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きれいなかおだね

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きれいなかおだね

1 - きれいなかおだね

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2024年08月05日

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あくまで個人の趣味であり、現実の事象とは一切無関係です。スクショ、無断転載、晒し行為等はおやめください。


ホラー風



「今日は実写です。心霊スポットに来ました」

「どうしてですか」

「カメラの後ろには18号もいます」

「帰らせてください」

「無理です」

とんでもない入りで始まった撮影。場所はとある廃墟の前から。


「夏やけんね。ちょっとは怖い事もしないといけないじゃん?肝試しみたいな」

「いやいや、お前ホラー嫌いやったろ」

「心霊スポットは別に出るって決まってないし迷信だろ?」


ニキ曰く、ここは事故で顔を失った霊が出ると言われているらしい。目や鼻の判別が出来ないくらいぐちゃぐちゃになっているとか。


メンバーの大反対を無視して始まった撮影は案の定特に何も起こらず、ギャアギャアわぁわぁ叫ぶばかりで終わった。それなりに盛り上がった場面もあったので、ニキの判断でもボツにはならないだろう。



《きれいな顔だ》



全員で飯でも行くかって話をしている時に突然、確実に俺に向かって話しかける声がした。

「はぁ?なんやねん急に」

「なにボビー、どうかした?」

「え?誰か俺に話しかけたやろ」

「いや?この後の相談してただけじゃん」

「まぁそうやけど…、俺の気のせいか?」

「せんせービビりすぎて頭おかしくなったんじゃない?」


18号の辛辣すぎる言葉にツッコミを入れたり、ずっとビビり倒しているキャメをイジったりしているうちに妙な声の事なんてすっかり忘れていた。

その後全員で居酒屋へ行った。キャメも運転の必要がなかったので急遽開催された飲み会は非常に盛り上がり、ひとしきり騒いでその場はお開きとなった。店の外で男気じゃんけんに勝った英雄ニキの支払いを待っている時、りぃちょに声をかけられる。

「せんせー、しばらくの間“何か”あったら絶対俺に教えてね」

「何かってなんやねん」

「何かは何かだよ。その時が来たら絶対分かるから。変な事しないでまず俺を呼んで」

「よぉ分からんけど、まぁ頭に入れとくわ」

いつもと違い真剣に話をするもんだから、イジってやろうとかツッコむ気は起きない。りぃちょからそんなよく分からない忠告を受けて、その場は解散した。


「は?」

しばらく経ったある日、目が覚めて顔を洗おうと洗面台の前に立った瞬間に思考が停止した。アイツの言っていた“何か”って絶対これだろ。なんやこれは、意味が分からない。鏡に自分の顔が映らない。髪も輪郭もあるのに、顔のパーツだけがのっぺらぼうみたいに丸ごと無くなっている。


お祓い、除霊、盛り塩?いや待て、俺の頭がおかしくなったのか?色々頭に浮かんだが、変な事をする前に呼べと言われていたのを思い出してすぐさま電話をかけた。出なかったらどうしようと心配したが、案外早く返事があった。


「りぃ、ちょ」

『どーしたぁ?』

「なんか、起きた」


たったそれだけで理解したらしいヤツは「待ってて、行くから」と言ってバタバタし始めた。


『せんせー聞こえてる?』

「ああ、聞こえてる」

『死ぬほど不安だろうから通話は繋いだままにしとくね。俺の声だけに返事して、他には返しちゃいけないよ』


《きれいな、かお》


「ヒッ」


一人暮らしのこの家で、声がした。男とも女とも、若いとも老いたとも分からない声だった。


『今、俺には何も聞こえてない。せんせーに何か聞こえてるなら、その声には絶対返事しないでね』

「は、はやく、りぃちょ」

『うん、もうすぐ着くから』


《きれいな、かおだね》


さっき聞こえた時よりも距離が近くなった気がする。そしてその声は男の声だと分かった。


《綺麗な顔だね》


少しずつ、聞き馴染みのある声と話し方に変わっていく。気持ち悪い。異質だった声が俺の知ってる何かになっていく。



お前は、何になろうとしてる。



《綺麗な顔だよね、せんせー》


俺の名前を呼ばれた瞬間に理解した。こいつの声はりぃちょだ。ほんの少しの違和感が本人じゃないと分かるが、もうほとんど気付けない。


『せんせー?大丈夫?』

「っ、は、」


電話口でりぃちょが心配している。でもその声が、ここにいる“何か”なのか、りぃちょなのかが分からなくて返事も出来ない。そもそも恐怖でマトモに息も吸えないし声も出せやしないが。


