞奈《かんな》は取り押さえられた。


栞奈は両腕を後ろ手にされ、床に頭を押さえつけられながらも叫ぶ。


「ぐぅ、こんなことあり得ない! アンタのせい! アンタのせいなんだから!!」


カルは栞奈に向かって言った。


「無実の人間を貶めようとしておいて、よくもそんなことを言えるな。君はもう聖女ではない。君の処遇は後ほど決める。連れて行け」


そう言って、近くにいた騎士に指示を出した。


聖女の後にいて、まるで空気のような存在だったチューザレ大司教はこの時になってようやく口を開いた。


「王太子殿下、大変申し訳ございませんでした。全て私の不徳の致すところで御座います。聖女様がご乱心なのをわかっていながら見ているだけで、止めることができませんでした」


そう言って、土下座した。


「この度の不祥事は全て私に責任があります、如何なる処分も受ける所存でございます」


そう言いながら、床に額を擦りつけた。彼の本性を知らなければ同情していただろう。カルは、チューザレ大司教に向かって言った。


「とにかく立て」


チューザレ大司教は立ち上がり、もう一度深々と頭を下げる。


「お許しくださって、ありがとうございます。沙汰が出るまで、教会で謹慎致します」


そう言うと、立ち去ろうとする。


「誰が帰って良いと言った。お前の余罪追求はまだ終わっていない」


その言葉に、チューザレ大司教は振り向くと、酷く驚いた顔をした。


「余罪とは? 聖女様のことなら私が全て」


と言ったところでカルは言う。


「そのことではない」


そしてカルは、まだ話そうとするチューザレ大司教に向かって言い放った。


「黙れ」


そして、チューザレ大司教が沈黙したところで話し始める。


「まずは横領の件だが、偽造印を作った職人を見つけた。お前に殺されそうになって逃げているところを保護した。命が惜しいらしく証言すると言ったよ」


そう言われても、チューザレ大司教は顔色一つ変えなかった。カルは続ける。


「ミツカッチャ洞窟崩落事件、あれも実行犯がやっと雇い主の名前を吐いた。お前の腹心のソレイルの名前をな。どういうことかわかるな? ソレイルは刑期を軽くする約束でお前の悪事を全て吐いたぞ。結界消失の件も聖女をそそのかし、結界を消失させたのはお前の入れ知恵だな。ヴィバーチェ公爵領土へ移動するために、王宮から移動魔石を持ち出したのは調べがついている。最終的に全て聖女の所業にして厄介払いするつもりだったのだろう」


そうカルに言われても、チューザレ大司教は顔色一つ変えずに首を振る。


「殿下、騙されてはいけません。これは聖女様と王宮を対立させ、延いてはアゲラタムと王宮を仲違いさせるための罠なのです。調べてもらえばわかるでしょう」


チューザレは穏やかにそう言った。チューザレ大司教なら、偽物の証人を連れてきて誰かに罪を着せ、言い逃れするぐらい簡単なのだろう。その態度は堂々としたものだった。が、カルはそんなチューザレ大司教を見て笑みを浮かべる。


「あともう一つ」


そう言って、フランツに合図した。フランツは奥の部屋のドアを開ける。


「お待たせしてしまいましたね、申し訳ありません」


と言って誰かを部屋に招き入れた。


それはアングレカム大司教だった。アングレカム大司教は手になにかの箱を持っていた。今までなんの反応もしなかったチューザレ大司教がその箱を見た瞬間、ワナワナと震えだした。


「この箱の中には、聖女を召喚するに至った結界石の兆候、神のウロコが入っている。これを今回みつけたのはチューザレ大司教だったな? 結界石が壊れると同時にこのウロコは消えてしまうので、これが本物かどうかわかるのは、以前の聖女召喚の時に神のウロコを実際に見た猊下だけだ。では猊下、これが本物の神のウロコなのか確認をお願いします」


チューザレ大司教が叫ぶ。


「まちなさい! それは教会が管理する神聖なものです。それを勝手に持ち出して、アングレカム! 貴様は一体何を考えている!!」


そう言って箱を奪おうとした。が、チューザレ大司教はホルンストとフランツに取り押さえられた。アングレカム大司教はノクサに箱を差し出すとそれを開けた。ノクサは箱の中を覗き込むと、頭を振る。


「これは偽物、似ても似つかん」


すると、チューザレ大司教はホルンストとフランツを振り払った。


「おのれ、この老いぼれめ!!」


そう叫びノクサに飛びかかろうとした。その時リアトリスがすかさず足をひょいと出した。チューザレ大司教は勢いよく、その足に引っ掛かり転倒した。


チューザレ大司教は顔面を床に強打し前歯が折れ鼻血まみれになった。そして顔を上げると恨みがましくリアトリスに叫ぶ。


「きひゃま、なりをする!!」


チューザレ大司教は、そのままアッサリ取り押さえられた。


「チューザレ、貴様はもう終わりだ、連れて行け!」


呼ばれた騎士たちに連れていかれた。ヴィバーチェ公爵がその背中を見つめながらつぶやく。


「欲望にまみれた召喚だったからこそあのような聖女が召喚されてしまったということか……」

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

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