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shk side
「…いってきます。」
誰もいない家を出れば焼き殺す勢いの太陽の熱さが、明るさが、俺を照らした。新学期が始まってもう二月経った。今日は偶々晴れているが、昨日まで雨が降っていた。空気はジメジメとしていて、ストレスの要因にしかならない。
(やっぱり今日は学校行くのやめときゃ良かったかも…。)
そう思ってももう周りには歩いている学校の生徒がちらほら見えて、今更引き返すのも滑稽に思われるだろうから、ただ歩くしかなかった。
校門をくぐり、いつも通り靴箱で上履きに履き替えたら他の生徒とは反対の校舎に向かう。
あの日以来、俺は学校に行けなくなった。言ってしまえば、いじめに遭ってしまったのだ。それも凶悪なもので____
いや、思い出したくは無い。とにかくそれからは学校に行く事も減った。ついには学校に行かないまま新学期を迎えて中学二年生になってしまった。
先生や親の説得により今はなんとか別室登校ができるまでにはなったが、やっぱり毎日通うのは難しい。
そんな俺の教室は理科準備室だ。
「はよーございます…。」
ドアを開ければ、教師らしからぬ金髪の男が見えた。そいつは俺の姿を捉えると琥珀の眼を見開いて、カチャ、と音を立てて持っていたペンを落とした。
「今日も来たの!?」
そう叫ぶとこちらに駆け寄ってきて思い切り抱きついてきた。一気に顔に熱が溜まる。
「ちょ、おい…!」
「偉い、偉過ぎる!え、まって昨日来たよね?休まなくて大丈夫?無理してない?」
朝からマシンガントークを浴びせられるとは…。俺の事を心配してくれているのは嬉しいんだけどな…。
でも、あまりにも暑苦しいし、それより俺の心臓が持たないから、精一杯の力で押し返す。
「き、昨日は来た、無理してない…けど!俺はクソ暑い中歩いてきたんだよっだから離れろっ、!」
「わ、ごめん…!」
漸く離れてくれたため、やっとの思いで自分の机に鞄を置く。窺うようにこちらを見てくる金髪を睨みつけるとそいつは眉を下げて笑った。
「はは…ごめん。来てくれたのがすっごい嬉しくて…。でも、無理だけはしないでね。」
子供のようなその姿に俺はやれやれと息を吐いた。
「分かってるけど…急に抱きつくのはやめろよ。ガキじゃねぇんだからさ…。」
「はい…。」
自分の椅子に腰掛けながら言えばそいつはしょんぼりとしながら冷蔵庫を開けて何かを取り出した。何だろうかと見ているとくすりと困ったような笑みを返された。
「シャークん学校来る時水分取ってないでしょ。顔色悪いよ。」
それを聞いて無意識に頬に手を当てた。そんな事をしても自分の顔色なんかわかりもしないが。でも、言われてみれば少しクラクラするかもしれない。
「最近マジで暑いから熱中症の心配があるしね。はい、どーぞ。」
「ありがとセンセー。」
手渡されたお茶のペットボトルの蓋を開けて二口くらい口に含んだ。
「ところで、宿題はやってきた?」
「いや、全然…。」
「ふふ、そうだろうなぁとは思ってたよ。一緒にしよう?」
「ん…。」
確か今日の宿題は理科…つまりこの金髪教師きりやんの担当教科。きりやんは勝手に付けたあだ名だけど。鞄からプリントと筆箱を出して、名前を書いてから問題文を読み始める。
ここに居る生徒は俺一人しか居ないのにわざわざ名前を書く理由はきりやんに怒られるから。曰く、ちゃんと書く癖をつけておかないと受験の時に書き忘れるからとのこと。高校に行ったらきりやんと会えなくなるから、俺からしたら受験なんてどうでもいいのに。
そんな事を考えながら問題を解いていき、気付けば半分は終わっていた。休憩がてら、パソコンと睨めっこするきりやんをバレないように目線だけを動かして見る。
口に手を当てて何かを考える仕草とかパソコンの上を忙しなく動く琥珀の瞳とかを見て、やっぱり好きだなと再認識させられた。
俺はきりやんの事が好きだ。でもただの好意なのか尊敬なのか恋なのか、自分でもよく分かっていない。
そう考えてなんだか胸が苦しくなったところでプリントに目線を移し、再び問題を解き始めた。
無心になって解いたお陰で割と早く終わった。一息吐いて声をかける。きりやんの作業の邪魔はしたくないけど、チェックはしてもらわないといけない。
「…せんせ、終わった。」
「お、早かったね。見して。」
きりやんは俺からプリントを受け取ると赤ペンで丸つけを始めた。
「うん、よく出来てるよ。流石だね。」
丸つけが終わったら俺にプリントを差し出しながらふわっと微笑んできた。今のはずるい。
「ぁ、ありがと。」
顔が熱い気がする。プリントを受け取って直ぐに顔を逸らし、プリントファイルに挟んだ。そんな作業をしているうちにきりやんが口を開く。
「そういえばさ、明日転校生来るよ。」
「へー。」
「ここに。」
「…は?」
驚きと不安で心臓がドクドクと鳴り始めた。これが冗談だったらよかったのに、きりやんの顔を見ても至って普通で、焦燥感が芽生え始める。
「なん、で…。」
人と関わるのはもう嫌なんだ。体温が下がって手が震えるのを感じた。
「向こうも不登校のまま転校してきたらしくて。でも、シャークん人と会うの怖いよね…。」
きりやんはそう説明して眉を下げた。ここで俺が我儘を言ったら、勿論きりやんも困らせてしまうし学校にだって、転校生にだって迷惑がかかる。だから、俺だけが我慢すれば良いだけの話…。
「…俺の事は気にしないでいいよ。」
不安や緊張で早まる心臓の音は一旦無視して、俺はきりやんに笑みを作ってみせた。
「…無理しないでいいんだからね。」
きりやんは眉を下げたままそう言って俺の頭を撫でた。一気に顔が熱くなったのを感じて、顔を見られないように下に向ける。
…きりやんにこういう事されると、きりやんで頭がいっぱいになって他のことを考える暇がないから、なんか嬉しい。
くすりと笑われた気がしたが、構っていられなかった。
「それじゃあ、一回自分のクラスに行ってくるね。」
「うん…。」
少し寂しくもあるが小さく頷いた。きりやんは俺の頭から手を離すと とペンを持ち、朝の会って副担行く必要ないよなぁ、と独り言を言いながら出ていった。
蝉の鳴き声がよく聴こえる空間で一人考える。
(あした、明日になったら知らない人がここに来る…。)
怖い人じゃないだろうか。
俺なんかが、仲良くして良いだろうか。
どれだけ明日の事を想像しても、悪い方に向かうんじゃないかと心配で、胸がズキズキと痛む。
沈んだ心を落ち着かせるために外へ出ることにした。廊下へ続く出入り口とは反対の、中庭に出れる出入り口を使って上履きのまま外に出る。目の前がすぐ花壇になっていて、まだ蕾の植物達を見るべく、その場にしゃがんだ。
(この花はなんていうんだっけ…。)
前にきりやんと一緒に植えた時に教えて貰った筈だ。確か、メランポジウム…だった気がする。隣にはヒマワリ、大きくならないタイプの。まだ完全に咲ききらない花たちを見ていると、土が乾いている事に気付き、外に出たついでだと思い水をやる事にした。