《せんせーってば、ほんと綺麗な顔してるよねぇ》


俺の顔を褒めるその声はいよいよ完全にりぃちょと一致していた。分からない。どっちが本物か、返事をしていいのか信じられない。


『せんせー、着いたよ』


着いたって、何が。誰が着いたんだ。怖い。


『…インターホン鳴らすから、鍵だけ開けて。扉は俺が開ける。返事しなくていいから』


この異常事態を察したのか、恐らく本物のりぃちょが言った。すぐにインターホンがなったので、震える足を無理やり動かして言われた通りに鍵を開ける。するとゆっくりと扉が開いた。恐怖と不安でぎゅっと目を瞑った。


「お待たせ、せんせー。助けに来たよ」

「ぁ、」


実際に聞こえた声が本物だとすぐに分かった。多分アレが真似ていたのは電話の声だったんだ。目を開けて顔を上げると、見慣れた白髪が立っている。見知った存在を認識した瞬間に腰が抜けた。へなへなと座り込む俺を支えながら、りぃちょも一緒になって玄関に座り込む。


「もう大丈夫だからね」

「お前になにが出来んねん…」

「なんでも出来るわけじゃないけど、今のせんせーを助けてあげられるよ」

「助けて、くれるんか」

「任せてよ」


絶対的な自信を感じる言葉に心底安心した。


《せんせー、綺麗な顔してるね》


「っ、」


またアレの声が聞こえて思わずりぃちょの名前を呼んだ。


「やっぱお前だったか」

何もいないはずの俺の後ろを睨みつける。あ、待て、今アレの声に。

「お、おまえ、返事…っ!」

「電話だと状況が分からなかったから返事しないでって言ってたけど、これには答えて大丈夫。コイツは鏡を通して話しかけてきてるだけみたい。何の力もないし、こっちに手出しは出来ないからね。本物はあの廃墟にいる」


