※あらすじ必読
凛視点…
「ケホッゲホッ」
ひらひらと少しづつだけれど確実に口からこぼれ落ちる物は………
“花弁”だ、なぜ口から花弁が出てくるのか?まぁそれは………簡単なことだな、なぜなら俺は、嘔吐中枢花被性疾患、通称花吐き病だからだ。
この奇病おかげで俺は花や花言葉に詳しくなっちまった、例えば今吐いた花は、アネモネという花で花言葉は、『儚い恋』『恋の苦しみ』そして『見捨てられた』心の奥底にしまったはずの思いが見透かされている気がして思わず笑ってしまった。あぁそういえばもう一種類花を吐いたんだっけ、血にも見える真っ赤な花は、薔薇だ、花言葉は、『あなたを愛しています。』
俺、糸師凛は、糸師冴に片思いをしている、笑っちまう話だろ、男同士で血の繋がった兄弟、しかも一度捨てられてんだから………………でも心の中だけで想うことぐらい許してくれよ、何度心の奥深くにしまい込んでも、何重に鍵をかけても、この想いが無くなることは、無かったのだから___俺の花吐き病が治る時はくるのだろうか、傍から聞けば好きな人と心の底から両思いになれたと思えば白銀の百合を吐いて治るという、とても簡単なことだと思うが、花を吐いたからといって、いきなり両思いになるかといったらそういうわけではないだろう、だって花吐き病患者はずっと両思いになれず片思いを拗らせてる人ばかりだし俺の場合は会うこともままならないのだから、でも兄貴が言っていた欠陥品は、正しいと思う、だって兄貴はいつだって正しいことしか言わないのだから
俺が花吐き病になった時期は分からないが最初に花を吐いたのは間違いなくあの雪の日、あの人に捨てられた後だ、時期は分からなくても理由は分かる、俺がまだ一年生だった頃一年生はまだ他の学年よりはやく下校していて兄貴がいないから一人で帰っていた、そしたらお姉さんが花を吐いているところを見てしまったんだ
「大丈夫?」
「ん?あぁ大丈夫よ」
「綺麗、この花、触ってもいい?」
「ダメ!」
「もう触っちゃった」
「あぁどうしよう」
「何ともないし、大丈夫だよ!」
「うーんでも……」
「じゃ、ばいばいお姉さん」
きっかけはこれだと思う、でもこの時は花吐き病を知らなかったし体に異常もなかったから大丈夫だと思ったんだ。あ、勘違いしないで欲しい、俺は、ちょっと苦しいけど、花吐き病にかかったことを後悔していない、だって俺はあの人になら命を捧げられると証明出来るから、実際、六歳でサッカーを初めて今十六歳だから十年間別に好きでも無いサッカーを夢のために、いや、あの人を潰すために続けているのだから……さて、今日もまた俺は世界一になるために___まずはブルーロックでNO.1ストライカーであり続けるためにひたすら練習に打ち込むんだ
――――――――――――――――――――――――
「凛!」
「………」
「無視はないだろ!」
「うるせぇ黙れ」
「可愛げがないな、凛、年下だろ」
「ひとつしか変わらないだろ、しかもサッカーだったら俺の方が上だ」
「まぁそうだけどさぁ」
しつこく話かけてくるこいつは潔世一だ、コートの中では誰もが認めるエゴイストなのにサッカーが関わらなくなると人当たりがよくなるから意味がわからねぇ、たまに二重人格なんじゃないかと思う。
「なぁ凛」
「なんだよ」
「花吐き病って知ってる?」
「!?」
「どうかした?凛」
「いや、なんでもねぇ、なんで花吐き病なんだ」
「一時期話題になったけど実際花吐き病になってる人に会ったことないからさ」
いや、現在進行形で会っているんだけどな、まぁこいつは知るよしもないか、だって俺はブルーロックの奴らには隠して過ごしているから。
「凛?」
「なにボーとしてんだ?」
「うるせぇ、少し考え事してただけだ」
「そっか」
――――――――――――――――――――――――
「あーあーやぁ才能の原石ども、突然だがU20日本代表と戦ってもらうことになった、なお向こうは糸師冴を初招集した」
なんでだよ日本サッカーに興味ねぇんじゃねぇのかよ、今更なんだよ、クソが、いやもうこの際この状況を利用してやる。
「U20日本代表戦まで二週間だ気を引き締めるように、あと、トレーニングのやりすぎには気をつけろ、以上だ」
「ハァッハァ」
「おい凛!トレーニングのし過ぎは駄目だって言われたろ」
「うるせぇ黙れ、俺はあの人を超えなきゃなんだよ」
「でも!」
「お前に俺の何がわかるんだよ!?」
「はぁ、もう勝手にしろ」
『ポンッ』
「痛てぇな、なんだこれって水か、フンッぬりぃ」
あの人を超えなきゃいけない、認められなきゃ、あの人の人生をぐちゃぐちゃにしてやるもっともっと頑張らなきゃ努力しきゃ、もっともっともっと。
U20戦前日………
「U20戦はこれでいく糸師凛1トップの超攻撃型だ、ベンチはまだ決めていないから皆諦めないように、以上だ」
やったまずは試合に出れる、でもまだだ、点を決めなきゃ意味が無い、点を決められない奴はストライカーとは言わないんだ、まだまだもっともっと努力しなきゃトレーニングしなきゃ、成果を出さなきゃいけないんだ。
――――――――――――――――――――――――
「ケホッカハッゲホッ」
最近花を吐く頻度と量が増えた気がする。なんでだ?嗚呼、そうかU20戦が近づいてるからかそれとも_____いや、この事を考えるのは、やめよう。それにしても最近同じ花ばっかり吐くな、確かこの花は、オダマキだった気がする花言葉は、『愚か』『心配して震えている』だったような、、、ハハッやっぱり俺が吐く花は正しいな、だってたった一人の事に振り回されて愚かだと思うし、皆の前ではいつも強がっているけど、本当は、認めてもらえないんじゃないか、また捨てられるんじゃないかと思ったら心配して震える、でもそんなこと言ってられないからトレーニングで誤魔化すしかないんだ。
とりあえず今日はもう寝よう、俺が言えたことじゃねぇが体調管理は基本だ。
『おやすみなさい』その声は誰の耳に届くことなく天井にぶつかり消えていった。
――――――――――――――――――――――――――
もうすぐ試合が始まるようだ、俺はこの試合であの人に価値を認めさせなければならない、そのためにブルーロックに来たんだ。
――――――――――――――――――――――――――
ホイッスルの音が鳴り響き試合が始まった
くだらない実況、くだらない歓声、あぁ心底どうでもいい、俺が認められたいと思ったのは、褒められたいと思ったのは、これまでもこれからも一人だけだ。
――――――――――――――――――――――――
なんでついてくるんだ、やめろ一人にさせてくれ、あぁ何もかも気持ちわりぃ、ぐちゃぐちゃにしてやる。
「さっすが天才の弟!」
違ぇ俺は俺だ糸師冴の弟である前に糸師凛なんだ、糸師冴の弟はもう嫌だ!俺は破壊者、糸師凛なんだよ!
アディショナルタイム1分
兄貴と俺の1on1、兄貴の得意なステップを引き出す、あぁやっぱ兄貴はすげぇよ他の国に13歳で行っても自分のプレーを貫いてきたんだから、でも兄貴のプレーを一番見てきたから分かる、兄貴のプレースタイルが変わらないおかげで俺は兄貴に勝てる!
――――――――――――――――――――――――
は?
「潔世一のゴール!?そしてホイッスルがなったので試合終了です!」
なんで潔が?でも、もしかしたら兄ちゃんに勝ったから認めてもらえるかも。
「凛」
ねぇ兄ちゃん認めてくれた?俺、頑張ったよ?
