テラーノベル
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今から10年後——。
イーデン校の冬は、相変わらず静かで、どこか格式ばっていた。
ダミアン・デズモンドは16歳になり、アーニャ・フォージャーは15歳。
二人は今、誰もが認める恋人同士だった。
もうすぐクリスマス。
街は赤や白の飾りで溢れているというのに、ダミアンの心は落ち着かなかった。
(……誘うだけだ。たった一言じゃないか)
そう思うたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
アーニャの笑顔を思い浮かべると同時に、もし断られたら、という不安も頭をよぎってしまうのだ。
そんな様子を、周囲が見逃すはずもなかった。
「ねえ、あれ絶対アーニャちゃんのことよね?」
ベッキーが小声で言うと、エミールとユーインも大きくうなずいた。
「最近ずっと落ち着きないしな」
「クリスマスが近いからだろ?」
こうして三人は、ダミアンが無事にアーニャをクリスマスに誘えるよう、ひそひそと作戦会議を始めたのだった。
ベッキーが、にやりと笑いながらアーニャに声をかけた。
「ねぇ、アーニャちゃん。ダミアンがね、クリスマスに一緒に遊びたいんだって!」
「……えっ!?」
アーニャの顔は、まるで熟した林檎のように一気に赤く染まった。
視線はあちこち泳ぎ、手元をぎゅっと握りしめている。
ダミアンとアーニャは、つい最近付き合い始めたばかりだった。
ダミアンは10年もの間アーニャを想い続けていたが、アーニャはその気持ちに気づかず、
そしてアーニャもまた、無自覚のまま彼を想い続けていた。
長い両片思いの末、ようやく両思いになった二人。
だからこそ、距離は近いのに、心はまだ少しだけ追いついていなかった。
「アーニャ……ダ、ダミアンと、クリスマス一緒に過ごしたい……けど……」
言葉は途中で小さくなり、アーニャは顔を両手で隠す。
まるで頭から湯気が出ているかのようだった。
その様子を、偶然近くで聞いていたのがエミールとユーインだった。
二人は顔を見合わせると、すぐさまダミアンのもとへ向かう。
「ダミアン様〜!」
声を揃えて呼ばれるのは、もうすっかり聞き慣れていた。
「ダミアン様!」
「あいつ、クリスマス一緒に過ごしたいって言ってましたよ!」
ユーインが少し興奮気味に告げる。
「……なっ!?」
ダミアンは思わず首の後ろをさすり、視線を逸らした。
照れを隠そうとしているのが、あまりにも分かりやすい。
「今しかないですよ!」
「今行かないと後悔します!」
エミールとユーインが背中を押す。
ダミアンは一度、深く息を吸い——決意したように顔を上げた。
「……そうだな。今から行ってくる!」
そう言って、彼はアーニャのもとへ駆け出した。
アーニャはベッキーと話していたが、
何かを察したのか、ベッキーはそっとその場を離れる。
残された二人。
鼓動の音が、自分でも分かるほど大きく響いていた。
沈黙の中、先に口を開いたのはダミアンだった。
「アーニャ……!」
真っ直ぐにアーニャを見つめて、言葉を続ける。
「俺と……クリスマス、一緒に過ごしてくれないか?」
アーニャの目が、ぱっと輝いた。
「……うん!」
小さく、でもはっきりと。
「よろこんで!」
その笑顔を見た瞬間、
ダミアンの胸にあった緊張は、すべて溶けていった。
──クリスマス当日。
アーニャは、待ち合わせ場所に少し早く着いてしまった。
辺りを見回した、そのとき。
「……あっ」
そこには、すでにダミアンの姿があった。
どうやら、彼の方が先に来ていたらしい。
「ダミアンっ!」
ポンッと肩を叩いて名前を呼ぶ。
振り向いたダミアンの顔は、ぱぁっと一気に明るくなった。
「アーニャ!」
その目は、きらきらと輝いているようにも見えた。
アーニャは、楽しみすぎて前の晩ほとんど眠れなかった。
けれどダミアンは、それ以上に楽しみだったのか、目の下にうっすら隈ができている。
パチパチッ
無意識のうちに、アーニャはダミアンの心を読んでしまった。
(あーやべぇ。私服可愛すぎる。天使かよ。)
その瞬間、アーニャの顔が一気に熱くなる。
「……?」
ダミアンは、少し戸惑いながらも、視線を逸らして口を開いた。
「きょ、今日の服……」
一瞬言葉に詰まりながらも、意を決したように言う。
「……可愛いな!」
アーニャの顔は、まるで林檎のように真っ赤になった。
頭から湯気が出ているようにも見える。
そんな表情を見て、ダミアンまでつられて赤くなってしまった。
このままでは何も進まないと思ったのか、
ダミアンは小さく咳払いをして、話題を変える。
「……今日、どこ行きたい?」
本当はもうプランは考えてある。
でも、アーニャの行きたい場所に行きたかった。
「私はね、ダミアンの行きたいところに行きたい!」
ニコッと笑って、まっすぐに言う。
「……そ、そうか」
ダミアンは少し照れたように笑ってから、答えた。
「じゃあ……近くのカフェにでも行こう。」
二人は並んで歩き出す。
肩が触れそうで、でも触れなくて、
それだけで胸がどきどきしてしまう、そんなクリスマスの始まりだった。
カフェに着き、二人は窓際の席に座った。
アーニャは、可愛いパンケーキとココア。
ダミアンは、迷いなくブラックコーヒーを頼んだ。
しばらくして、注文したものが運ばれてくる。
「わぁ……かわいい〜!」
アーニャは目を輝かせながら、何枚も写真を撮っては、嬉しそうに悶えていた。
ダミアンはそんな様子を、コーヒーを一口飲みながら眺めている。
「そんなの飲んで、苦くないのか?」
アーニャは少し嫌そうな顔で聞いた。
「慣れれば、結構いけるもんだぞ」
ダミアンは、どこか誇らしげに答える。
甘い匂いとコーヒーの香りに包まれた時間は、あっという間に過ぎていった。
カフェを出た二人は、そのまま水族館へ向かった。
アーニャは、泳ぐ魚や大きな水槽を見て目を輝かせる。
「すごい……!あれも、これも、きれい!」
楽しそうにはしゃぐアーニャの姿を見て、
ダミアンの口元も、自然とゆるんでいた。
その笑顔に気づかないまま、
アーニャは夢中で水槽を覗き込んでいる。
――こうして、二人の初めてのクリスマスデートは、
穏やかで、少し甘い時間の中、ゆっくりと進んでいくのだった。
──クリスマスの日 前編・完
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