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あと小一時間で、また今日という日が終わる。
寝転がった体勢から無理やり頭を動かして、窓から寮の外を見る。
星がちらちら顔を出していた。
寝返りを打つと、机に向かっているすちくんの姿が目に入る。
消灯時間、とっくに過ぎてるのに。
黄/…すちくん、こっち来て、
布団から腕を伸ばし、おれが寝ているベッドの端を軽く叩く。
俺の言葉に振り向いたすちくんは、悩んだ末に「分かった」と頷いて、本を一つ持って来てくれた。
すちくんの体温を近くで感じられた気がして、少し安心する。
黄/なんの本読んでるの、?
おれの方を見ようとせず、手にしている本に目線を落としているすちくんに問いかける。
翠/古典の教科書、
翠/テスト近いし、
黄/えらいね
黄/おれまだやってないのに
それっきり、途絶えた会話。
夜らしい、落ち着いた静けさ。
でも、まだ寝れない。
黄/……ねぇ、
黄/お願いしてもいい?
おれがそう言うと、首を動かして、ようやくこっちを見てくれた。
黄/音読して
翠/…は、?
眉をひそめて見つめてくる。
黄/おれも勉強したい、
翠/みこちゃんは寝るんじゃないの?
黄/すちくんの声聞いたら寝れるから
翠/…なにそれ、
教科書に目線を戻したすちくんは、パラパラとページを捲ると静かに口を開いた。
翠/『ひさかたの光のどけき春の日に
しづ心なく花の散るらむ』
黄/…どんな意味?
翠/『陽の光ののどかな春の日に、どうして桜の花は落ち着いた心もなく散っていくのだろう』
黄/…ふぅん、
翠/興味ないでしょ、
黄/あるよっ、!
黄/よく分かんないだけ、
翠/…散り桜見て虚しくなったんじゃない、
黄/…でも、さくらの花びらが絨毯みたいに広がってるところ見るの
黄/おれ好きだよ
翠/……まあ、人それぞれ感じるものは違うからね、
黄/そっか、
黄/…次のやつ、読んで
翠/寝ないの?
黄/まだ、すちくんの声聞きたぃ、
翠/……、
翠/『秋来ぬと目にはさやかに見えねども
風の音にぞおどろかれぬる』
黄/…秋、?
翠/…『秋の気配は、目にははっきり見えないけれどさわやかな風のたてる音で気付かされた』
黄/おれ、秋好きだよ
黄/おれの誕生日だから、
翠/…そう、
黄/すちくんは好き?
翠/普通、
黄/……普通か、(笑
翠/『あらざらむこの世のほかの思ひ出に
今ひとたびのあふこともがな』
黄/……、
翠/……
ちとせ@モチベがあがらない
りんご
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黄/意味、教えてくれないん?
翠/何も喋らないから、寝たのかと思った
黄/まだ寝ないもん、
翠/…『私はもうすぐ死ぬでしょうから、あの世へ持っていく思い出として、もう一度あなたとお会いしたいものです』
黄/…おしゃれ、
翠/死んだら何も残らないよ、
翠/人も、思い出も
黄/……、
黄/でも、それを口実に好きな人と会えるなら、おれはうれしい
翠/…昔の人も、みこちゃんもロマンチストだね、
頭がぼーっとしてきた。
遠くからまたすちくんの優しい声が聞こえてくる。
翠/『思ひつつ寝ればや人の見えつらむ
夢と知りせば覚めざらましを』
黄/…夢、
翠/『あの人のことを恋しく思いながら眠りについたから、夢に現れたのだろう。もし夢と分かっていたなら、目を覚まさずにいたのに』
黄/…おれも、
黄/すちくんが夢に出てきたらずっとそのままがいい、
翠/……そ、
黄/すちくんは、?
黄/夢でおれと逢いたい?
翠/さあね、
黄/…おれは毎日逢いたい、
翠/毎日会ってるじゃん
黄/夢でも逢いたいの、
気付いたら、日付が変わっていた。
黄/…すちくん、
翠/…まだ起きてたんだ
翠/みこちゃん、寝る気ないでしょ
黄/すちくんこそ、いつまで勉強してるの?
翠/きりがいいところまで
黄/それってどこまでなの、
翠/あと4ページくらいかな
黄/……すちくん、
黄/おれの頭、撫でて
翠/……、(撫
黄/…、っ!
黄/……、⸝⸝
ほんとに撫でてくれるとは思ってなかった。
すちくんの手、あったかい。
黄/…おやすみ、すちくん、
翠/うん、おやすみ
黄/夢の中でも逢いに来てね、
翠/、気が向いたらね
夢でも、あなたに会えたらいいな、
和歌は調べました。
このお話を書きたくなったのは、最後の和歌を入れたかったから!
昔の人って、なんでこんなに言葉選びがおしゃれなんですかね、、、