テラーノベル
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冬の空は、底知れないほど深く澄んでいた。吐く息が白く染まり、あっという間に空気の中に消えていく。
元貴は昔から涙もろくて、すぐに目を潤ませる。そのたびに、俺は決まって笑ってやったんだ。あいつの、あの純粋な涙が、俺の心を締め付けるのが嫌だったから。
あの日もそうだった。二人で下校するいつもの帰り道。チェーンがぎしぎしと音を立てる、壊れかけの自転車を押しながら、他愛もない話をした。元貴の話は、いつだって俺の知らない世界を見せてくれた。
「なあ、涼架。僕ってさ、すぐ泣くじゃん?」
元貴が俯き加減に呟く。 俺はいつものように、くしゃっと笑ってやった。
「ん? でも、それが元貴の良いところだろ。元貴、弱さを知ってるから強いんだよ」
元貴が顔を上げて俺を見ると、俺は反射的にその手に触れた。少し冷えた元貴の指先を、俺の掌が優しく包み込む。
「なぁ、涼架……」
「ん?」
「僕ね、涼架といると、なんか、安心するんだ」
その言葉が、僕の胸にじんわりと染み渡る。
僕もだよ、元貴。僕も、お前といると、このどうしようもない不安から解放されるんだ。
そう言いたかったけれど、言葉にはできなかった。ただ、ぎゅっと元貴の手を握り返すことしか。その温かさが、俺の凍える心に、小さな火を灯してくれるようだった。
この温かい手が、いつか届かなくなる日が来るなんて。あの無邪気な日々が、二度と戻らないなんて。時間だけが、残酷なほどあっという間に過ぎ去っていく。あのぬくもりが、今はただ、胸を締め付ける思い出に変わってしまった。
あの時、僕は元貴のことが好きだった。凍えるような冬の寒さの中で、元貴のまっすぐな瞳が、どれほど僕の支えだったか。でも、言えなかった。この気持ちも伝えられなかった。
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