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くじら島の夜は、夏でもどこかひんやりしている。ほんの少しの肌寒さも心地良く感じる。
寝転ぶゴンの横で、キルアは無数の星を遠目に眺めていた。
「俺キルアといると楽しいよ」
不意に、ゴンが声を上げる。突然の発言にキルアは少しだけ動揺していた。ゴンの揺るぎない瞳に直視され、視線が気恥ずかしい。
ゴンの言葉にキルアは短く返し、僅かに視線を逸らした。
胸の奥がチクリと痛む。
(なんで、こんなに安心するんだよ)
ゴンはいつも堂々としていて、希望に満ちている。そんなゴンの言動がキルアの日常を潤わせた。
ただの友達。それ以上でも、それ以下でもない。
けれどふとした瞬間、心が乱れる。ゴンが笑う度、真っ直ぐ見つめる度、どうしようもなく——
キルアに微かな溜め息が漏れる。気が付かれていないか不安になったのも束の間、ゴンは気づかずに空を指差していた。
「キルア!見て!雲が魚みたい!」
振り返るゴンの笑顔に笑みがこぼれる。同時に、ゴンの無邪気な声がキルアの胸を締めつける。
(バーカ……何も気づいてねーんだよ)
こんな感情はゴンには知られたくない。知られてしまったら、もう後戻りはできない。考えただけで、気がおかしくなりそうだった。
そうなるくらいなら、心に秘めておいた方が気楽だ。言い聞かせだとしても、それが正しいと考える。たとえゴンが理解したとして、我慢せずにはいられないとわかっている。
けれど、自分の偽りのない気持ちには逃れられない。キルアの心中は相反していた。
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寂しいほどに静かな波の音と共に、焚き火が揺ら揺らと揺れるのをぼんやり見つめながら、キルアは膝を抱えていた。けれど不思議にも、気分は落ち着いていた。
一方ゴンは、焚き火の向こうで無防備に眠っている。横に目をやると、すぐ隣にゴンがいることがたまらなく嬉しい。けれど、それが怖かった。こんなにも心が満たされていると実感した時、失うのが怖くなった。
キルアは時々、その恐怖心に苛まれる。
「……俺さ」
思わず声に出ていた。
「ゴンのこと、友達って思ってる。けどそれだけじゃねー気がして……もう、わけわかんねぇよ…」
なんて言ったところで、キルアは自分がどうしたいのかがわからない。つい、口にしたことに後ろめたさを感じる。
宛てもなく、独り言は夜風に消える。届くことなんてない。届いてはいけない。
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数日後。人混みの中で、ゴンがぽつりと言った。
「好きって、どういうことなんだろう」
「は?…なんだよ急に」
キルアが驚いて立ち止まる。一瞬、息を呑む。
「この前、カップルっていう人たちが言ってたんだ。好きだから一緒にいるって…でも俺はキルアと一緒にいるけど、それって好きってことなのかな?」
真っ直ぐな目。疑いのない声。キルアは口を開けかける。
言えない。胸の奥にある言葉にならない感情が声を詰まらせる。「好き」の意味が、自分とゴンでは違いすぎるとわかっていた。
「バーカ。そんなのわかるかよ」
「そっか。俺もまだよくわかんないや。でも、キルアといると楽しい。安心する。それで充分だよ!」
そう言ってゴンは相も変わらず笑みを浮かべた。その笑顔に、何も返すことができなかった。
ただ、心の奥底でひとつだけ望む。
(ずっとこのままでいい。お前が、気付かないままでいてくれるなら)
そうして交わらない気持ちを胸に秘めたまま、肩を並べた。
——好きって、なんなんだよ。
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儚い…🥹