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俺の指先に、ちゅ、とレジナルドはキスをした。
……それくらいで騒ぐほどではない、が。ううん……。
「……レジナルド先輩は、別に僕のこと、お好きじゃないですよね?」
俺がそう言うと、レジナルドは俺を暫く見つめてから──小さく吹き出した。
「面白いね、君は。そういうところを好ましくは思っているけれど?」
好ましく、ね。よく言うよ、こいつも。
俺は手を引かせて、息を吐いた。
「それはどうも……でもそれで結婚とかないと思うので、僕は」
相手が本気で言ってるならまだしも──それでもなしよりのなしだが──そうでないならば、そもそも相手にするのも馬鹿らしい。かといってリンドンみたいのも困るが。
「おや、振られてしまった。なかなかないよ?一国の後継者を振るだなんて」
レジナルドは俺の隣に座り面白そうに笑いつつこちらを見ていた。
ちら、と横目で伺うその表情に怒りはない。
「本気でない求婚に振るとかないと思いますけど……」
ぼやくように言えば、レジナルドは笑みを深める。
「ディマスも君ぐらい周囲が見えれば良いのだけどね……そういうことを抜きにすれば悪い人間では無いのだけれど」
声にはやや疲れたような……そんなものが混じっているように聞こえた。
俺にアレだものな。本人へのアタックはもしかして凄まじいのかもしれない。ただうまくこいつが避けているだけで。
「まあ……僕のことはお気になさらなくてもだ大丈夫ですよ。いざとなったらどうにかできると思いますし」
うん、まあ、そう言っても俺に案なんてのはほぼ無くてーディマスを徹底的に避けるくらいしかないー俺が学園を退学するルートが色濃い気もするけどな!
そんな風にレジナルドと話して、その日は終わった。
それ以降はレジナルドも俺を揶揄することもなかった。いつもこれならねぇ……。
※
で!
7日の休みを終えて学園に久々の登校なわけですが!
「リアム様!レジナルド様のご求婚はどんなものでしたか?!」
「お輿入れはいつに?」
「もうお妃教育は始まって?」
とにかくこの手の質問ばかりだ。
というのもどうやら、レジナルドが早速次の日にはデリカート侯爵家に非公式といえども訪問したのが広まったらしく、そこから噂がどんどんと広がっていき……俺は既にレジナルドと将来の約束を交わしているものの、王族であるディマスを蔑ろにするわけにはいかず、俺が身を切られる思いで辞退を申し出た……という美談に進化したようだった。
ノエルにしろセオドアにしろ、俺に言おうと思ったらしいのだが、もうどうして良いかわからないほどに噂は収集がつかない状態で、なかなか言い出せなかったと、登校初日に謝られた。
そして、現れるのは…………そう、ディマスである…………。
「貴様……負けておきながら、これはどういうことだ……卑劣な奴め……!」
教室移動をする廊下で、人の目を気にすることもなく、ディマスは俺の前に立ち憎々しげに言い放った。今まではそれでも俺は格下であるし、取るに足らないという思いも多いにあったのだと思う。けれど今は違う。これはもう、確実に敵認定だ……。
「いえ、あの……」
どう言えばディマスが納得するかさっぱりわからない。
レジナルドがあの調子であれば、ディマスの思いは通じることはない。しかし、俺だってレジナルドと一緒になるわけでは無いが、きっとそれは彼には届かないだろう。
どうする……下手に刺激すれば国家間の問題に発展しないとも限らない。ここが学園内とはいっても、それが通じるとは思えない勢いだ。
「我が国であれば、お前を即様、牢にぶち込んでやるものを……」
こっわ!俺、この国で良か……言っても、何もしなければあのエンドが待っているリアムなので両手をあげて喜ぶほどでもないが。
ああー……これはまずい。本当にまずい。
刻々と時間は過ぎていく。酷くゆっくり。
周囲には人の目があるが、ディマスの背景を知っていればいるほどに手は出しにくいだろう。手に嫌な汗が滲む。あー……もういっそ、倒れてでもみるか?その方が事態収拾に……もならないか。結局、日が経って俺を見ればディマスは向かってくるのだろうし。
じゃあ、どうする。
「リアム君」
五里霧中をそのままに爆走していた俺に向かって声がかかった。
振り返ると、それはキースだ。
「あ……」
「君、魔法学の授業用意の手伝いは終わったかい?頼んでいただろう?」
こちらに近付きながら、キースは首を傾げた。
あ、ああ!そういうことか……!
「あ、いえ、そのまだで……」
「それは感心しないね。いくら弟と言ってもここでは一介の学生だ。わがままは通らないよ?……ディマス君、もし用が後でいいなら、リアム君を借りていっても?」
あくまでここは学園内だ。講師の言うことにはディマスも無視はできない。無視をすれば評価が下がりかねないし、評価が下がればおそらく自国への報告もいくだろう。なのでディマスもそこは、どうぞ、とぶっきらぼうに言った。心底気に食わないのがその顔に有り体にかかれてはいたけれど。
「失礼します」
俺はディマスに頭を下げて、では行くよ、と歩き出したキースの後に続いた。