「来斗、どうした。
カンナとデートか?」
帰る前、挨拶に来た来斗がウキウキしているように見えたので、青葉はそう問うてみた。
「はい。
姉の店で待ち合わせてるんです」
と来斗は素直に白状する。
「……あかりのところに行くのか。
俺も一緒に行っていいか」
と言うと、来斗は、
「はい、ぜひ」
と機嫌良く言った。
……破れ鍋に綴じ蓋というが。
来斗はいい青年なのに、何故、カンナなんぞと。
まあ、来斗には不思議な姉と、謎の甥がひっついてはいるのだが。
問題があるとしたら、それくらいか。
ともかく、ひとりであかりの店に行くのは気まずかったので。
ちょうどいいと思い、来斗と店に行く。
すると、灯りのついている店内から笑い声が聞こえてきた。
自分が中で笑っているのかと思った。
笑い方は違うが、声もよく似ている大吾だった。
慌てて中に入ると、カウンターにあかり、大吾、カンナがいた。
あかりがこちらを見て言う。
「あ、木南さん、来てくださったんですね。
すみません。
今、ご連絡しようかと。
おかげさまで、地蔵、消えました」
地蔵が知らない間に消えていたこともショックだが。
キスまでしたのに、木南さん、とまた呼ばれてしまったこともショックだ。
大吾がこちらを振り向き、笑って言う。
「遅かったな、青葉っ。
地蔵は俺が始末した!」
勝ち誇ったように言う大吾に、
「くそっ、地蔵めっ。
俺が来るまで持ちこたえててくれればっ」
とあかりにいいところを見せそこねた青葉は悔しがる。
「……いやあの、持ちこたえられても困るんですけど」
あかりがそう呟くと、来斗とカンナが笑った。
カンナの別人のように柔らかい表情に、俺もあかりといるとき、ああいう顔をしてるといいな、と思った。
「地蔵って名前つけてた写真を使用中だったらしいんですよ。
いや、使用した覚えはなかったんですけどね」
とあかりは笑う。
「地蔵って名前がついた写真って、なんなんだ」
「最初見つからなかったんですけど。
なんか、偽物のお地蔵さまが写った写真でした」
「なんなんだ、偽物のお地蔵さまって――」
「本物は写真撮ったら、ご無礼かな、と思うし。
なんか写りそうなので撮らないんですけど。
山の中のお店にあった、お店の飾りっぽいけど、雰囲気あるお地蔵さまを撮ってたみたいなんですよ」
「……それほんとうに偽物なのか?
パソコンをフリーズさせるなんて、呪いのお地蔵さまなんじゃないのか?」
と青葉は言った。
大吾は飲みに行く来斗たちの運転手として来ていただけだったので、もう帰っていた。
妹たちのために運転手を買って出たらしい。
なんだかんだで、いい兄だな、と思う青葉にあかりが謝る。
「すみません。
せっかく来ていただいたのに」
「いや、直ったのなら、それでいい」
「あの、なにか飲まれますか?」
とあかりが訊いてきた。
「いや、それより、夕食は食べたか?
何処か一緒に食べに行くか?
おごってやるぞ」
そう、ちょっと緊張しながら訊いてみた。
「え? 嫌です」
あっさり、あかりは断ってくる。
「なんでだっ?
昨日、キスしたからかっ」
青葉は思わず立ち上がっていた。
「く、口に出して言わないでくださいっ。
なんだか恥ずかしいからっ」
とあかりは顔を赤くして後退していく。
「なんていうか、こう……
浮気してしまった気持ちなんです。
過去の青葉さんに対して」
そんなことをあかりは言い出した。
「いや、俺も青葉だろうが。
それとも、あれか。
過去の俺とは一週間しかいなかったんで、美化されすぎてて。
今の俺とは違うと感じるとか?」
「いやー、そんなことはないです。
青葉さんは昔通りです。
なんだか相変わらずです」
その言われ方。
まったく褒められてはいないようだ、と青葉は思った。
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