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タイトル:「君の隣で」
放課後、私はいつものように部活を終えて、帰り道を歩いていた。外はもう薄暗く、冬の寒さが肌にしみる。そんな時、ふと視線を感じた。隣の歩道を歩いている男子が、私をチラッと見ていた。あれ、風雅くんだ。
風雅くん。彼は私のクラスメート。だけど、彼とはあまり話したことがなかった。身長は高くて、髪は黒くて少し長め。いつも落ち着いた感じで、クールな印象があったけれど、その目は時々優しさを感じさせることもあって、私はどこか気になっていた。
それなのに、どうしてこんなにドキドキしているんだろう。私は思わず視線を外して、歩くスピードを少し早めた。でも、風雅くんの足音が近づいてきた気がして、また顔を上げると、風雅くんが私に歩調を合わせてきた。
「雛乃、帰り道一緒か?」
突然私の名前を呼ばれて、驚いて立ち止まった。まさか、風雅くんが声をかけてくるなんて。少し目を逸らして、慌てて答える。
「えっ、あ、うん。そうだけど…」
「よかった、俺も帰るところだったんだ。」
風雅くんは、にこりと笑った。その笑顔に、私は心臓が一瞬止まったかと思うほどドキッとした。そんな風雅くんと一緒に歩くのは初めてだ。しばらく無言で歩いていたけれど、私は何となく緊張して、ぎこちなく足元を見る。
「雛乃、最近寒いね。」
「うん、寒いよね…。」
ああ、どうしてこんな簡単な会話でも、こんなに緊張するんだろう。私は心の中で自分を責めながら、顔を上げた。その時、突然風雅くんが足を滑らせて、バランスを崩した。
「わっ!」
私は反射的に彼の腕を掴んだ。けれど、風雅くんがそのまま私の腕を引っ張る形になって、私たちはバランスを崩して、互いに倒れそうになった。慌てて体勢を整えようとしたが、私の足がつまずいて、足元がぐらつく。
「えっ、危ないっ!」
その瞬間、風雅くんが私の肩を抱き寄せて、支えてくれた。彼の腕の中に引き寄せられて、私は一瞬、世界が止まったような気がした。心臓がドキドキして、顔が赤くなったのを自分でも感じた。
「ごめん、雛乃。俺が不注意だった。」
風雅くんの声が、私の耳元で優しく響く。すぐに離れようとしたけれど、風雅くんはそのまま私を少しだけ引き寄せたまま、安心したように笑った。
「大丈夫? 転ばなくてよかった。」
その笑顔に、私はまた胸がドキドキしてしまった。私の手が彼の腕に触れているのが、まるで夢のようで、現実だとは信じられない気持ちになった。
「うん、大丈夫…。」
私はただ、ぎこちなく返事をして、顔を上げられなかった。風雅くんはそんな私を見て、少しだけ真剣な表情を浮かべた。
「雛乃、あの…」
その瞬間、私の胸が一瞬高鳴った。ドキドキしている私を、風雅くんはじっと見つめていた。
「ありがとう、さっき助けてくれて。」
ああ、そうだった、さっき私が彼を支えたことを言ってくれているんだ。でも、なんだかその言葉にちょっと安心して、胸のドキドキが少しだけ落ち着いた気がした。
「ううん、気にしないで。ほんとに大丈夫だったから。」
私はちょっと照れくさくなって、顔をそらしながら言った。すると、風雅くんが微笑んで、少し歩幅を狭めて私に近づいてきた。
「それならよかった。今日は一緒に帰れて嬉しいよ。」
その言葉に、私は再び心が跳ね上がるような気がした。風雅くんがこんなに優しい言葉をくれるなんて、思ってもいなかった。
「私も…嬉しい。」
思わずそう答えてしまって、またドキドキしてしまったけれど、それでも今は、風雅くんと一緒に帰ることがとても幸せに感じた。
そして、私たちは並んで歩きながら、少しずつ話を続けた。まだ何も進展はないけれど、今日の出来事が、きっと私たちの間に少しだけ近づけてくれたんじゃないかと思う。私は心の中で、また少しだけ風雅くんを意識しながら歩き続けた。
…特別な日だった訳じゃないけど、でも私にとっては最高の日で家に帰ってもそのことばかり考えていた。