「俺が見誤っていたよ、まだこの国は変われる」
「兄ちゃ」
「お前の本能を呼び起こし日本サッカー界を変えるのは”潔世一”あのエゴイストかもしれない」
は?なんでなんでなんで、ねぇ俺こんなに努力したんだよ、命を削りながらサッカーしたんだよ?…………あぁそういうことかいくら努力したって欠陥品は欠陥品のままってことなのか。
「うっ」
「凛?」
ダメだこんな所で花なんて吐いたら、今まで隠してきた意味がなくなっちまう。
「うっカハッ」
息が出来ない
「ケホッ」
「……は?花?おいなんだこれ、凛」
あーあ一枚落ちちゃった、せっかく我慢したのに、もう全部出しちゃお、どうせ一緒だろ
「ケホッカハッ」
あー、色とりどりな花がコートに舞い落ちていく、この花たちは確か、黄色いチューリップ、マリーゴールド、紫のヒヤシンス、紫のバーベナ、スカビオサ、黄色い水仙、花言葉は………『望みのない恋』『嫉妬』『絶望』『悲しみ』『悲哀』『初恋のひたむきさ』『後悔』『不幸な愛』『私はすべてを失った』『もう一度愛してほしい』『私のもとへ帰って』『愛に答えて』俺がこの花言葉を思い浮かべているのと同時に同じことを言っている人がいた、そう糸師冴だ、サッカー一筋の兄貴が意外にも花に詳しかったらしい、、
あ、これ想いがバレたんじゃねぇか?終わった、いやでも兄貴が花吐き病を知らなかったらセーフだ。
「お前、花吐き病なのか?」
アウト、ばっかり知ってた、しかもほぼ確信しているし。
「誰か好きな人がいるのか?」
あ、まだ誰かは気づいてないらしい、よかった。それにしても相手側からしたら便利な花弁だな
「誰なんだ?」
あぁ、兄貴は大分鈍感らしい、サッカーのことだったら誰よりも鋭いのに、残念、まぁ助かったけど
「なんでもねぇよクソ兄貴」
「じー」
「チッ、凝視すんな」
あー花吐きすぎて疲れた、しかも試合後だしな、やべぇ意識が
『バタンッ』
「やっぱり倒れた」
「おいクソ眼鏡、愚弟つれてく」
なんか目が覚めたら見知らぬ部屋にいたんだけど
『コンコン』
「ん、」
「目が覚めたか、愚弟」
「_____」
「おいなんか言ったらどうだ」
「チッ、クソ兄貴ここどこだよ」
「医務室」
「は?」
「なんで」
「お前が、倒れたからで分かるか、愚弟」
「チッ」
「助けてやったのになんだその態度は」
「頼んでねぇ」
「可愛げのねぇ奴」
「うるせぇ」
「ところで花吐き病の薬はこれか?」
「あ!返せクソ兄貴!」
「分かったから暴れるな」
「何錠だ?」
「__3」
「これって1錠じゃねぇのか?」
「効かねぇから」
「お前いつから花吐き病患ってんだ?」
「……………」
「おい、答えろ」
「___っ」
「愚弟」
「じ____ご」
「あ?聞こえねぇ」
「15!」
「一年前か」
「で、相手は、誰だ?」
「_____」
「愚弟」
「____」
「凛」
「言うわけないだろ」
「そうかよ、まぁ今はいい、もう少し居てやるから寝ろ」
「頼んでねぇって」
「じゃ居なくなっていいのか?」
「いい」
「____っ!?」
「カハッケホッ」
「あ?お前また花吐いたのか?めんどくさせぇ、確かこの花はシラーだったよな?花言葉は、寂しいだったか?凛」
「____違う」
「お前より花のほうがよっぽど素直だな」
「違うって言ってんだろ!」
「じゃあこの花は?」
「黙れ!」
「ムキになんなって」
「うるせぇ、クソ兄貴!」
「とりあえず寝ろ」
「チッ」
「おやすみ、凛」
「ん、」
やっぱり弟は、兄には敵わないらしい。
冴視点…
俺の弟は、花吐き病だったらしい…………は?知らなかったんだが、相手は誰かを聞いても答える気はないみたいだ、クソが、凛と関わりがある奴なんて俺には分からねぇ、中学の同級生か?それともブルーロックの奴らか?この際誰でもいいか、絶対渡さねぇし。
さて、凛が寝ている間に面倒事は片付けておくか。
「冴選手!凛選手が花吐き病とは本当ですか!」
「今どちらにいらっしゃいますか!?」
「答えてください!」
あーうるせぇしうぜぇ、パパラッチだな、面白おかしく記事を書いてやろうっていう気がまる分かりなんだよ、クソが。
「凛選手の想い人は誰ですか!」
「黙れ、これ以上しつこくしたら、社会的に終わらせるぞ」
「わかったなら散れ、今後絡んでくんな」
よし、まず一つ面倒事が片付いたな。
「おいクソ眼鏡、愚弟をしばらくの間預かってもいいか」
「あぁ、好きにしてくれて構わない」
あいつの目が覚めたら、連れて帰ろうと思う許可も取ったことだし、本人には許可取ってねぇけど、まぁ文句言いながらついてくるだろ。
凛視点…
「おい凛」
「あ?」
「帰るぞ」
「は?どこにだよ?」
「俺ん家」
「…………は?」
「ちょっとまて、どういうことだ?」
「あ?分かんねぇならいい、黙ってついてこい」
「意味わかんねぇし」
「だからそれでいいって言ってんだろ」
「チッ」
こういう時の兄貴は意地でも折れないのを俺は知っている、はぁ、諦めるか。
「行くぞ」
「ん、」
………………………………気まず
いやまじでここ30分会話がねぇ、本当に一言も話してねぇんだけど、さっきは混乱してから気まずさとか忘れて普通に話せてたけど、そもそも俺ら和解してねぇし、どうすんだよマジで。
「あの!冴選手ですか?」
「あ?」
「誰だ?お前」
「私ファンなんです!」
「あぁ」
ふー、助かった、誰かは、分からねぇけど、兄貴のファンらしい、マジで気まずかったからよかった。
「_____!」
「___?」
「____♡」
「___」
「____✨」
…………長くね?いつも兄貴、ファンとの会話なんて秒で終わらせるか、泣かせて終わりだったのに、スペインに行って変わったのか?いや、でもU20戦のインタビューは、素っ気なかったよな?………
「おい」
「____」
「__★」
「おい、クソ兄貴」
「____」
「_____♪」
無視かよクソが、確かに和解してねぇけど、俺より、サッカーも出来ねぇそこら辺の女の方がいいのかよ。
「ケホッゲホッ」
「え、花!?なんで!」
「あ、すまん忘れてくれ、おい愚弟」
「なんだよ、クソ兄貴」
「外で花は吐くな」
「んなこと言ったって、どうしようもねぇし」
「チッ、もういい、」
「なんなんだよ」
「で、なんの花を吐いたんだ?」
「別にどうでもいいだろ」
「どうでもいいなら見せろ」
「はあ?チッ」
あ、そういえば俺もまだ見てねぇわ、なんの花だ?ガマズミか、花言葉は、_____!?絶対兄貴には見せねぇ。
「?、なんでそんなに必死に隠してんだ?」
「なんでもねぇよ」
「なんでねぇなら見てもいいよな?」
「だめだ、絶対見んな」
「はぁ」
「おいクソ兄貴!無理矢理見ようとすんな」
「じゃあ見せろ」
「無理」
「あっそ、じゃあ勝手に見るな」
「あ!」
「えーと、あ?お前、ガマズミを吐いたのか、確か花言葉は、『私を無視しないでください』だったよな?」
「黙れ」
「フッガキが、無視されたぐらいで拗ねてんじゃねぇよ」
「拗ねてねぇ!」
前言撤回、全然便利じゃねぇ!マジで最悪だなんでよりによって兄貴に知られなきゃなんねぇんだよ、クソが!