「じゃあ、本物のアレに返事してたらどうなるん」

「持ってかれるよ」

りぃちょは静かに言った。持ってかれるよ。その言葉に、背筋が凍った。

その日から3日間うちに泊まり込んだりぃちょは、怪異にビビる俺の側に常にいた。その期間でニキ達のスケジュールを押さえ、再び廃墟へ行く手筈を整えた。



「さて、これからせんせーの怪異問題を解決しに行きます」


場所はまたあの廃墟。今日はカメラは回っていない。そのくせにりぃちょは撮影のようなテンションで話し始めた。


「…なぜ俺たちも行くんでしょうか」

「皆さんあの時にいらっしゃいましたので。ごめんなさいとコノヤロー!を全員でしに行かないと万が一があったら怖いからね」

「万が一…?」

「せんせーの仲間だってバレてるから。みんなを使ってせんせーの顔を奪いに来ちゃうかもしれないのよ。勝てない相手だって教え込まないと」


事前に俺の事情を聞かされていたニキ達は、嫌がりながらも断りはしなかった。しかし事情を知ったが故にさらに怯える18号とキャメにりぃちょは落ち着かせるように笑う。


「18とキャメさんはニキニキの側にいたら安全だからね」

「え、俺何者?」

「ニキニキはねぇ、意味分かんないくらい怪異に影響を受けないし、あちらサイドも近寄って来たがらない体質みたい」

「俺そんな強いんだ?」

「立ってるだけでお守り効果あるよ」


その発言の瞬間にキャメと18号はニキの両サイドをしっかり確保した。

「お守りくん絶対私の隣にいて!」

「ニキくん頼むよ、俺絶対死にたくない」

「18、俺の事お守りくんって呼んだよね?」


「せんせーは俺と手繋いでてね。呼ばれても引っ張られても離しちゃダメだよ。着いて行っちゃダメだからね」

「わ、わかった」


普段なら照れ臭くて拒否するが、今日ばかりは素直に手を握った。だって怖すぎるだろうが。手ぐらい繋がんとマジで漏らしてまう。


りぃちょの先導のもと、前回俺が声を聞いた場所まで歩く。その間もずっと俺とりぃちょにしか認識出来ないりぃちょもどきの声が聞こえていて恐ろしくて堪らなかった。


「ぅ、わ…っ」

例の場所にたどり着いた途端、ひた、と湿度の高い何かが頬に触れた。目には見えない、でも確実に水気を帯びた生温いナニカが両頬を触っている。


《これ、ちょうだい》


握り込むようにジワジワと頬に圧がかかる。

引っ張られる感覚というか、なんとなく着いていきたいと、ソッチ側へ行きたいと思ってしまう。一歩踏み出そうとする度に、りぃちょに手を引かれハッとする。着いていくなと言われているのに、どうしても負けそうになった。


《ほしい、これほしい》


追い詰めるように声が荒くなっていく。りぃちょの言葉が頭をよぎる。返事したらダメだよ。着いて行っちゃダメだからね。なんで、何で俺の顔を欲しがる。あ、そうか、顔がないんだった。ニキが言ってたじゃないか。事故で顔を失ったと、ぐちゃぐちゃで目も鼻も分からないと。


《きれいなかお、ほしい》


「ぁ、あ…」

見えた、顔が。顔じゃない、ぐちゃぐちゃの、なにか。確かに人だと分かる。でも目も鼻も口も分からない、血だらけの顔。血の匂いがする。頬を掴む手の力がどんどん強くなっていく。痛い、気持ち悪い。


《寄越せ、顔》


「たす、け…」

目の前から聞こえていたはずの声が、急に耳元で聞こえて動けなくなった。瞬きも出来なくて涙が溢れる。りぃちょのフリをした声じゃない。地を這うような低くて冷たい怒声。

「せんせー。大丈夫だから。俺が助けるから」

本物のりぃちょの声と強く手を引かれた事で、やっとりぃちょの存在を思い出した。


「悪いけどこれは俺の。俺の食いモンだから、手出さないでね」


《ちょうだい》


「そこにいるのも俺がそのうち食うよ。俺の唾つけてるモンにちょっかいかけたら容赦なく消すから。顔が欲しけりゃ他所をあたりな」


この状況下で落ち着いていて、負ける気のない言葉に頼り甲斐すら覚えた。コイツがいれば大丈夫だと本能が理解する。


《なあんだ》


急に興味を失った声になった。



「じゃあいいや」



またあの時の声だった。男とも女とも、若いとも老いてるとも言えない声。この声だけはニキ達にも聞こえたらしく、3人の情けない絶叫が響き渡った。それきり、声はしなくなった。ニキ達がパニックになっている声が遠くに聞こえる。自分の荒い息が頭の中で鮮明に聞こえていた。いつまで立ち尽くしていたんだろうか。りぃちょの俺を呼ぶ声が聞こえて、金縛りが解けたように動けるようになったがまたしても腰が抜けた。座り込む前に、どうしても人の温もりを感じたくて手を握っていたりぃちょに抱きつく。


「アレはもう来ないよ。大丈夫だからね」

「ほ、ほんとに?」

「うん、本当。怖かったね」


俺を抱きしめ返す腕が頼もしい。抱きしめ返す力が強いせいか、ほんの少し震えていた腕がやけに印象的だった。


俺もニキ達も何とか落ち着いて、帰り支度をしている時に思い出したようにキャメが聞いた。

「ところでりぃちょくん、なんで俺たちを食べるって言ったの?」

「ああ、簡単だよ。どの世界でも食べ物の恨みは怖いって事。上司とか先輩とか、自分より立場が上の人の食べ物を盗もうとは思わないでしょ?」

頭の悪すぎる理由に全員で突っ込んだ。


幽霊界隈も流石に単純すぎんか?



