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「ん〜?」「どうしたの、東海林?」
ある日のUDIラボ内。木林が所長に用事があって来ていた時。
東海林は悩んでいた。その様子を見かねて三澄が尋ねる。
「さっき木林さんからもらった書類、中堂さんに渡したんだけどさ、その時に…」
「その時に?」
「……良い匂いした」
「ん?」
「なんか…甘い?」
「いつもの石鹸の匂いじゃなくて?」
「うん」
東海林と三澄は顔を見合わせる。
2人とも色んな憶測や妄想が頭の中を飛び合う。だが、2人とも結論は同じだった。
「…嗅いでみてきたら?」
「無理無理無理無理!私まだ殺されたくない!」
「どうしたんすか?」
2人の会話が気になって、話に入ってきた久部。
「あ、六郎」
「あ、六郎くん」
「?」
「…かりんとうあげるからちょっと中堂さん嗅いできてよ」
「…は⁉︎」
「ちょっと東海林、それじゃ語弊があるでしょ」
「は?え、ちょ、は?」
「……六郎くん。ほんとーうに先っちょだけでいいから、中堂さんの匂いを嗅いできて欲しいの」
「…もっと拗れない?それ」
「やっぱり?」
「いやいやいや、本当になんすか」
「あーえー実は…こうゆうことで…」
混乱する久部に三澄は詳細を話す。
話しても、理解できるかは不明だが。
「…なるほど、それで僕に嗅いで来い、と」
「そゆこと!ってことでお願い!」
「いや、僕も死にたくないんですけど」
「一生のお願い!来世の一生分も!」
「東海林、それお願い無駄にしてるよ」
「だって、このままじゃあ夜寝れなくなっちゃう!」
「そんなにすか」
「さっきからなんだ」
急に背後側から声がして3人ともびくりと肩を振るわせる。中堂の声だった。
坂本さんがその場にいたら倒れてしまいそうだ。たまたま検査でいなくて良かった。
中堂は木林と話していたが、3人の話が聞こえていたようだ。
「六郎、任せた」
「え⁉︎」
「私たちの分もよろしく」
「なんだ」
「え、あ、ええっとですね…あ、医学的に、中堂さんの匂いを解明したいんです!」
木林がフ、と笑った気がしたが、今はそれどころではない。
「意味が分からない」
「それはちょっと私たちも分からないな。ね、木林さん?」
「そうですね」
「これでも頑張ったのに3人まで…」
「六郎!行け!」
「え⁉︎」
急に言われたので、ええいままよと中堂さんを嗅ぎにいく。
中堂は何も言わず、じろりと久部を見る。その視線だけで、久部は一歩引く。
「…おい、何してる」
中堂の視線に屈しそうなりながらも近づく久部。
「…近づくな」
微かだが、匂いを嗅ぐことに成功する。
「おい」
「あー!まだ殺さないで!結果!」
「僕、捨て駒すか」
「どうだった?」
「うーん、いまいち分からないっすね。甘い匂いはしますけど…」
「お…おい?」
「中堂さん。ちょっとそこ動かないで」
「あ?」
久部だけでなく、三澄や東海林も中堂に近づいて匂いを嗅ぎ始める。
中堂は困惑した顔をする。
「ふふ、私も嗅がせていただきますか」
更に木林も嗅いできたので、中堂は眉間に皺がよる。
側から見れば、図体の大きい男1人に華奢な男女4人が寄ってたかって
匂いを嗅いでいるという異様な光景だ。
「う〜ん?確かに東海林の言う通り甘い匂いはするけど…」
「柔軟剤かな?」
「上着の貸し借りとか」
「近距離の接触?」
「木林さんはどう思いますか?」
「ふふ、どうでしょうね」
「どれにしても、彼女さんとかの匂いでh」
ギロリと中堂さんに睨まれ、久部は咄嗟に訂正する。
「…ハイ、違いますよね。すいません」
「匂い調べる?」
「ん〜確実に何処かで嗅いでいるんだよな」
「そうなんだよね〜」
「おい、そろそろ良い加減にしろ」
「…あ、これ木林さんの匂いじゃないすか?」
「…」
「「!」」
2人は一斉に中堂と木林の顔を交互に見る。
木林はいつもの笑顔だ。
中堂は少し目を見開きはしたが、すぐにいつもの顔に戻る。
「…知らん」
「?」
「え、やっぱり、そういう関係?」
「自慢かよ」
「え、え、どういうことっすか」
中堂はチラリと木林の方を見る。
「…面倒なことしやがって」
「……チッ残ったままか」
「え、何がっすか?」
「…」
「よし!木林さん、ちょっと失礼しますね!行くよミコト!」
「了解!」
三澄と東海林は木林の匂いも嗅ぎに行く。
中堂は小さく舌打ちをする。
木林だけが、それに気づいて、視線で返す。
「…こっちの問題児どもがすまん」
「中堂さんも一応問題児じゃないすか?」
「いえ、それは別に構わないのですが…」
「この匂い…やっぱり、」
「……あぁ、中堂さんと同じでしょう?」
「え、」
木林の顔を見ても木林はにっこりと笑うだけだった。
「なんかすっごい惚気られた気分」
「自慢じゃん、めっちゃ青春してるじゃん、くそー!羨ましい!」
「うんうん。素直に言っちゃうのは東海林の良いところだけどね。ちょっと、素直すぎかな」
「中堂さんの歳で青春は無理がありますよ」
「うん、ろくろー。そういうことじゃなくてね」
「え?」
3人が楽しそうに話をしている隙に抜け出して中堂のそばに近寄る木林。
「楽しそうで何よりですね」
「うるさいだけだ」
木林は中堂の顔を見るなりくっくっと笑う。
悪態をつく中堂の顔は、微かに口角が上がっていて優しさを帯びていたからだ。
「なんだ?」
「いえ、どうしてでしょうね」
「ハッ、バカが。わかりきってるだろ」
「ふふ、そうですね」
完
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