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8月15日の午後12時半くらいのこと。
天気が良く、病気になりそうなほど眩しい日差しの中することも無いからアニキと公園で2人駄弁っていた。
「お前今日もないこ困らせとったやろ」
「んー…?まぁ、ないこは頼れるリーダーだから頼らないとやん??」
「意味分からんわ」
アニキは俺の発言がおかしかったのかブランコを少し漕ぎ、面白そうにくすりと笑った。
俺はそんなアニキの様子を見てこういう所好きだな、なんて一生本人に言うつもりのない言葉を心の中で呟く。
「でもまぁ夏は嫌いやな」
突拍子も無くアニキはふてぶてしく呟くと、いつの間にか足元に居た黒猫を撫でる。
猫、好きなんかな。
ぼんやりと猫を撫でるアニキを見ていると、アニキの撫でていた手から猫がするりと逃げ出した。
すると、アニキはまるでその猫を追いかける様に走っていってしまった。
「…えっ、ちょ、アニキ!?」
俺は呆然とした意識を引き戻し鞄も置いて、飛び出して行ってしまったアニキを追いかる為に公園を後にした。
暫く走ると目の前には横断歩道に飛び込むアニキの姿あった。
ふと、信号機が目に入る。
俺の視界に映ったのは赤に変わった信号機。
アニキ、と大声で叫ぶとアニキが此方を振り向く。
その瞬間、バッと通ったトラックがアニキの体を轢きずった。他の人の悲鳴と共に鳴き叫ぶ様にブレーキ音が鳴り響く。
俺の目の前に倒れ込む血だらけのアニキの姿に心臓が五月蝿いほどに音をたてる。今すぐにでも駆け寄りたいと心は叫んでいるのに体が震え、口からはくはくと空気だけが出ていくだけで何もする事が出来ない。
血飛沫の色がアニキの嗅ぎ慣れた香りと混ざり合ってむせ返る程の気持ち悪さを催す。
嘘みたいな陽炎が「嘘じゃないぞ」と嗤ってる。
夏の水色をかき回すような蝉の音に俺の意識は掻き消えていった。
***********************
目を覚ました。時計の針が鳴り響くベッドの上で。
「っ!夢か、。…今何時や」
スマホを見ると8月14日の午前12時過ぎ位を指す。
夢な筈なのにやけにあの時の煩うるさい蝉の声覚えていた。
8月15日の午後12時半くらいのこと。
天気が良く、病気になりそうなほど眩しい日差しの中することも無いからアニキと公園で2人駄弁っていた。
でも、少し不思議やな。アニキの猫を撫でる姿がまるで昨日見た夢と重なる。
俺は同じ公園でアニキと話しながら昨日見た夢を思い出す。
何だかこのまま夢の通りに進むのが怖くて黒猫を撫でるアニキに声をかける。
「もう今日は帰ろうや」
アニキは急に帰ろうと言い始めた俺を止めることなく分かったわ、と静かに返事をしブランコから立ち上がった。
公園を出た後、いつもと違う道に抜けた時周りの人は皆上を見上げ口を開けていた
落下してきた鉄柱がアニキを貫いて突き刺さった。劈悲鳴と風鈴の音が木々の隙間で空廻りする。
「嘘、やろ…?何で、夢みたいに、」
俺はその場にへたり込み、涙を流す。あの夢と同じ様な鮮烈な血が俺の視界に映る。
心臓の音が自分の体の中で鳴り響いて気持ち悪い。
ワザとらしい陽炎が「夢じゃないぞ」って嗤ってる。
また、意識が掻き消えて行く中、眩む視界にアニキの横顔が何故だか笑っている様な気がした。
***********************
何度世界が眩んでも何回別のルートを辿っても最後に陽炎が嗤って奪い去る。
繰り返して何十年。もうとっくに気が付いてしまった。
こんなよくある話なら結末はきっと1つだけ。
繰り返した夏の日の向こう。俺は覚悟を決めた。
「アニキ、これあげるわ」
俺は帰り道を歩きながらアニキに丁寧に梱包された箱を手渡す。
アニキは急に何だという風に首を傾げる。
「いや、その…丁度買い物してる時にアニキに似合いそうなんがあったからつい買ってもうたんよ」
「…ありがとな」
俺が照れくさそうにそう呟くとアニキは心底嬉しそうに微笑んだ。
微笑んだその表情があまりにも柔らかく可愛いものだから俺は何だか緊張が抜けると共に愛おしさが込み上げてきた。
暫く歩くと横断歩道に差し掛かる。赤に変わった信号機。
アニキの体をバッと押しのけ僕は飛び込んだ、瞬間トラックにぶち当たる。
血飛沫の色がアニキの瞳と自分の軋きしむ体に乱反射する。
あぁ、良かった。“今回”こそは助ける事が出来た。
体中に広がる激痛と共にアニキを助けられた事への安堵を覚える。アニメは此方を見つめ、冷や汗をかいていた。
そんな俺にまるで文句ありげな陽炎に
「ざまぁみろよ」
って笑ってやった。
実によく在る夏の日のこと。 そんな何かがここで終わった。
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目を覚ました。あの日と同じ様にベットの上で。
壁に掛かったカレンダーを見る。8月14日。
「…またあかんかったわ」
俺は青色のアイツを思い出し、そう呟くと自身の膝に乗っている黒猫を撫でた。