突然だが、本当に突然なのだが、聞いて欲しい。
僕は、長いモノが嫌いだ。視界に入るだけで、苛立ちが心の中で渦巻く。特例はない。長ければ、何に対しても苛立つ。物体でも、人間でも、空間にすら。
こんな性格のせいで、昔から苦労してきた。まず、自分よりも背の高い人物に苛立つ。ひがみなどではない。心の奥から、汚物のような感情が少しずつ少しずつ流れてくるのだ。止めようとしても、止めることはできない。
小学生のとき、初めて東京スカイツリーを見た時なんて、信じられないほどの殺意が湧いた。そして、暴れ出したらしい。「らしい」と言うのも、僕はその時の記憶がないのだ。感情だけが僕の体を動かしていたのだろう。その時は両親が止めてくれたが、暴れ出したのが病院や学校などではなくて、本当に良かったと思っている。
「両親」
両親とは言ったが、血が繋がっている訳ではない。血が繋がっている方の親は、死んでいるか生きているかも分からない。ただ、僕のことを置いて、夫婦で何処か遠くへ行ったと言うことしか、分からない。
血が繋がっていない方は、暴力とかそういうのは無かった。しかし、愛されてもいなかった。とりあえず生かされていた、と言う感じだ。まあ、特に恨んではいない。むしろ育ててくれたことを、愛はなかったとしても、感謝している。
今生きている。だからこうして長い長い小腸を細かく細かく切り刻んでいられるのだ。感謝しないわけがない。
僕は長いものが嫌いなのだ。人の中に、長い器官があると思うだけで許せない。
だからこうやって、切って、切って、切り刻んで、満足感を得ているのだ。
暗い街の隅。ナイフを持った僕と、僕の目の前の綺麗な死体(この死体は、僕が背の高い女性の心臓を後ろから貫いて作った。先程も言ったが、僕は背の高い人間に苛立ちを覚えるのだ。)がある。
くちゃ、くちゃ、くちゃ。
綺麗な赤色だ。健康的な体をした女性だった。血からも、健康の良さが伺える。
くちゃ、くちゃ、くちゃ。
言っておくが、僕は殺すことを目的に殺しているのでは決してない。長いモノを、短くするために殺しているのだ。叩いて短くなるんだったら殺すことなんてない。仕方ないことなのだ。
くちゃ、くちゃ、くちゃ。
この音には不快感しか感じない。しかし、これを超える満足感を、「長いモノを短くする」という行為から感じるのだ。
くちゃ、くちゃ、くちゃ。
「…できた」
いつもよりも時間はかかったが、しっかりと短くできた。この行為は、誰にも認められることはない。でも、いいのだ。僕が満足できるなら。
2022年1月17日 時刻23:17
1人の男と、1人の男が出会う。
こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ
「…!」
足音がした。
絶対に来ないと思っていた。なぜなら7回目までは誰も来たことがなかったから。バレることもなかった。なぜなら、僕が行った証拠は一瞬で消えるから。証拠が生まれてから消えるまでが短くなるのだ。理由は分からない。僕ほど長いものが嫌いだと、こうなるのかもしれない。
なんて、どうでもいい。今は迫ってくる足音をどうにかしなければいけない。おそらく、近づいてきているのは、人間。どうする?
…殺すしかない。殺したいわけではないのだ、決して。しかし、見られて逃げられれば、僕の自由は無くなる。殺すしかないのだ。
殺すし…か…
そこには、少女がいた。身長は僕より小さい。かなり小柄だ。長い白と赤の髪は整えられ、月の光を浴びて輝いている。
「綺麗」
一言で表すならそれだ。美しいとか、可愛いとかじゃなくて、綺麗なのだ。
…綺麗?
あんな長い髪なのに?
なんで、綺麗だと思ってるんだ?
「…」 「…」
お互い黙って見つめ合っている。両者の表情は動かない。
殺していいのか?こんな綺麗な少女を。
僕が思考を巡らせているうちに、その少女は口を開いた。
「あなたが…そうか」
「…俺は…お前を殺していいのか…?」
気づけば質問していた。そして、少女はため息を吐いた後、答えた。
「…いいワケないじゃない。あなた、嫌だと思ってすぐ殺したんでしょ、その女の人を。そんなだから、いつまで経っても何も克服できないのよ。」
その少女は、淡々と言葉を並べる。
「…は?」
何も知らないくせに。
嫌だったんだ、凄く。死にたくなるほど、だから殺してるんだ。死にたくないから。
嫌なものと同じ世界に生きている、存在している、そう思うだけで死にたくなるんだ。
怒りが、僕を埋め尽くした。こいつは、綺麗だ。だか、それがどうした。殺すんだ。
殺すんだ。綺麗に、丁寧に、ゆっくり、少しずつ、優しく、力を入れすぎず、不快感を感じさせず、痛みがないように、品性を感じさせるように殺すんだ。
「殺すことに、品性なんてないわよ、馬鹿ね」
「!!」
彼女の口からは、僕の思っていたことが飛び出してきた。なぜかは分からない。疑問と恐怖が僕の心を埋め尽くした。
「…殺す!殺す!」
なぜか、殺そうとしている側の僕の手が震えている。それとは対照的に、少女は震えず、凛としている。
ど
刹那、僕
の首
に大きな
衝撃が 加わっ
た 、、、、
「起きたらまたお話しできるわよ。楽しみにしていなさい」
少女は、倒れた僕を見下しながらそう言った。
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