「ま、確かに無視して悪かった、さっさと帰るぞ」
「!?」
あの兄貴が、謝ったんだけど!?俺様何様糸師冴様なあの人が?ありえんの?!あ、でも小さい頃は俺には謝ってくれてたような、………でも今もなんだなと少し感心してしまうくらいには、兄貴が謝るのは、珍しいことだった。
それから家に帰るまでは、もともと口数が少ないのもあり、言葉を発することは、ほぼ無かったが、さっきまでの気まずさは、無くなっていた____あ!勘違いしないで欲しいが二人共、和解した気はなく、目が合う度凛は冴を人でも殺したのかと思う程、鋭い目付きで睨みつけているし冴も幼い頃の様な優しい瞳ではなく、まるで興味が無いような瞳であることに変わりはない。
「ただいま」
「お邪魔します」
「なんでお邪魔しますなんだよ」
「え、だってここ兄貴の家じゃ、、、」
「は?」
「え?」
「今日からお前もここに住むんだよ」
「え!?」
「どういうことだよ、聞いてねぇよ!」
「そりゃ、言ってねぇし」
「なんでいつも兄貴は勝手に」
「あ?自己管理も出来ねぇ奴に言われたくねぇよ」
正論すぎてぐうの音もでない
「そもそも一緒に住むからといって、特に困ることねぇだろ」
「意味わかんねぇよ!」
「だから何回も言ってんだろ、理解しろよめんどくせぇな」
「__っ、あ?」
「なんか文句あんのか?愚弟」
「だから!」
「チッ、うるせぇ」
「!?もういい!兄貴なんて知らねぇ!」
『バタンッ』
兄貴にうるさいとかめんどくさいとか言われた……俺は八つ当たり気味に扉を閉めて家を飛び出した。
――――――――――――――――――――――――
今俺が居るのは海だ、鎌倉の海とは似ても似つかないけど、やっぱり綺麗だと思う。海を見るといつも兄貴と海を見ていた頃を思い出す。捨てたはずの記憶なのにな、いつまでも過去に縋ってしまうのは、俺が弱いせいなのだろうか?きっとそうなのだろう
しばらくすると、空がオレンジ色になってきた、少し肌寒いから帰りたいのだが、また兄貴にうるさいとかめんどくさいとか、言われたら多分次は、耐えられないから帰りたくないとも思う、どうするべきか___
『コツコツ』
後ろの方から足音がする、人だろうか?
『コツコツ』
感覚的に俺の真後ろで止まった、恐る恐る振り返るとそこには_____
「あ、にき?」
「やっと見つけた」
振り返るとそこには額に薄っすらと汗を浮かべていて、息が荒くなっている兄貴がいた、兄貴はいつも、試合でも汗一つかかずに涼しい顔をしているから、こういった姿はとても新鮮だ
こうしている間にも兄貴は、未だ驚きで、振り向いた姿勢から指一本動かせていない俺の手首を掴み、立ち上がらせて、来た道を戻っている
「離せよっ!クソ兄貴!」
「凛」
「……………」
兄貴は、子供叱るように、それでいて真っ直ぐと目を見て、たった一言、俺の名前を呼ぶ、それだけで、何も言葉が出てこなくなってしまう自分が憎くて嫌いなのに、幼い頃、俺がやらかした時の叱りかたと変わってなくて安心してしまっている自分もいる。あぁうざってぇ
――――――――――――――――――――――――――
それからというもの、俺の必死の抵抗も兄貴の前では、なんの意味にもならないようで、そのまま家まで引きずる勢いで手首を引っ張られながら帰宅した。____そういえば風呂に入るとき手首が、赤くなっていたような____
――――――――――――――――――――――――
あれから1週間が経った、最初こそ緊張していたものの1週間も経てば慣れてくる…………が、少し、いや俺にとっては大分、問題なことがある、そう、なぜか一緒に住んでいるはずなのに、ほぼ会話が無いのだ、ていうか顔を合わせることもままならない、なぜなら、俺も兄貴も帰ってきてすぐに自室に引きこもるからだ。
別に生活する分には困らないのだが、なんというか…………うん、意味がわからないのだ、だっていきなり一緒に住むことになったと思ったら会話の一つもないなんて理解しかねる。
別にいいのだけれど、少し、うん、ほんの少しだけ、寂しいかもなんて…………思ったりもするのだが、和解していないので、まぁ、当たり前だ、では何故同居することになったのだろうか?まぁ、いくら考えても分からないもんは、分からないので思考を放棄する。
結局今日も俺は、すっきりしないまま、ひたすらサッカーをするしかないのだ、そう全ては、兄ちゃんに認めてもらうため__いや、クソ兄貴のことをぐちゃぐちゃに壊してやるためだ
オーバーワークだと自覚してはいるし、正直何度か倒れかけた、まぁクソ兄貴に貶されるのが目に見えているので実際には、倒れないのだが、そんな日々が数年続き………俺、糸師 凛は、W杯の日本代表に招集されたのだが、そこには、当然クソ兄貴もいる、夢なんて生ぬりぃもんじゃねぇが、世間一般的に言えば夢なのだろう、だから兄貴がいるとかいう、ぬりぃ理由で夢を諦める気は、さらさらないので、心身共に無茶をすることになるが、W杯招集は、素直に応じた。そんなこんなで和解もせず、気まずい雰囲気のまま、何故か兄貴と一緒に強化合宿に向かうことになった。兄貴曰く『同じ時間に同じ場所へ行くのに別々で行く意味がわからねぇし、行き方同じなんだから途中で会うだろ』だそうだ。確かに兄貴の言ってることが正しいがそれでも、あんな大喧嘩しといて、よく言えるよなと思ってしまった。まぁ、いくらこちらがそんなことをぐだぐだ考えていたって兄貴が話題をふってくれる訳ではないし、こちらから話を切り出すことも出来ないまま、日本代表強化合宿をする場所についたのだが、やたら周りの奴らがこちらをチラチラ見てくる、うぜぇ
『凛!』
『あ?』
『お前あの後、冴に連れてかれてただろ?』
『ん?あぁ、で、なんだ?』
『なんだじゃねぇよ!あれから二年間どこ行ってたんだよ!』
『そんなことかよ、くだらねぇ』
『お前なぁ!今まで一緒に戦ってきた仲間がいきなり行方不明になったら気になるだろ!』
『ぬりぃな、お前に関係ねぇだろ』
『はぁ、そんなひねくれてるから世界を巻き込んだ兄弟喧嘩になるんだよ』
『あ?どういう事だよ』
『だから___』
潔が言葉を続けようとしたと同時に日本代表を引率するのであろう監督らしき人とサッカー界でのお偉いさんたちがぞろぞろと目の前を通って行った。さっきまであんなに騒がしかった潔でさえもまるで口が開かなくなってしまったかのように大人しくなった。