その日からりぃちょの言う通り“何か”は起きないし、いつも通りの生活に戻れている。ただ一つ変わった事があるとすれば、俺のヤツを見る目だ。頼もしかったりぃちょを思い出しては顔が赤くなり、あの時のような真剣な声を聞くと胸が早鐘を打つ。

頭に一つの仮説が生まれてすぐさま首を振った。

「いやいやいや…チョロすぎるわ」

これは所謂吊り橋効果ってやつだ。そうじゃなきゃ困る。怖い思いをした緊張感と恋情を勘違いしてるだけ。


俺がりぃちょを好きだとか、そんなわけない。


あれから何度かりぃちょを二人きりで飯に誘った。アイツの事が好きだなんてのは勘違いだと証明する為に。それと頼もしかったアイツに会いたいってのも、少し。


「最近せんせー俺の事よく誘ってくれるよね」

「おー、まぁな」

今日もまた二人で居酒屋に行ったはいいものの、呑み足りなかったので俺の家で二次会をしていた。それも落ち着き酔いも覚めて来た頃、突然聞かれた。

「なんでなんで?あ、もしかしてまた怪異が…」

心配をかけるつもりはないから首を振って否定する。いいタイミングで話題も出た事だし、ずっと知りたかった話を聞くことにしよう。


「なぁお前何で俺の事助けたん?俺がビビりすぎて可哀想やった?」

「なに言ってんの。好きじゃなきゃ助けないでしょ」

「は、?」


“好きじゃなきゃ”


そのフレーズに意外性を感じない自分に驚く。あの怪異事件より前から薄々その気配はしていたんだ。俺に好意があるのかと感じるタイミングは少なくなかったから。


「実はあの状況だってチョーピンチだったんだから。好きな人にダサいと思われたくなくて平気そうな顔したけどさ。アレが素直に諦めてくれなかったら死んでたもん俺」

「え、いや、マジ?」

「ああでも、最悪のパターンが来てもせんせーは助けるつもりでいたよ?そのためにニキニキも呼んだし。ヤバい時はニキニキにせんせーを投げて託せるように手も繋いでたじゃん?」

「あ、あれは、俺が着いていかないようにって」

「それもあるけど。せんせーってなんだかんだ優しいからさ、俺を見捨てて逃げてくれなそうなんだもん。俺は死んでも助けられるようにって結構覚悟決めてたのよ」


コイツは自分が死ぬ覚悟を決めてた?

俺が好きだから?


なんだよそれ、俺なんかを好きになって死ぬ覚悟まで決められるって。あの時腕が震えていたのは恐怖からだったんだ。耳が熱い。心なしか息苦しい。


「ふふ、せんせー顔真っ赤だよ」

「っさいわ」

「で?せんせーは俺の事どう思ってんの?」

「まぁ、なんやその…吊り橋効果?に便乗してもええかなって…」

「なんでそんな遠回しなんだよ。素直に好きになりましたって言えばいいのに」

「ああもうっ、恥ずかしいの!あまりにも自分がチョロすぎて怖なってんの!」

「自分の雑魚さじゃなくて俺の戦略的勝利を褒めてよ。きっかけは偶然の産物だったけどぉ」


急激に勢いが落ちて少し笑ってしまった。俺が笑ったのを見て何を考えたのかあの時のように真剣な表情を見せる。


「俺はせんせーを守る為なら、命を捨てられるくらいせんせーの事が好きだよ。口先だけじゃない、実践してみせたでしょ?これからもせんせーを守れるくらい頼り甲斐のある男になってみせるからさ……俺と付き合ってください。多くは望まないけど、出来れば、好きになって」


「欲張りすぎやろ」


あの時のように差し出された手を握った。

絆されるとか、勘違いとかそんなのは言い訳でしかない事くらい最初から分かってた。ただ踏み出せなかっただけ。この関係が崩れるのを恐れていただけだ。


でもここまで誠意を見せられたら、グダグダ遠回りして応えない訳にはいかないだろう。


「っ、!……いいの?」

「俺は男やし、守られるだけのか弱い女じゃないからな。お前よりデカい男でもいいなら……ええよ」


その瞬間嬉しそうな顔をして抱きつかれた。ありがとうと喜びを隠しもしない声で感謝される。前とは立場が逆転したなと思いながらりぃちょを抱きしめ返す。


ほんの少し震えていた腕がやけに印象的だった。




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