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5話
それから、少し時間が経った。
カーテンは、開いていた。
差し込む光が、部屋の空気をゆっくり変えていく。
「……まぶし」
小さく呟く佐野勇斗に、
「慣れろ」
吉田仁人が、少しだけ笑いながら返す。
「ずっと閉めっぱなしとか、陰キャすぎ」
「うるせぇよ……」
かすれた声だけど、前よりずっと生きてる音だった。
ベッドに座る佐野と、その隣にいる仁人。
距離は近いまま。
離れる理由は、もうなかった。
「……ちゃんと食え」
「食ってる」
「嘘つけ、昨日半分残しただろ」
「半分は食っただろ」
「全部食え」
「鬼かよ」
そんなやりとりが、やけに普通で。
やけに、ありがたかった。
「……なあ」
少しだけ真面目な声。
仁人が横を見る。
「なに」
「……あれ」
言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。
「ちゃんと対処する」
「うん」
「もう、一人で抱えない」
「うん」
「……でも」
少しだけ視線を落とす。
「怖いのは、まだ消えてないんだよな」
正直な言葉だった。
仁人は、少しだけ間を置いてから——
「消えなくていいよ」
「……え」
「怖いもんは怖いだろ」
当たり前みたいに言う。
「無理に消そうとすんな」
「……」
「その代わり」
仁人は、軽く肩をぶつける。
「隣にいろ」
シンプルな言葉。
でも、それで十分だった。
「……ずるいわ」
佐野が小さく笑う。
「なにが」
「それ言われたら、離れらんねぇだろ」
「最初から離す気ねぇよ」
即答。
その強さに、少しだけ目を細める。
「……ほんと、バカ」
「褒め言葉?」
「違う」
でも、その声はどこか柔らかい。
数日後。
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現場。
「……あ」
太智が、二人を見て少しだけ目を見開く。
「戻ってきた」
「どーも」
軽く手を上げる佐野。
その様子に、太智はほっと息を吐いた。
「……よかった」
「心配かけた」
「ほんとだよ」
少しだけ笑う。
その空気に、張り詰めていたものがほどけていく。
「……で?」
太智が仁人を見る。
「解決した?」
仁人は一瞬だけ佐野を見る。
そして——
「まだ途中」
そう答えた。
「でも」
視線を戻す。
「一人じゃないから、大丈夫」
その言葉に、太智はゆっくり頷く。
「そっか」
それ以上は聞かなかった。
聞く必要もないと思った。
「勇斗ー!」
遠くから呼ばれる。
「はーい」
佐野が返事をする。
その声は、前よりもしっかりしていた。
「行くぞ」
仁人が立ち上がる。
「うん」
そのまま、一緒に歩き出す。
当たり前みたいに、並んで。
怖さは、まだ消えていない。
問題も、完全に終わったわけじゃない。
それでも——
もう、あの暗闇に一人で沈むことはない。
隣には、ちゃんと誰かがいる。
手を伸ばせば、届く距離に。
「……なあ」
「なに」
「今日、終わったらさ」
少しだけ照れた声。
「どっか行く?」
仁人は、少し考えるふりをして——
「いいよ」
そう答えた。
「どこでも」
「適当だな」
「お前とならな」
その一言に、
佐野勇斗は、少しだけ笑った。
物語は、ここで終わりじゃない。
むしろ——
ここから、また始まる。
二人で進む、新しい時間が。
𝑒𝑛𝑑