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▶︎はじめに
最近R18ばっかり書いていて、なんか突然
ピュアが足りない…!!と発作を起こしたので
初恋組で切ない純愛物語を書いていきます。
ノベルを書くのは初めてなので、暖かい目で
見守っていただけるとありがたいです。
▶︎注意
死ネタあり
エセ関西弁
▶︎設定
原作軸
晴明が病気持ち
それでは第1話どうぞ
第1話「君が春をつれてきた」
春の匂いは、いつも少しだけ痛い。
窓の外で揺れる桜を、僕は職員室の隅から
眺めていた。花びらがひらひらと舞うたびに
胸の奥に沈めていた記憶が浮かび上がる。
━━━あの日も、こんな風に暖かかった。
僕の過去は、誰にも話していない。
話せばきっと…相手の目に映る僕の色が
変わってしまうから。
だから僕は、心を開かない。
深く関わらない。
期待しない。
そうやって静かに生きていれば、
もう傷つかないと思っていた。
「神酒先生って誰に対して 距離があります
よね。踏み込ませないっていうか…」
突然、光が差し込んだみたいに声が落ちた。
顔をあげると、逆光の中に立っていたのは、
先日赴任してきたばかりの新人教師だった。
艶のある黒髪が揺れて、頼りない癖に
赤い瞳がやけに真っ直ぐで、笑うと春そのものみたいに明るい。
「別にそんなことあらへんで。」
いつものようににこりと笑って流すと、彼は
穏やかに笑った。
「あ、すみません!失礼なこと言って…
ただ、もったいないと思ってしまって。」
「勿体ない?」
「だって、神酒先生ならきっと
たくさんの人と仲良くなれるのに、」
「何十億人といる中で、ひとりとひとりが
出会って仲良くなって…それって、
すごいことじゃないですか。僕は
友達が出来なかったものですから、その
機会をみすみす逃してしまうのは少し
もったいないと思ってしまったんです。 」
「…って、人には色々な事情があるのに
急にこんなこと言っちゃってすみません!」
彼は申し訳なさそうに謝ってきた。
「気にせんでええよ。けど…
誰もこんな奴と友達になんて
なりたくないやろ。」
ついぽろりと、そんなことを口走った。
「そんなことありません!神酒先生は
優しくて、心が綺麗で、着物がよく似合う
素敵な人です。少なくとも僕は、神酒先生
と仲良くなれたら嬉しいですよ!」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。
心が綺麗、なんて言われたことがなかった。
僕はあの日からずっと、醜い生き物だと
思っていたから。
「…せやろ?」
僕は綺麗なんかじゃ……そう思いながらも
おどけるように僕は笑った。
「…。」
彼は自分の椅子を引っ張って勝手に僕の隣に
座り込み、窓の外を一緒に見上げた。
「ねぇ、春って毎年ちゃんと来るんですよ。
不思議ですよね。」
「……当たり前やろ。」
「でも、どんな冬のあとでも来るんですよ?」
彼は笑う。
僕の凍った部分に土足で踏み込むみたいに。
それが、怖かった。
彼はやたらと僕に話しかけてきた。
特に、”友達”になってからは__。
教師から 避けられていた彼にとって友達が
出来た事は余程嬉しかったのだろう。
短い昼休み、2人だけの職員室、
職員寮までの帰り道。
僕が距離を取ろうとするたび、彼は
あっけらかんとその距離を縮める。
「凛太郎くんってさ、やっぱり優しいよね。」
「僕は優しくなんかないで。」
「ううん、優しいよ。優しいから僕を
遠ざけるんだよ。」
図星だった。
僕は守れなかった。
あの日、たった一人の…はじめての友達を。
━━だからもう、
誰かを好きになる資格なんてない。
彼の明るさに触れるたび、胸の奥が
ほどけ ていく。
でも同時に、罪悪感が重くのしかかる。
好きになってはいけない。
彼は太陽だ。
僕みたいな影はそばに居てはいけない。
「ねぇ」
ある日の帰り道。
川面が藍色に染まっている。
「もしさ、君が過去に縛られてるなら」
彼は前を向いたまま言った。
「それ、僕が一緒に持ってもいい ?」
思わず立ち止まる。
「…無理だよ。」
「なんで?」
「重いから。」
声が震えた。
「僕は、守れなかったんだ。だからもう
誰かを好きになる資格なんて……」
最後まで言えなかった。
彼が振り向いた。
夕焼けを背負って、まっすぐ僕を見つめる。
「資格って、誰が決めるの?」
その目は、優しかった。
「守れなかったことと、これから
守れないことは違うよ。」
彼は1歩近づく。
「君は、まだ終わってない。」
その言葉が、胸の奥の氷にヒビを入れた。
「僕はね、凛太郎くんが笑ったところ、
ちゃんと見たい。」
春風が吹いた。
桜の花びらが、ふたりの間を通り過ぎる。
気付けば、涙が零れていた。
初めてだった。
過去のせいじゃない涙は___
それからすぐに、劇的な何かが
変わった訳じゃない。
僕はまだ時々、夜に目を覚ます。
思い出して、胸が痛む。
でも。
朝、職員室に入ると、彼がいる。
「おはよう!凛太郎くん!」
あっけらかんと笑うその声が、たしかに僕を
現実へと引き戻す。
僕はまだ、全部をさらけ出すことはできない。
怖さが消えた訳じゃない。
けれど。
窓の外の桜を見ながら思う。
冬は終わらないと思っていた。
でも、僕の心の中の小さな桜の蕾が
膨らみはじめた。
彼が来た日から。
「……ありがとう」
小さく呟くと、彼が不思議そうに首を傾げる。
「なにが?」
「なんでもない」
まだ言えない。
でも、いつかきっと。
その日まで、僕は逃げない。
彼の隣で、ちゃんと生きる。
春風が吹く。
花びらが舞う。
そして僕は少しだけ前を向いた。