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松原瑠夏は高校3年生の夏に死んだ。
「ルカってモデルみたい」
皮肉の混じった友人の言葉を、瑠夏は拾いあげる。高校1年生の春。可愛いと評判の制服を身にまとった初日の高揚感は今でも忘れられない。瑠夏は制服でこの高校を目指し、入学したのだ。実家から電車で1時間と少し。大きな川が流れるこの街には、桜が少ない。風情に欠けるとルカは思う。人も街も国も見た目が肝心なのだ。瑠夏は目の前の友人を見て、
「もっと努力すれば?」
軽く言ったつもりだった。真剣にならないように。けれど友人はそうは受け取らなかった。赤くなった頬を固くして怒る。もういい、と言うように目線を瑠夏から外した。ああ、またやってしまった。反省したのも束の間、瑠夏は外を見、次のことを考えている。瑠夏は友人を怒らせたことなどもはや気にしていなかった。
柱という鬼がいた。彼は不老不死だった。江戸時代より前からここにいる。現在、彼は玖賀と名乗り生活をしている。人間のように。私たちのように。5階建てのマンションの3階の一室、そこは言わば訳あり物件であり、一年前に玖賀雅子という女性が自殺をした。しかし鬼には関係のない話だった。幽霊よりも鬼の方が遥かに強いからだ。喰ってやることもできる。しかし彼は温厚だった。彼は毎晩、玖賀雅子の夜泣きを聞きながら今日を迎えていた。
「こんにちわ」
「こ、こんにちわ」
隣に住む小林桜は、そこそこ大きな会社の事務作業を担っていた。俗に言うOLである。彼女が出社する時間と、柱がランニングを終えて戻ってくる時間が一緒、というわけではなく、桜がランニング終わりの時間と出勤時刻を合わせているのだ。桜は柱が好きだった。一言、交わすだけで今日も頑張れる。桜は一言以上話せたことがなかった。そんな生活が半年続いていた。
松原瑠夏が柱と出会ったのは、葉桜が目立つ昼間の森の中だった。