それから少し経って、一人また一人と自分の席に着席していく、監督が説明を始めるが何故か糸師冴の隣だけが空いていて誰かが座ろうとすると鋭い目付きで睨みつけているので、仕方なく隣に座る、以外にも兄貴は、睨みつけて来なかった、何だったんだ?そんな事を考えている間にも監督たちのぶっちゃけどうでもいい、クソみたいな説明は途切れることなく続けられているのだが。そしてこの説明をどうでもいいと思っていそうな人がもう一人いた、そう、俺と血の繋がりのある、兄弟の糸師冴だ、こんな所でまさか血の繋がりを感じるとは、思わなかった。ゴミ説明を適当に聞き流していると凛と同じティファニーブルーと目が合った、そしてそのティファニーブルーの持ち主は一度瞬きをして、少し口角を上げた、俺だけに分かるくらいほんの僅かにそんな兄貴の奇行に俺が固まっているといつの間にか説明が終わっていたらしく、皆が席を立つ音で俺も現実に引き戻される。前を見ると、モニターに部屋割りが表示されていた、今回は、二人一部屋らしい、たまたまなのか分からないが、潔とおかっぱ、御影と凪など仲が良い人達で組まれていたが、俺はと言うと………糸師凛、糸師冴としっかり表示されていた。まぁ、いつも通りなのだが、周りは、そんな事知る由もないので皆がモニターを見るのと同時に騒がしくなっていく、
『おい凛!冴と一緒で大丈夫なのかよ』
『そうそう♪凛ちゃん♬大丈夫?』
『あ?問題ねぇよ』
今、話しかけてきたのは、隣の部屋の潔とおかっぱだ__別に問題ないのにうぜぇ__
『おい凛、行くぞ』
『あ!待てよ、クソ兄貴!』
糸師冴、すなわち兄貴は、振り返ることなく俺の前を歩いて行く、まるで着いてくると確信しているかのように、その自信へし折ってやりたい___けど、目的地が同じなので大人しくついて行くことにした__が、やっぱりムカつくので足早に近ずいて、半歩後ろで止まり、日本の至宝とも名高いパスを繰り出す、左足を軽く蹴ってやった。もちろん、その足の持ち主からの反応は無い。
部屋につき、荷物を置くと、ある一つのアナウンスが流れた。内容は、糸師凛、ミーティングルームに来いというものだった………もう夜なのだから、明日にしてほしい___
「お前、合宿初日にやらかしたのか」
「ちっげぇよ!クソ兄貴!」
「どうだか」
やっぱり兄貴は失礼な奴だと思う………でも兄貴は、世界一優しいということを俺は、知っている。いや違うな、俺だけが知っている秘密だ。そんな睨まれ口を叩いている時間もなく俺は、ミーティングルームへ向かった
『コンコン』
「入れ」
「何の用だ」
「お前は、花吐き病だよな?」
「あぁ」
「出来れば早めに治してくれないか?」
「は?無理だ一生治ることは無い」
「大丈夫だ我々も協力する」
「余計な事すんな、クソが」
「じゃあ、せめて相手だけでも教えてくれないか?」
「___」
凛は、しばらく黙りこくった後、決心したように口を開いた。
「世界一優しくて、かっこよくて、そして俺が世界で一番大好きな人だ」
凛以外の人達は、現状を呑み込めなくマヌケずらをしている、それもそのはずだ、だって糸師凛の口からこんなにも甘い言葉が出ると思わなかったのだ。しかも相手がまだ分からない……
「えーと?つまり相手は、誰なのかな?」
「言うかよ、自分で探せ」
そう言い捨てた後、凛は、監督たちに背を向けて、ミーティングルームをあとにした。
部屋に入ろうと、扉を開けると、自分とよく似た、ティファニーブルーの瞳の持ち主の顔が目の前に有ってビビった。
「で?何言われたんだ?」
「!」
兄貴が話しかけてくると思わなかったので、これまた驚いてしまった____俺、早死にしないかな?
否、普段、驚いたりしないのでここで調節されているだけで、早死にはしないのだが、パニック状態の頭じゃ到底、理解出来ない。
「…………………」
しばらく経ってから、凛は、
「_別に」
とだけ呟いた。
しばらく兄貴は、こちらを疑うような目でじっと見つめていたが、凛が、口を割る気が無いと判断したのだろう、ターコイズブルーの瞳を凛から、鞄の中へと向けた_____と思ったのだが、兄貴は、もう一度こちらに目線を寄越して___
「凛、来い」
「?」
なんなんだ、意味わかんねぇ、いきなり来いなんて、さっきから兄貴に振り回されてばかりだ、クソが、ムカつく_____けど、昔からの癖で勝手に体が兄貴の方へ引き寄せられて行く___
「なんだよ、クソ兄貴」
兄貴のベットの横でピタリと止まる
「____」
反応がねぇ、兄貴が呼んだんだろ__とは、言えず、俺も、無言で立ち尽くす………が、兄貴は、違うようだ、さっきから兄貴の隣を、ぽんぽんと叩いている。ん?兄貴の隣を叩いている?は?どういうことだ??
「チッ、なんだよっ」
「ん、」
ん、じゃねぇよ、ん、じゃ、どうしろっていうんだよ。
「はぁ」
隣から聞こえた溜め息、いやこっちが溜め息つきてぇよ。
「凛、おいで」
あれ?いつもと口調が違う?なんか、懐かしいような…………あ!
「兄ちゃん!」
あ?幼い頃の俺?
「凛、おいで」
あ!さっきの言葉………兄貴の隣を叩く兄貴………そして、兄貴の隣に座る幼い頃の俺………!?これ、昔の記憶じゃねぇか!?え?てことは、兄貴はこの事を覚えてて、同じ事を今の俺にやらせようとしてるのか!?いやいや、今の俺たちじゃ関係が違うし、そもそもこの歳だ、わざわざ体をぴったりくっつけて座るとか無理だろ!!
パニック状態の凛とは、反対に冴は、過去の記憶を思い出して顔を真っ赤にしている凛を見て、笑う_事は断じてないが、微笑む__にも達してないが、少し、ほんの少しだけ口角を上げていた。
そして、仕上げにもう一度___
「凛、おいで」
「う、ん」
そうされてしまえばもう、弟である凛は頷くしか出来ないのだ。
「座れ、」
「兄ちゃん!?無理だよ!?」
もう凛は、パニックで呼び方が戻ってる事にも気づかないようだ。尚も冴は、目を逸らすこと無く見つめてくる。
「こっち見んな!」
「凛」
「___っ///」
耐えきれなくなった凛は、少し間を空けて申し訳程度に軽く座る___そう、軽く座った筈なのだが、いつの間にか冴の腕に引き寄せられていた__
「兄ちゃん!?なにすんだよ!?」
肩と肩がぴったりくっついてしまう程の距離__
「凛」
このまま話すのかよ!
「なぁ、凛、お前あいつらと何を話したんだ?」
「あいつらって誰?」
「監督だよ」
なんか兄ちゃんが怖い___
「なんか花吐き病を治したいって」
「ふーん」
「凛、花吐き病は、治せそうか?」
凛は、力無くふるふると首を横に振る
「そうか、じゃ、もう寝るぞ」
兄貴は、意外にも相手が誰かを聞いてくることは無かった___当たり前か、兄貴は、俺に興味なんてないし。
そっと、凛が冴のベットから降りようとすると、手首を掴まれて、兄貴のベットの中へと引き寄せられる。
「!?」
「兄ちゃん!?」
「うるせぇな、昔と変わんないだろ」
「いや___」
「おやすみ、凛」
半ば強引に兄貴は、眠りについてしまった__少し躊躇ったが俺も兄貴の腕の中で眠りにつくことにした。
「_っ!」
「なんだよ、うっせー」
朝起きたら、目の前に兄貴の顔があって動揺してしまったが、そういえば兄貴と一緒に寝たんだった、あの時の俺、何してんだよ!
