「すまない!!遅くなってしまった!」
満開の桜が一つ、また一つと花弁を散らせる度、
喜び、怒り、そして哀しかった事、楽しかった事。また、それらの感情を仲間と共に笑い合い、ふざけ合った日々が終わっていく気がした。
「大丈夫だよ」と優しく声を掛けてくれる類の瞳には、ひきつった酷い顔の自分が映っていた。
「さ、行こうか」
曖昧に返事して、いつもどおり類の隣を歩く。
毎日のようにここにいると言うのに、なんだか今日だけは変に緊張して、まともに会話も続けられなかった。
「…先生や友達には、ちゃんと想いを伝えられたかい?」
類は少し寂しそうな声色でオレに問いかけた。
「嗚呼!必ずしも、世界一のスターになって帰ってくる、とな!!」
そんな彼を元気づけようと出した耳障りな大声は、少なからず届いているようだ。
司くんらしいね、と類は口に手を近づけ笑う。いつも寝癖のまま緩んだネクタイで登校してくるくせに、笑い方だけは上品だなコイツ。なんて、心の中でツッコミを入れていると、類の通学鞄から、何やら丁寧に折りたたまれた紙がひらひらと落ちてきた。
類に伝えるか迷ったが、紙の内容をこっそり見てみたい、という好奇心が抑えられなかったので、オレは紙を拾って開けてみることにした。
内容を見てみると、そこには達筆に「司くんの事が好き。」とだけ書かれていた。
「屋上に来て」でも「付き合ってください」でもなく、まるでメモのような、忘れないように記しているかのような。それが、人間関係に不器用な類らしくて、なんだか微笑ましかった。
…ふと、自分が内容について触れていないのを思い出した。
そうだ、類は、オレの事が…
──これは、
「…なあ、類」
オレがそう言うと、類は優しい声色で「何だい?」と微笑む。
その横顔は嫌になるくらい美しくて、正に「顔面国宝」という言葉がピッタリだ。
「……これ、」
オレは類の少し前に立ち、先程の紙を見せた。
「え?…!それって…!!!!」
類が紙めがけて手を伸ばしたのを、間一髪で避ける。類には申し訳ないが、この紙は、オレがずっと大切に持っていたい。
そう心に決めてから、オレは全速力で逃げた。類も遅れて後を追ってくる。
それはまるで浜辺で追いかけっこをするカップルみたいで、なんだか馬鹿らしい。けど、すごく楽しかった。
それから、100メートルほど走った。
「つ、司くん」
制汗剤を服用しているからか、単に不健康なのか分からないが、咲希から貸してもらった少女漫画の1コマみたいに、うなじから汗を流すイケメンは見られなかった。ちぇー
そんなことに拗ねるオレに構わず、「返して」と息を切らしながらも至って真面目な顔で、そう促す。
真面目なイケメンに一瞬揺らぎそうになるが、そう簡単に返すものかと、ふと我に返る。
「フッ…答えは勿論、ノーだ!!」
我ながら腹立つドヤ顔をかます。そんなオレを横目に「隙あり」と紙を取ろうとする。
「…!おっと」
…全く、ショーで鍛えた反射神経がここで役に立つとは…
でも、危なかったな。これはオレが持っていたいものなんだ。だから、今類に取られるわけにはいかない。
「…取れるものなら、取ってみろ!」
オレはまた、全速力で走り出した。 類もまた、オレを追いかける。
段々、バカらしくなってくる。ここまで来たらもう、絶対に捕まるものか。
「オレに追いつけると思うんじゃないぞ!幼い頃から磨き上げた追いかけっこの腕を舐めるんじゃない!なにより、オレは─」
類の方を向いて、無駄に大きい声で叫ぶ。
すると、類は大きく目を見開いて硬直した。
そして、彼の喉から出る精一杯の大声で、こう叫んだ。
「つ、司くんッ!!!!!危な
キッキー、ゴリッ、グチャア。
身体を引き摺る鈍い音が、頭に響く。それはまるで他人事のように抽象的で、痛みさえも感じなかった。
…ああ。オレ、こんな呆気なく死ぬんだ。
そう自分ではわかっていても、目の前に呆然とし突っ立っている想い人の立ち姿を、頭では拒絶してしまう。
彼のトラウマにならないだろうか。自分を責めてしまってはいないだろうか。一時でも、自害しようと考えてはいないだろうか。
類の不安を和らげることができるのなら、オレは最期に、類に言いたいことがある。
「…大丈夫だぞ、…類。」
おれは、スターだからな
コメント
13件
泣きそう… 類司はやっぱこういうの合うなあ…(語彙力
もうほんとにさえちゃんの切ない類司ストーリー大好きすぎてまじでタヒねる……(?)
はぁ……はぁ……あの……、ワンツー青春ストーリー🥰キュン🥰とか思ってたら……あの、え……? 人の心が、無い……??いや今月でこんなに「人の心無い?」って思ったの今日が初めてですよ……。 でもこの苦い雰囲気がたまりません🥹✨️後方腕組み理解面オタクみたいなこと言いますが、これがさえぎりさんの持ち味だよな……とおもいました🥹✨️というかもうこういう展開がないと満足できない体になってます(調教済み)