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ルイスとの交際は諦めろ。
相手が貴族ではないと、世間体に悪いと。
「嫌です。私はルイスがいいです」
「……僕はそれで君と十六年間親子の仲を引き裂かれた」
「おじさんと私は違います! 私とルイスの交際に反対する人なんて」
第一王女として、存在が公になるのは仕方がない。
それに抵抗することが難しいのは分かっている。
だけど、結婚する相手は自分で選びたい。
ルイスではない男性との未来など考えたくもない。
私はアンドレウスに抗議した。
私の主張にアンドレウスは苦渋の表情を浮かべ、首を横にふった。
「確かに、メへロディ王国は息子が継ぐ。僕とローズマリーは置かれている立場が違うね」
「なら、私が誰と結婚しようがーー」
「だが、君と結婚したい貴族は多い。王家との関係が深まるからね」
「……」
跡継ぎではないが、私の結婚相手は王家と深い関係を持てる。内政を大きく動かすことができるのだ。
メへロディの内政は伝統を重んじる保守派と軍事に力を入れたい革新派の二つに分かれている。
保守派はタッカード公爵家、革新派はライドエクス侯爵家が代表に挙がる。
私をどちらに嫁がせるかで、政治の方針が定まる。
二つの家にとっては、私の存在は大きなもの。
「おじさんは、私の婚約者を決めているのですか?」
「……うん」
「私が王女として表舞台に立つのは、婚約者の家と関係を深めるためですね」
「そういうことになる。だが、命を狙われ続けていた君の結婚相手は私が信頼する者でないと……」
「おじさんは、ルイスを信頼していないのですね」
「好きという気持ちだけでは駄目なんだ。君を護る力、立場がないと」
私は段々と歯切れが悪くなるアンドレウスの言葉に、いらだちを覚えた。
これはうわべの言葉だ。
本当は私の存在を公にしろと、婚約者の家に言われたからに違いない。
「もう、言い訳はいいです。単刀直入に聞きます。私の婚約者は……、どなたですか?」
政治的な理由で、私と結婚したい貴族。
予想はもうついている。
「ライドエクス侯爵家の長男、オリオン殿だ」
アンドレウスが告げた私の婚約者。
運命の悪戯なのか、その人は私の恋人が仕えていたオリオンだった。
「私をオリオンさまと結婚させることで、ライドエクス家を公爵家にするのですね」
「ライドエクス家は君の事でよく働いてくれた。見返りとして、君をオリオン殿の相手にと」
狙いは分かった。
爵位を上げることで、タッカード公爵家の力を弱め、力関係を均等にするのだ。
「そのために、私はルイスを諦めろと」
ライドエクス侯爵家は爵位を上げるために、アンドレウスに限りなく協力しただろう。
「それはおじさんの都合で、私には関係ありません」
「ローズマリー!!」
「……私の存在を公にし、クラッセルの姓を捨てることは認めます。でも、結婚相手の公表は待って欲しいのです」
「分かった。婚約者については後々公表する」
私ができる最大限の抵抗は、婚約を先延ばしにすること。
先延ばしにしても、ルイスと結婚できる可能性は無いに等しい。
(勝手に私の人生を決められるなんて……、許されたものではないわ)
私はルイスと一緒に生きたい。
メへロディ王国が身勝手な理由で大切な人との仲を引き裂くのならーー。
この日、私は大きな決意をした。
☆
馬車乗ってからどれくらい経っただろうか。
トゥーンの街並みは遠ざかり、建物がない場所を走っている。
「あ……」
馬車の窓から、突然大きな建物が見えた。
建物の存在はメへロディ国民全員が知っている。
フォルテウス城。
メへロディ王族の居城。
「着いたよ。今日からここが君の家だ」
この馬車が止まったら、私はこの城に入る。
トルメン大学校の入学式まで、私はこの城から出られない。
「はい。アンディ……、アンドレウスお父さま」
行動を起こすには時間が必要だ。
それまでは、私はアンドレウスの娘。ローズマリーを演じよう。
私がフォルテウス城に到着して、二時間後。
私はメへロディ王国の第一王女として、世間に公表された。