「おい凛、さっさと準備しろ、今日から練習あんだろ」
「今から準備すんだよ!」
「ほら行くぞ」
「あ!待てよ!」
「はいはい」
「日本代表メンバーおはよう、強化合宿2日目にして初めての練習だ」
「______________________」
話長ぇ、W杯優勝が目的じゃねぇのかよ、だったらさっさと練習させろよ。
「では、A、B、Cチームに別れて練習するように」
意外にも、日本代表メンバーの中でもランクがあるらしい、ちなみに俺は、Aチームだった、Aチームには、潔や、もちろん兄貴もいるまずは、このチームで一番のストライカーになって、W杯に出場してやる!
―――――――――――――――――――――
「凛!」
「_潔」
俺は練習するペアを潔と組んだ、兄貴と組むにはまだ俺のレベルが低すぎる気がしたからだ、そのせいで冴に疑われているとは知らずに___
練習が終わって、挨拶も無しに部屋に戻った。しばらくすると兄貴も部屋へ帰って来た、そして____こちらを疑うような眼差しで見つめている、俺は、よく分からなくて兄貴を見ていたが、だんだん耐えられなくなって目を逸らした。 やっと兄貴が口を開いたと思えば、俺にとっては、かなり衝撃的な言葉を発したのだった。
「お前、潔 世一が好きなのか?」
頭を殴られたような衝撃だった、それと同時に理解した、兄貴の俺を疑うような目の真意を__
「___違う」
「じゃあ、誰なんだよ」
「………………」
俺は答えなかった、俺たちはこの言葉足らずな性格のせいで、すれ違っていることは、分かっている、でもこれだけは伝えるわけにいかないのだ、これは俺が墓場まで持っていかなきゃならないんだ。
「答えられねぇんだろ、やっぱり潔 世一が好きなのか」
「違う!」
「嘘」
「嘘じゃねぇ」
「嘘をつくな、潔 世一が好きなんだろ?」
「ちげぇつってんだろ!」
「カハッゲホッ」
「凛?」
___ハラハラ、と色々な色が凛の手の平からこぼれ落ちていく___
「リナリア」
ボソッと凛が呟いた
「『乱れる乙女心』『この恋に気づいて』」
凛の隣で誰かが呟いた___凛は、確認しなくても誰が呟いたか分かった、だってこの部屋には今、二人しかいない、でも何人いても、凛は、その声の持ち主に気づけたと思う___なぜならこの人は、こんなにも憎くて、恨めしくて、許せないはずなのに、俺の憧れで、俺の全てで、俺の世界一優しくて、かっこいい兄なんだから____
「凛は、潔 世一が好きなんじゃないのかよ」
「だから、違うって………」
「じゃあ!なんで………」
いつもの兄貴らしくない、何かに縋るような声だった__けれど凛の理解力は、ゴミ以下だったので、兄の、冴の言っていることが分からなかった、いや、正確には言っている”意味”が分からなかった。ていうかそもそもなんで潔なんだ? 凛はそう思った………
「なんで潔なんだ?」
ていうかもう口から出ていた
「お前、練習の度に潔と組んでんだろ」
「ん?あぁ」
「俺とは組まねぇのに」
「………うん」
「………………」
「え?それだけ?」
「ん、」
「はぁ!?」
「なんだよ、うるせぇな」
「いやいや、え!?」
兄ちゃんそれだけで俺の好きな人が潔だと思ったの!?
「潔と練習組んだのは俺の実力がまだ兄ちゃんに及ばないと思ったから…………」
自分で言ったのだけれど情けなく感じてしまってだんだん声が小さくなってしまった__なんなら最後は、ほぼ聞こえなかったのではないか、
「は?」
いや、全然聞こえてた、それはもうばっちり
「だって___」
『バンッ!』
「!?」
「?」
「停電!?」
「そうみたいだな」
「日本代表メンバーたち聞こえるか?」
「あ、監督」
「今、施設内で停電が起きたみたいだ」
「幸いもう夜なので、練習などはないだろう、なので少し早いがもう寝てくれ」
「チッ」
少しムカついたが、あのまま質問責めに合うのは嫌だったので、ほんの少し停電に感謝した。
「凛」
まだ暗闇に慣れていない目がぼんやりと兄の姿を捉えた。
「なんだよ」
「おやすみ」
「チッ、」
今日はなんだか懐かしい日だった 凛はそう脳裏に浮かべながら眠りについた__
―――――――――――――――――――――
布が擦れる音で目が覚める、どうやら兄貴の方が早く起きたらしい
「はよ」
「チッ」
今日から1週間後にW杯予選だ、日本対ドイツの試合、普段潔のいる国だ、まずはここから潰す。
「寝ぼけてんのか?」
「なわけねぇだろ、」
「だったらさっさと準備しろ」
「分かってる💢」
兄貴はサッカーだけじゃなく、人を怒らせる才能もあるみたいだ__ いらねぇ才能だな
ーーーーーーーーーーーーーーーー―――――
練習の最後にミニゲームをやった、ミニゲーム終盤、兄貴のマイボール、潔と同時に兄貴を呼んだ、俺は完璧な位置にいた、潔よりDFも少なかったはずだ、なのに兄貴の左脚から放たれる美しい放射線は俺の頭上を通り、潔の右脚へと繰り出された、もう分かった、本当に兄貴は俺に関心が無くなってしまったのかもしれない、ほら言うだろ、好きの対義語は無関心と、兄貴は俺と違い、俺を避ける訳でもなく、気まずそうにする訳でもない、だからと言って話しかけて来る訳でもない、ほら”無関心”だろ、まるで、いない存在として扱われてるみたいだ。でもさ兄ちゃん、俺、頑張ったから、もっと頑張るから、これ以上何も望まないから、柔らかい瞳で、優しい声で昔みたいに名前を呼んでほしかったなぁ__
――――――――――――――――――――――――――
あの後俺は、必要な物だけ持って足早に部屋に戻った、そのままベッドに倒れ込んで__?それからの記憶が無い、寝た?だったらいつ兄貴は帰ってきた?分からないことが多すぎる、とりあえず今、何時だ?_____20時__20時!?は?俺寝過ぎだろ!え?てか兄貴は?どこにいんの?あ、バスルームから水の音がする、たぶん兄貴はそこにいる_どうしよう、練習終わってすぐ倒れ込んだから、呆れられちゃったかな、ぬるいって思われたかな、あぁ、胸が体が心が痛い……
『ガチャ』
「ヒュッ」
「凛、目覚めたか」
「ごめん」
「全くだプロなんだから体調管理ぐらい徹底させろ」
「それから________」
「____っ」
「おい、聞いてんのか」
やめて、聞きたくない、聞きたくないよそんなこと、俺がだめなことは俺がいちばん分かってる、だからもうやめてよ、苦しいんだ、後どのくらい頑張れば、認めてくれるの、褒めてくれるの、どこまでいけば俺は欠陥品じゃなくなるの、お願い兄ちゃん、もう一度俺を見て___俺に存在価値を与えて__
――――――――――――――――――――――――――
それから1週間、俺は兄貴とろくに会話をしていない、今日がW杯予選だというのに、でも怖いんだ、兄貴の目が表情が反応が、またあの冷たい目で見られると思うと兄貴の顔を見ることも出来ない、幸いサッカーにおいて異常は無い、だから俺は今やるべき事をする、俺の存在価値を示すために俺は俺の人生を賭けて戦場(フィールド)に立つ
――――――――――――――――――――――――――
W杯予選___スコア
3ー1
Rin ㅤㅤㅤㅤㅤㅤKaiser
Isg
Rin
日本対ドイツ
俺らは無事W杯予選を終えた__
けれど俺が取った2点のうち、兄貴が俺にパスを出した回数は0回だった………潔にはパスしたのに………
――――――――――――――――――――――――――
なんでなんで、なんでよ、兄ちゃん、俺は試合中、何回も兄貴を呼んだ、でも兄貴は俺にパスを出すどころか、こっちを見ることすらも無かった、俺、何のためにサッカーしてんだろう、兄貴に存在価値を示すため?兄貴に認めてもらうため?
