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悠希乃さんが運転中俺の左手を見てたのには気づいてた。ただ、それでも聞いてこないのは彼女の昔ながらの優しさなんだと思う。だから、こっちから話題を振った。べつに誰かに聞いてほしい訳じゃなかったけど、悠希乃さんにはなぜか話しておきたいと思った。お互い素面だと少し恥ずかしいからお酒を進めたけど、まさか、カクテル2杯で潰れるなんて。
「悠希乃さーん。起きてー」
「んん」
起きる気配が一向にない。はぁ、どうするか。うつ伏せになっているが、横から見ると顔が確認できる。
「かわいいな」
!!俺は、今なんと?たしかに悠希乃さんは整っている顔をしているが、口にだしたらセクハラだろうが。首が飛んでしまう。しかし、ほんとにどうするべきか。
連れて帰ってきてしまった。訴えられるか。いや、悠希乃さん懐いてくれてるっぽいし大丈夫だろうか。だとしてもドン引きされないか?
とりあえず起きる気配がないので自分のベッドに寝かせておこう。ベッド処分していなくてよかった。10時か、俺も寝る準備をしよう。風呂に入るのは面倒だが悠希乃さんもいるんだし入っておこう。明日起きたら何と言われるだろうか。侮辱されるか?いや、悠希乃さんはそんなことしないだろうな。自分以外の人がこの家にいるのはすごく久しぶりだ。心なしか冷たかった部屋に温もりを感じる。悠希乃さん、起きたらシャワーを浴びるだろうか。一応早めにアラームをセットしよう。こんなに人のことを考えて行動するのはいつぶりだろう。少し肌寒い浴室でシャワーを浴びながらそんなことを考える。シャワーも浴びて少しさっぱりした。それと同時に目が冴えてしまってとてもじゃないが眠れそうにない。仕方がないからビールでも飲みながら、本を読もうか。
「え!」
びっくりした。悠希乃さん、大丈夫なのだろうか。様子を見に行こう。
「悠希乃さん、大丈夫ですか?」
「え!高科先生?なんで?ここどこですか?」
「俺の家です。悠希乃さん潰れてしまったので、連れて帰ってしまいました。すみません。」
「え、そんな。私こそご迷惑お掛けしてすみません。」
「迷惑だなんて思ってませんよ。それよりシャワー浴びますか。」
「いえ!そんな、今からでも帰ります。」
「もう終電ないですよ?」
「う、確かに」
「今日は泊まっていって下さい。誓って手は出しませんから。」
「では、お言葉に甘えて。シャワーお借りしてもいいですか?」
「もちろん、どうぞ。着替えの準備しますね。」
「ありがとうございます。」
自分がこんなことをするとは思わなかった。手は、出さない。絶対に。悠希乃さんが着れそうなものはあるだろうか。
「悠希乃さん、着替え用意しておいたのでゆっくりしてくださいね。」
「何から何までありがとうございます。」
そう言って自分に背を向けて歩いていく姿は卒業式で見たときよりも遥かに頼もしく、きれいだった。
「髪、伸びたな」
「何か言いました?」
「あ、いや。なんでもないよ」
不思議そうにしている彼女。あの頃の面影は十分すぎるというほどにある。だからこそ、さっきのような後ろ姿を見せられると胸がなぜかざわつく。35歳にもなってこんなことになるなんて、気を取り直して読書に励もう。
「ーーーーーー」
スマホか。須藤彩佳。離婚したのになぜ今更。
「はい、高科です」
『ちょっと、素っ気なくない?私たちの仲だってのに』
「離婚した仲でしょう」
『ほんと冗談通じないよね』
「今更何の用?」
『あーそうそう。私今の旦那と離婚したからより戻さない?』
「は?」
『嬉しくて声もでない感じ?』
「ふざけるな。エイプリルフールには遅すぎるぞ。そんなことより今は来客中だから切るし、金輪際かかわらないでくれ。」
『ちょっと待ってこんな時間に?そっちこそ冗談きついよ』
「高科先生、シャワーありがとうございました」
『は?だれ?』
「あ、すみません。通話中でしたか?」
「大丈夫だよ野暮用だから。」
『先生って、あんた生徒に手だしてんの?犯罪じゃん。あんたもあんただけど女のほうもヤバイね』
「悠希乃さんはもう成人してるし未来の同僚だ。再婚?こっちから願い下げだよ」
ッーー
「すみません、私空気読まずに」
「いや、こちらこそ迷惑かけてしまいましたね」
重苦しい空気だ。
「あの、大丈夫ですか?」
彼女の瞳はいつも優しさと遠慮の色を帯びている。
「悠希乃さん、もう眠いでしょう?」
だめだ、こんなに縋っては
「あ、それがシャワー浴びたら目が冴えてしまって」
彼女の優しさに漬け込んでは
「じゃあ少し晩酌付き合ってもらえる?」
「私でよければ喜んで」
だめだとわかっていた
「なにがいい?ビールと麦茶があるけど」
「じゃあ麦茶をいただきたいです」
自分のなかで線を引いておいたのに。やけに今日は人恋しさに掻き乱されるな。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
また緊張させてしまっている。
「疲れてない?無理に付き合わなくていいよ?」
「疲れてないといえば嘘になりますが、今は、今だけは高科先生から離れたくないです」
どこでそんな殺し文句を覚えたんだ。君といると自分がどんどん小さく、いやもとの大きさに戻っていくような気がする。
「さっきの人俺の元奥さん」
「はい、会話の内容からそうかなと」
「あいつね、自分が浮気して離婚したらこれ見よがしに再婚したんだ。そのくせ、また離婚して今度は俺に再婚を迫ってきた。本当に呆れるよ」
「ひどい、高科先生の気持ちを考えずに」
「電話にでた俺も悪いけどね」
「そんなことないです!高科先生は全く悪くない」
「はは、ありがとう。悠希乃さんといると君の優しさに溺れてしまうよ」
「いくらでも溺れてください。私は高科先生のお力になれれば」
「本当に変わらないね」
今夜は部屋が暖かい。悠希乃さんがいるからだろうな。
「高科先生、あまりご自分を責めないでください。私は、迷惑だとは少しも思っていません。」
「なんで悠希乃さんが泣いてるの?」
「え?だって、大切な人が傷つけられてるとこなんて見たくありません」
悠希乃さんの瞳が、悠希乃さんの涙が、悠希乃さんの全てが綺麗だ。俺は、この年にもなって彼女に恋をしてしまっている。
「綺麗だよ」
「え?」
そう言って俺は彼女の頬に手を添え、唇を重ねた。俺には甘すぎるキスだった。
「今日はこれ以上のことはしない。ゆっくり体を休めて」
「はい、おやすみなさい」
そう俯き気味に言った彼女は何よりも綺麗だった。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございました。素人のご都合物語ですが、これからもお付き合いいただけたらと思います。何卒よろしくお願いします🙇♀️🙇♀️