コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
四月二十一日……午後二時……。
巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室では『個別面談』が行われている……。
「……あのー、フィアさん……。そろそろ自己紹介してくれませんかー?」
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)がそう言うと、フィア(四大天使の遺伝子を持つナオトの守護天使。長い髪と天使の翼と目の色は赤、青、緑、黄の四色である)は彼を抱きしめるのをやめた。
「分かりました。では、さっそく自己紹介をさせていただきます」
メイド服を身に纏《まと》った天使は自分の胸に手を当てると、自己紹介をした。
「私はナオト様の守護天使『フィア』です。ナオト様が受精卵の時から、お仕《つか》えしています。そんな私のチャームポイントは髪と瞳と翼を彩《いろど》る赤、青、緑、黄色の四色です。あと、ナオト様のことなら、なんでも答えられる自信があります。なのでいつでも訊《き》いてくださいね?」
フィアの自己紹介が終わると、彼はパチパチと拍手をした。
「いやあ、なんか清楚《せいそ》というか上品な自己紹介だったな」
「恐れ入ります」
「そんなにかしこまるなよー、俺たちはもう見守る側でも見守られる側でもないだからさ」
「しかし、ナオト様は私のご主人様です。なので、あまり深く関わるわけには……」
「そんなこと言うなよー。悲しくなるから」
「申し訳ありません。次から気をつけます」
うーん、どうにかしてフィアを笑顔にしてやりたいな。
「おう、よろしく頼むぞ。さてと……それじゃあ、本題に入ろうか」
「と、言いますと?」
「まあ、最近困ってることがないのかについてと俺にしてほしいことがあれば遠慮なく言ってほしいってことだ」
「なるほど。しかし、前者については全《まった》く問題がありません。なので、後者について述べてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ。なんでも言ってくれ」
彼がそう言うと、今まで正座をしていたフィアは一瞬で彼の背後に移動した。
「……な、なあ、フィア」
「何ですか?」
「どうして俺の背後に回るんだ?」
「……それは……ナオト様の顔を直視できないからです」
「おいおい、いったいどんなお願いをするつもりなんだ?」
彼がそう言うと、彼女は彼の背中に額《ひたい》を押し当てた。
「一度しか言いません。なので、よーく聞いてくださいね?」
「お、おう、分かった」
彼は少々不安だったが、彼女の要求は思ったより純粋《ピュア》だった。
「……そ、その……わ……私のことを……お姉ちゃん……と呼んでいただけませんか?」
「……え? そんなのでいいのか?」
「はい、それで構いません。この部屋にいる間だけ私のことをお姉ちゃんと呼んでください」
「わ、分かった。じゃ、じゃあ、行くぞ?」
「……はい」
彼は一瞬、彼女のことを『お姉ちゃん』と言うのを躊躇《ためら》ったが、ここでビビってどうする! しっかりしろ! 俺! と自分に言い聞かせた。
彼は彼女の方を向くと、こう言った。
「……お、お姉ちゃん……」
「……聞こえません。もっと大きな声で」
「……お、お姉ちゃん」
「さっきとあまり変わっていません。もう一度」
「……は、はい。えっと……お姉ちゃん」
「……はぁ……出来の悪い弟ですね」
「ご……ごめんなさい……」
「……謝罪なんていりません。そんな暇《ひま》があるなら、ちゃんと言ってください」
「……うー、お姉ちゃんのいじわるー……」
この時、彼女は彼をいじり倒すと決めた。
「……いじわる? 私がですか? 年長者の言うことが聞けない愚弟《ぐてい》にそんなことを言える権利はありません!」
「そ、そんなー」
彼が涙目になっているのに気づいても、彼女は彼をいじるのをやめようとしない。
「あなたは一生、私の言うことだけを聞いていれば良いのです。他の人の言うことは全て嘘《うそ》偽《いつわ》りだと思いなさい!」
「そ、そんなの偏見だよー。お姉ちゃんがそう思ってるだけだよー」
「偏見……ですって? あなたのような愚弟《ぐてい》に私の何が分かるというのですか!」
彼は彼女の太ももに座ると、彼女の頭を優しく撫でた。
「お姉ちゃん、どうしたのー? すごく悲しそうな顔してるよー?」
その時、彼女はいつのまにか目から涙が溢《あふ》れ出ていることに気づいた。