『二度と俺を理由にサッカーすんじゃねえよ』
結局俺は、兄貴を理由にサッカーしてんじゃねぇか、そもそも俺は、サッカーを始めた理由が兄貴だし、別にサッカーが嫌いな訳じゃない、サッカーが好きかと聞かれれば胸を張って好きだと言える、けどそれは兄貴との最後の繋がりで兄貴に認められるための手段だからなのであって別にサッカーである必要はない、それが俺のぬるいところなのかもしれないな___
――――――――――――――――――――――――――
結局気分が晴れないまま、俺は部屋にもどった、当然そこには兄貴が居る、なんとなく、申し訳なく感じてしまった、でもあながち間違ってないと思う、普通、いや少なくとも俺なら嫌ってる奴と同じ部屋なんて耐えられない、それなのに兄貴は優しいから、一緒に過ごしてれてるのかもしれない、いや、きっとそうなのだろう、兄貴に気を使わせてしまっているという事実(凛の中の)が俺に重くのしかかる。 否、実際冴は迷惑など微塵も思っていないのだが、凛は自己肯定感が低いため気づけないのである。
――――――――――――――――――――――――――
冴が同じ空間に居るのはW杯予選後のメンタルでは凛は辛かったが超がつくぼどのストイックな凛は、今日も今日とて日課のトレーニングをこなして早々に眠るのであった__
――――――――――――――――――――――――――
明日、W杯2回戦目、対戦国、『イングランド』、そこでまた糸師兄弟に波乱が起きるのだった___
――――――――――――――――――――――――――
俺たちは今日、イングランドと対戦する、W杯は計5回戦、そのうちの2試合目だ、不安はあるが、緊張はしない、兄貴に認められればそれでいいのだ、周りがどうこう考えるから緊張するだけだ、だから俺には関係ない__はずだ。
――――――――――――――――――――――――――
『ピー』
試合開始のホイッスルが鳴った
緑の芝生をスパイクで踏み締め、駆ける
こちら側がボールを奪う、相手チームも当たり前だが必死になってボールを奪いかえしにくる。そんな激しい攻防が続く中、俺は静かに、気配を消して、相手の隙を狙っていた___
そして前半終了間際、一気に駆け出した 誰も俺に気づいておらず、GKとの1対1の場面、俺は、パスを呼ぶ
「兄貴!」
針に糸を通す様なパスが持ち主の左脚から俺の右脚に繰り出される、そして___
『パシュッ』
「 ゴール! 」
「冴選手から凛選手へのパス、そして凛選手決めたー!」
『ピー』
「同時に前半終了ー!」
俺がゴールを決めた後、実況がなんか言ってたが、俺はそれどころじゃなかった、兄貴が、兄ちゃんが、俺にパスを出してくれた!嬉しい嬉しい、俺の頭はそんなことでいっぱいだった__
――――――――――――――――――――――――――
休憩中__
「なぁ、兄貴」
「なんだ、」
「なんで俺にパス出したの?」
「お前がたまたまそこに居たから、別に凛に出した訳じゃない」
「え?」
俺の中でなにかが崩れ落ちた気がした__
嗚呼、なんて惨めなんだろう、あんなに舞い上がってた自分が馬鹿みたいだ、そう、冴は糸師凛にパスを出した訳じゃないのだ、たまたまそこに居たからなのであって、もしそこに潔が居たら潔にパスを出してただろう、そうだ、なにを勘違いしていたんだろう、俺の代わりなどいくらでも居るのだ、もちろん兄貴だって使えない欠陥品より、使える完全品のほうがいいに決まってる、____俺はサッカーをしていないと価値が無くて、でも、サッカーをしていても欠陥品で、____もうどうしたらいいのか、分からないや___ねぇ、兄ちゃんなんで俺を愛したの?最初から愛なんて知らなければ、こんな苦しい思いをしなくて済んだのに、諦めることが出来たのに__ こんなこと願っても、もう手遅れかも知れないけどさ、お願い兄ちゃん、もう一度、俺を愛してよ___
――――――――――――――――――――――――――
後半戦__
兄貴に言われた言葉が、頭から離れなくて、あまり試合に集中出来なかった__自分で兄貴に聞いたのに、そのせいで集中出来ないなんて本末転倒だと頭では分かってはいるのだ、でもどうしても気になってしまう、兄貴は俺のことどう思ってるんだろう、なんで会話してくれるんだろう、そんなことをぐるぐると考えていたら、いつの間にか誰かからのパスが回ってきた、頭はぐちゃぐちゃだが、今まで血反吐を吐いて練習してきたのだ、体はしっかりと己のプレーを覚えていた、___意識が戻ってきた頃にはもう俺はシュートホームに入っていて、そのままシュートを打っていた、凛の放ったシュートは美しい軌道でゴールへと吸い込まれていった__
「凛!すげぇな!」
「あ?近寄んなクソ潔」
「え!なんでそんな、怒ってんの?俺なんかした!?」
「チッ、うるせぇ、なんでこんな奴が完全品なんだ」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもねぇ、さっさとポジションに戻れ」
「はいはい」
_キックオフ_
イングランドからのキックオフで試合が再開される。俺のポジションはCFで兄貴はOMFだ俺がCFにいる以上求められるのは、シュートセンスとゴールへの貪欲さのはずだ、対してOMFに求められるのは、高い技術と冷静に周りを見れる観察眼、兄貴にピッタリだと思う。大体兄貴は、中盤に居るから人が密集してる、だから俺は気配を消して最前線に飛び出す。そして『パシュッ』兄貴からのパスを貰ってゴールに叩き込む。
それから試合は着実に進み、4対2で日本が勝利した。チームメンバーは、俺たち兄弟を除いて喜びを分かち合ってた。
その後俺は、ミーティングもそこそこに部屋に戻って、シャワーを浴びて、すぐに寝た、もう今日は疲れたのだ__
――――――――――――――――――――――――――
肌をつんざくような寒さ、雪の降るグラウンド、そしてやつれた兄の顔、間違いない、”あの日”の夢だ__嗚呼、また否定される、捨てられる、やめてくれ、もう今日は耐えれそうにないんだ、否定しないでくれ___
「なんだよ、それ勝手に決めんなよ!」
あれ?いつもの暴言じゃない、俺の声? なんだ?口が勝手に_
「一緒に戦おうって言ったじゃん」
あの日の俺のセリフと、同じ言葉_
「だから俺が、ミッドフィールダー、お前がストライカーとして、世界一に_」
あ、やっぱり俺たちの夢は否定されるのかな
「嫌だよそんなの!俺は、世界一のストライカーの弟だ!」
なんで夢、諦めちゃったの?兄ちゃん
「そんなかっこ悪いこと言うために帰ってきたのかよ」
「俺が一緒に夢を見たのは、そんな兄ちゃんじゃない!」
俺が最後の言葉を放った瞬間、兄貴の顔に苦痛が浮かんだ__ あの時兄ちゃんこんな顔してたっけ?こんなに苦しそうだったの?
