テラーノベル
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「……日織さん、僕はまた……」
そこまで言って、唇を噛むようにして言葉を止めると、修太郎さんは私から身体を離して「ごめんなさい……」とつぶやかれた。
私は、咄嗟に赤くなった右手を修太郎さんから隠すように左手で包んで、「私のほうこそ……さっきはわざと修太郎さんにひどいことをしてしまいました。すみません」と謝る。
修太郎さんの豹変ぶりを肌で感じたのは今回で二度目。
それは、どちらも……たぶん修太郎さんが強く嫉妬なさったときで。
確かにどちらもすくんでしまうほど怖かったけれど……でも、殊、今のに関しては、最初に修太郎さんを挑発したのはまぎれもなく私自身だから。
許婚の話を出される辛さは私にも痛いほど分かっているはずなのに、どんな理由があっても、あんなことをしてはいけなかった。
「修太郎さん、私、なんだか自分ばかりが一方的に貴方のことを好きみたいで……とても寂しかったんです。私ばかりドキドキしているみたいなのが悔しくて……悲しくて……。修太郎さんにも私と同じように苦しい思いを経験して頂きたいと、自分勝手なことを思ってしまいました。……最低なのです」
そこで目端を濡らす涙をぬぐって修太郎さんを見つめると、私は彼の左手を両手でギュッと握った。
そのまま自分の胸元に彼の手を持ち上げて抱きしめると、
「今夜必ず健二さんにお電話して……彼とお会いする約束を取り付けます。健二さんにお会いしたら、そのときにはちゃんと修太郎さんのことを……。好きな人ができたことを正直にお話して婚約を解消していただけるよう、お願いするつもりです。……なので修太郎さん。全部おさまるまで……私にお時間をいただけますか?」
修太郎さんの目を見つめながら、一生懸命胸のうちを吐露した。
その間に修太郎さんも、ご自身の問題を解決してくださるといいなと思ったけれど、声には出さずにおいた。
その件は、私が強要することではないから。
彼の左腕を抱きしめたまま、そんなことをあれこれと考えていたら、緊張からか、胸がドキドキと高鳴ってきて……きっと修太郎さんにも伝わってしまっているだろうな、とソワソワした気持ちになる。
それでも私の本気を知っていただくには、やはりこういう方法しか思いつけなかった。
修太郎さんは、そんな私の顔をしばらくの間じっと見つめていらしてから、おもむろにそっと右手を伸ばすと私の頬を撫でていらした。
「また、日織さんを泣かせてしまいましたね……。僕はただ、貴女を笑顔にしたいと思っているだけなのに、いつも気が付いたらこんな風に日織さんを追い詰めてしまってばかりです。でも、――それでもごめんなさい。僕はキミを手放してあげられそうにない。だからせめて……僕のほうでも処理しておかなくてはいけないこと、ちゃんと済ませるようにしておきますね」
修太郎さんは噛んで含めるようにそうおっしゃると、私の唇に指の腹をそっと滑らせる。
「日織さんこそ、こんな僕で本当に構わないのですか?」
それからとても不安そうにそう問いかけていらした。
私は、修太郎さんの手をぎゅっと強く抱きしめると、彼の目をまっすぐに見つめてにっこり微笑んだ。
「もうっ、愚問ですよ? 修太郎さん。私が好きなのは修太郎さんだけだと何度もお伝えしたじゃないですか」
私が、普段では考えられないくらいはっきりとそう意思表示できたのは、いつもは自信満々の修太郎さんの手が、微かに震えているのを感じたから。
「それに……。キスのその先も……、私だけでは分からないのです。すべて済んだら……。その、あ、あのときの約束、果たしてくださるんですよ、ね?」
小さくつぶやくようにそう付け加えたら、修太郎さんが驚いた顔をなさった。
そうしてふっと微かに声を出してお笑いになると、
「日織さんの口からそんなおねだりが聞けるとは思ってもみませんでした。……これは弱音を吐いている場合じゃないですね。――僕も、頑張らないと」
そうおっしゃって、今まで見たなかで一番最高の笑顔を見せてくださった。
彼のその笑顔を見ただけで、私の胸はキューッと痛みを感じるぐらいに強く締め付けられる。
#極道
鷹槻れん

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(私も修太郎さんのためなら頑張れるのですっ!)
そう思えた。
コメント
2件
ひおりちゃん、少し成長したね!
このエピソード、本当に良かったです。日織さんが自分の気持ちをはっきり言葉にできたのが印象的でした。特に「キスのその先も…」という台詞には、彼女の覚悟と修太郎さんへの信頼が感じられて、胸が熱くなりました。修太郎さんの最高の笑顔も、彼の心情変化を象徴していて、とても素敵なシーンでした。二人の関係が少しずつ前進しているのが嬉しいです。次が気になります!