「な、何を言っているのですか? あなたは。何を根拠にそんなことを……」
彼は彼女の目から次々に溢《あふ》れ出す雫《しずく》を拭《ぬぐ》うと、それを見せながら彼女にこう言った。
「じゃあ、これはなあにー? お姉ちゃんの目からどんどん出てくるよー?」
彼女は彼から目を逸《そ》らしながら、こう言った。
「こ、これはその……あ、汗《あせ》です」
「えー? 汗《あせ》ー? 目から汗が出るなんて聞いたことないよー」
「わ、私の言うことは絶対です! あなたはそれを信じていれば、良いのです!」
彼は手についた彼女の涙をじっと見つめると……ペロリと舌で舐《な》めた。
「……なっ!」
「うーん……ちょっと甘いな……。ねえ、お姉ちゃん」
「な、なんですか?」
「お姉ちゃんの汗って、目から出るものなんだよね?」
「そ、そうですよ。それがどうかしたのですか?」
「えーっとねー、風邪《かぜ》をひいた時って、誰かに汗《あせ》を拭《ふ》いてもらうでしょー?」
「そ、そうですね……」
「なら、今から僕がお姉ちゃんの汗《あせ》を拭《ふ》いても問題ないよね?」
「……え? ま、まあ、それは構いませんが、拭《ふ》けるものなど、どこにも……」
彼女が最後まで言い終わる前に、彼は彼女の耳元でこう囁《ささや》く。
「……何言ってるの? そんなの僕の舌できれいにするに決まってるじゃん」
彼女はそれを聞いた直後、彼から離れようとしたが彼に強く抱きしめられてしまったため、身動きが取れなくなってしまった。
「……は、離しなさい! これは命令です!」
彼女は彼から逃《のが》れようと、必死でもがいた。しかし、彼は彼女を離そうとしない。
「お姉ちゃんが悪いんだよ? 僕にいじわるばっかりするから、こんなことになるんだよ。ねえ、お姉ちゃん……。そういうのなんていうか知ってる?」
「そ、そんなこと今、答えられるわけがないでしょう!」
彼はニヤリと笑うと、彼女の耳元でこう言った。
「……そっか。じゃあ、教えてあげるよ。人にやった行《おこな》いが自分に返ってくることを……因果応報《いんがおうほう》……っていうんだよ? お姉ちゃん……」
彼はその直後、彼の頬を伝《つた》っていた透明な水滴を舌で舐《な》めとった。
「や、やめなさい! 私にこんなことをしていいと思っているの!」
プライドの高い彼女の心は崩壊寸前だったが、彼女はそれを理解した上で彼にそう言った。
「……お姉ちゃん。僕はただ、お姉ちゃんの体をきれいにしてあげようとしてるだけなんだよ? それなのに、どうしてまだ抵抗するの?」
「そ、そんなの決まっているでしょう! 弟に体をいいようにされるぐらいなら、死んだ方がマシだからよ!」
「……ふーん、そうなんだ……。けど、僕はやめる気なんて、これっぽっちもないよ。むしろ、お姉ちゃんの体にしっかり刻み込んであげたいって思ってる。一生忘れられないくらい、深くしっかりとね……」
「も、もうやめて……。お願いだから……ね?」
彼女が弱々しく懇願《こんがん》すると、彼はニッコリ笑った。
「……うん、いいよー。やめてあげるー」
彼がそう言うと、彼女は砂漠《さばく》でオアシスを見つけた時のような顔になった。
しかし……それは彼の作戦だった。彼女のプライドをズタズタに引き裂くための……悪魔の罠《わな》だった。
「……なーんて言うと思ったー?」
「……え?」
「ごめんねー、お姉ちゃん。僕、もう我慢できないんだー。だから……しばらく動かないでね?」
彼女はそれを聞くと、彼に謝罪をした。
「ナオト様! どうかお許しください! 私にできることなら何でもやります! ですから、もうやめてください!!」
彼は彼女と目を合わせると、彼女の頭を優しく撫でた。
「……ごめんな、フィア。あんなことするつもりなんて全然なかったのに、つい火が付いちまって」
「い……いえ、私もやりすぎました。申し訳ありません」
「いや、あれはあれで、結構楽しかったぞ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「そう、ですか……」
「もうー、いつまでもめそめそするなよー。お前らしくないぞ?」
「……そう、ですね。そうします」
その時、彼女は微笑みを浮かべた。
天使の微笑み……。
ナオトは一瞬、ドキッとした。
彼女はそれを不思議そうに見ていた。
「え、えっと、じゃあ、しばらくしたら、ミカンを呼んできてくれ」
「はい、分かりました」
彼女はそう言うと、彼をギュッと抱きしめた。
彼は一瞬、驚いたが……すぐに抱きしめ返した。