「そうだよ」
「!?」
声がした方を振り返れば、幼い姿をした俺が居た、ただその瞳は冷えきっていて、俺のことをゴミを見る目で見つめていた。
「お前が兄ちゃんを否定したんだ、傷つけたんだ」
「お前はストライカーとしての糸師冴だけじゃなくて、兄としての糸師冴も否定したんだ」
「それで否定されたくない?どの口が言ってんだよ」
あ、そうだった、たった二つ違いの兄に自分の理想を押し付けて、挙句の果てに否定した
「やっと気づいた?」
「兄ちゃんは13歳で知らない遠い国に行って、独り努力を重ねてきた」
「何度壁にぶつかっても、適材適所に阻まれても、”二人で世界一”だけは諦めないでいてくれた、サッカーを辞めないでくれた」
「でもね、兄ちゃんだって___」
そう、兄ちゃんだって天才サッカー少年である前にまだ10代の子供だったんだ、弱音も吐きそうになったと思う、でも、俺が無意識にそれをさせないようにしていた、兄ちゃんは優しいから、そんな俺のわがままにも応えてくれた。
「兄ちゃんはね、凛が大好きだから、凛に否定されて凄く傷ついたんだ、凛が兄ちゃんに傷つけられた以上に」
そんなことないとは言えない、俺の方が傷ついたなど言えるはずがない、だって俺は兄ちゃんが泣いてるところを見たことがない、離れている時はもちろん、幼少期ですら__だから俺は、兄ちゃんがいつ傷ついて、苦しんだか分からない、知らない、兄ちゃんはいつも強くてかっこよくて、憧れだった、そう思い込んでいた、それはもしかしたら俺の前だけだったかもしれないのに___
「お前が兄ちゃんを傷つけたのに、苦しめたのに、追い詰めたのに、なんでお前が被害者面してんの?」
それは___そうしないと生きて行けなかったから、兄ちゃんに言われた言葉に耐えられなくて、兄ちゃんに責任を押し付けて自分は悪くないって思わないと、壊れてしまいそうで、でも結局兄ちゃんを追い詰めてしまったんだからこんなの言い訳に過ぎないのだけど
「ねぇ、兄ちゃんの気持ちがわかった?」
「_っ、痛い程にわかったよ」
「でもさ、それでお前が花吐き病?」
「どういうことだよ」
「お前が兄ちゃんを想うことが許されると思ってんの?」
「ぁ、」
少年特有のソプラノが頭に響く__そうだ、俺に兄ちゃんを想う資格なんてないんだ、最初から分かってたじゃないか、兄ちゃんの前で花を吐くことが兄ちゃんにとってどんだけ迷惑で気持ち悪いか、仮にも兄弟なんだから気色悪いに決まってる、ごめんなさい兄ちゃん、こんな弟でごめんなさい
「そろそろ現実に戻らなきゃだよ、ばいばい糸師凛(欠陥品)」
――――――――――――――――――――――――
『バッ』
「ハァッハァッ、うっ」
最悪の目覚め、たぶん今までで一番
「ゲホッケホッ」
吐いちゃいけない、と思うのに、胃からせり上がってくる感覚は治まらなくて、呼吸ができなくなって、やっぱり吐いてしまう
『ひらひら』
できるだけ隣のベッドで寝てる兄に見えないように背を向けて、舞い落ちる花弁を受け止める、夢でわかったじゃないか、俺が兄ちゃんを想う資格なんてないって、でも花吐き病を治すことは俺にはできない、どうしたことか__あ!死ねばいい、いやでも俺は仮にもエースストライカーだ、いきなり死んだら周りに迷惑がかかる、だったらW杯が終わったら死のおう、そうだ、そうすればいいんだ、どうせ俺はもうすぐ花吐き病で死ぬし、なにより、糸師冴唯一の汚点が消えるんだから、きっと兄ちゃんも喜ぶ、大丈夫、怖くない、兄ちゃんの為だから、大丈夫、大丈夫、凛は自分に言い聞かすように何度も何度も繰り返した_
凛の吐いた花は___「タツナミソウ」 花言葉は___『私の命を捧げます』
――――――――――――――――――――――――――
今日はイタリアと戦う、昨日、騒がしい雰囲気だった日本代表も皆、緊張を見せていた、たった一人を除いては
「おい、緊張でミスすんなよ、凛」
「な!しねぇよ、クソ兄貴!」
そう、糸師冴だけは、緊張してる様子もなく淡々と自身のコンディションを整えていた。また、この兄弟のやり取りを見ていたチームメイト達の緊張が少しばかり和らいだようだった、これは冴の計画か、はたまた、ただの偶然か、真実は冴のみぞ知る、閑話休題
イタリアとの試合
ミスは許されない、てか、俺が許さない、 試合に集中する、出来なければ置いてかれる、兄貴に捨てられる、ただでさえコンディションが悪いのだ、いつも以上に気をはらなければならない。
――――――――――――――――――――――――
結果は2ー0
日本の勝利
勝った!あと2試合で日本はW杯優勝できる!夢が叶う!兄貴に、兄ちゃんにもう一度認めて貰えるかも知れない、もっともっと頑張らなきゃ____
――――――――――――――――――――――――
__翌日__
イタリア戦が終わった今日は、試合がない、だから今日は、W杯優勝のために各選手が練習に励む、それは俺も例外じゃない___はずだった
どうしてこんなことに
「おいお前、今日は練習休め」
「は?なんでだよ!」
兄貴が口を開いたと思ったら、これ、兄貴はもう俺なんかどうでもいいんじゃないの?だったらほっとけよ
「あ?最近お前、ろくに寝れてねぇだろ、それに誰が見てもわかるくらい痩せてんだ体調管理ぐらいしっかりしろ、プロの自覚をもて」
「なんで!俺が練習に居たら邪魔なの?だから練習してほしくないの?だったらそう言ってよ!」
「んなこと言ってねぇだろ」
なんで?俺は努力することも許されないの?俺は__兄ちゃんの隣に立ちたい一心で今までサッカーをして来たのに____
全部、無駄だったの?
ねぇ、お願い兄ちゃん、俺の全てを捧げるから、もう一度兄ちゃんの隣に立たせて__
「うっ」
やばい、吐き気が__落ち着け、とりあえず部屋に戻ろう、
「あ、おい!凛待て!」
俺は兄ちゃんに背を向けて走った、後ろから兄ちゃんの声が聞こえたが、そんなもの俺に気にしてる余裕はなくて、ただひたすら早く部屋につけと祈ることしか出来なかった___
――――――――――――――――――――――――
『バタンッ』
「はぁはぁ、」
「うっ、ケホッゲホッ」
最近よく花を吐く、本当にそろそろ死んでしまうのかもしれない、駄目だ、まだ夢を叶えてない、夢が叶ったら、もうどうなってもいいから___まだ死ぬことはできない
「はぁ、片付けめんどくせぇ」
「ナズナ_か久しぶりに見たな」
「花言葉は『私の全てをあなたに捧げます』ふっ、当たり前だ、俺が生まれたときからもう決まってることだ」
だから俺がどうなろうと俺は知ったこっちゃない、だからと言って、もうあの日からあの人も俺のことなんてどうでもいいだろうから俺を必要とする人はいない、だから本当にどうなってもいいんだ、兄ちゃんの夢が叶えば____
今日は部屋に引きこもることにした、幸い兄貴は追ってこなかったから好きなことをした、サッカーの練習がしたかったけど、兄ちゃんに駄目って言われたらやっぱり弟だからか、従うことしか出来なかった
───────────────────
そしてフランス戦_準決勝_俺の気分はあまりよくない、ただそれだけでプレーに影響がでてしまえば次こそ兄貴に呆れられかねないのでとりあえず落ち着かせることにしたのだが____
「リンリン〜まだメンタルコントロールもできないばぶちゃんなんでちゅか?♡」
「チッ黙れ、潰すぞ触覚害虫」
そうコイツ(士道)のせいで落ち着くに落ち着けないんだ、なんでコイツはいつも俺の邪魔ばっかりするんだ。
「おい悪魔くん、来い」
は?なんで兄貴にコイツなんかが呼ばれてるんだよ、邪魔されんのは嫌だけど、だからといって兄ちゃんに近づくことが許されると思うなよ。
「うっ、」
食道をせり上ってくる感覚、そろそろ俺、限界かな、死ぬのか俺、もってあと数ヶ月だろうけどW杯が終わるまでは生きたいなぁ__
「?リンリン〜、大丈夫でちゅか?」
「ゲホッゲホッ、あ?大丈b_」
「なわけねぇだろ、愚弟、ちょっとは休め」
あーあ、また兄ちゃんに迷惑かけちゃった、でももうすぐ試合が始まるんだ、だから休んでなんかいられない、当たり前だ俺はこのチームのエースストライカーなんだから、世界一のストライカーになるんだから__
――――――――――――――――――――――――――
試合開始____
みんなが一斉に駆け出した。潔が言うメタビジョン?とかなんとかを使って勝つとか監督は言ってたけど、別にメタビジョン?を使える選手は少なからずいる、日本代表だと潔はもちろん、兄貴や俺とか他にもいるのになぜ潔のメタビジョンが重宝されるのかって、たぶんそれ以外に潔が目立てるところがないからだ、フィジカルや技術、運何をとっても俺には劣ってる、なのになんであいつは兄貴に認められんだよ。
試合開始早々俺は苛立っていたが試合は試合だ、俺は敵からボールをカットして先制点を決めた。湧く歓声、盛り上がる観客席、喜ぶチームメイト、でも俺が、一番求めていた声が聞こえることは無かった___でも大丈夫まだ試合は始まったばかりだチャンスはある
そして千切、凪と点を決めていき前半が終わった。
ハーフタイムが終わり後半戦が始まる
潔は途中出場だ、なんでも決勝戦のための体力温存だそうだ、ぬりぃんだよ、プロのサッカー選手なら二試合連続でフル出場できるぐらいの体力つけろ、なんでこんなやつが完全品なのか、まぁいいこのW杯で俺が欠陥品なんかじゃないと証明するだけだ。
試合も終わりを迎えた頃、俺を囮にしてディフェンスを逃れ、フィールドを駆け抜けていた潔がペナルティエリアに侵入し、兄貴からのパスを受けてシュートを決めた。この得点が決定点となり、日本は決勝戦進出が決まった。
――――――――――――――――――――――――――
____俺は兄貴からパスをもらえなかった____
どうして?なんて数え切れないほど考えた。でも結局、考えつく答えは、俺が欠陥品の出来損ないだから、にしかならなくて、つくづく嫌になる。どうせ死まで秒読みなんだ、だったら最後ぐらい兄貴の役に立ちたい、兄貴の夢を叶えたい。そしたら、後悔はないって言えるかな?____
――――――――――――――――――――――――――
決勝戦、対戦国はスペインだ
普段、兄貴がサッカーをしてる国、そして兄貴を変えてしまった国。負けるわけにはいかない、日本がW杯で優勝して、俺が世界一のストライカーになって、俺の人生は幕を閉じる、そう決めたんだ、誰にも邪魔はさせない。
――――――――――――――――――――――――――
決勝戦当日__
みんな熱気に満ちていた、あの兄でさえ瞳の中に熱を宿していたように思う。
試合開始5分前、しっかりウォーミングアップを終え、準備万端だ。
笛の音が鳴り響く、試合開始だ。醜く壊せ、破壊衝動に身を委ねろ、誰よりも多く点を取れ、世界一のストライカーなら__
「W杯を制したのは、日本、日本です!日本悲願のW杯初優勝です!」
一瞬静まり返ったこの空間に聞こえた実況者の声、そしてそれに伴って響き渡る歓声、そのどれもが日本のW杯優勝を告げている。
嗚呼、勝ったんだ、やっと夢が叶ったんだ、あの頃の夢とは少し変わってしまったけど、それでも充分、俺にとっては大事な1ピースで、やっと潔世一を殺し、糸師冴を越えられたかもしれない瞬間、そしてやっと兄貴に俺の存在価値を示せた__
ねぇ、兄ちゃん、俺のサッカー(命)はどうだった?俺頑張ったよ、
兄貴にこう言ってやる___はずだったのに
次の瞬間、俺の頭は真っ白に染まって、視界は真っ黒になった。
だって、兄貴が潔に笑いかけて、潔を褒めていたんだ___
「よくやった、潔世一」
馬鹿みたい、惨めだ__
当たり前だ、一度捨てた欠陥品に興味を持つことなんてあるわけなかったのに、一人で勝手に藻掻いて、兄貴の足を引っ張って、勝手に憎んで、恨んで、
嗚呼本当、なにやってんだろ、
もう全部、どうでもいいはずなのに、諦めたはずなのに、俺の体は、まるで言うことを聞かなくなったみたいに、走り出していた、何も見えない、何も聞こえない、そんな状態で無我夢中に走り続けた。
___だから気づかなかった、俺の名前を必死に呼んで引き留めようとする姿、声に___
「はぁっはぁ、」
ここがどこかなんて分からない、走り続けて気がついたらここに居た。これからどうしようか、サッカーを続けるか、否か__あ、続けられるわけないか、もうすぐ死ぬんだった、俺。
別に死ぬのが怖くないわけじゃない、人間だし、普通に怖い。けど、このまま生きてる方が苦しいから、辛いから、だから大丈夫だ、もう覚悟はできてる。
のに、どうして俺は花なんか吐いてるんだろう。しかもシラーとか…………ざまぁねぇな。 さて、誰かが来る前に片付けるか__
シラー 花言葉→『寂しさ』『哀れ』
――――――――――――――――――――――――――
「『バシッ!』はぁ、やっと捕まえた」
「!?」
いきなり誰かに腕を掴まれて、振り返るとそこには___
「逃げれると思うなよ、”凛”」
走って来たのだろう、少し息を切らした兄の姿があった___あれ?この場面前もあったような………そんなことを考えていると腕を掴む力が強くなった気がして、まるで逃がさないと言われているようだった__
まぁ、実際言われたのだけど………
逃げなきゃ、そう思うのに、焦っているからか掴まれた腕は解けなくて、それにまた焦っての悪循環。
「ケホっはぁっ」
あ、と思ったときにはもう遅くて、俺は兄貴の前で花を吐いてしまっていた。
チョコレートコスモスが俺の手の中に広がった。
『恋の終わり』チョコレートコスモスの花言葉、この花言葉から今から言われる言葉を予想してしまって、俯いてしまう。
「今回のW杯で、優勝出来たのは、潔世一のおかげだ、潔世一が居なければ、日本はW杯で優勝出来ていなかっただろう」
____っ、ほら、やっぱり
わかってた、わかっていたけど、やっぱり兄貴の口から直接言われると辛くて、兄とお揃いの瞳に涙を浮かべてしまった___
「よくやった、凛」
_______え?
「潔世一が凛の力を引き出したから、日本はW杯で優勝出来た、凛のおかげだ」
その瞬間、今まで泣けなかったのに、涙腺が崩壊したかのように涙が溢れ出して止まらなかった。
「凛?大丈夫か?」
「大丈夫、グスッ」
「凛、好きだ、大好きだ、俺の大切な弟、俺だけのストライカー、ずっと伝えたかった、よく頑張ったな、凄いぞ凛、愛してる」
「うんっグスッ!」
そして俺は__
「ケホっゲホッグスッ」
__白銀の百合を吐いた
__数日後、糸師兄弟の家にはカスミソウが飾られていたという__
カスミソウ 花言葉→『永遠の愛』
コメント
6件
泣けたんだが?
やばい泣けてきた 主さんまじで天才
しゅごいでしゅ!!こにょ一話に凛のしゅべてがちゅまってりゅ!!! (凄いです!!この一話に凛の全てが詰まってる!!!)