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家族

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家族

1 - 第1話

♥

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2025年01月06日

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ーー会いたい。

もう、何度この言葉を打っては消し…を繰り返しただろう。

1人では広すぎるベッドに腰を掛け携帯を見つめる。

暗く静かな寝室は湊の携帯の画面の灯りだけで照らされていた。

はぁ…とため息をつき携帯の電源を切ると途端に暗くなる室内で湊は頭(こうべ)を垂れた。

ただ『送信』ボタンを押せばいい。たったそれだけなのにそれができない。送ってしまえばきっとすぐにでも湊の元へ帰ってくるだろう。

わかっているからこそ、押せずにこんなにも悩んでいたーー。

シンは一昨日から母方の祖父母の家に家族と行っていた。

湊も一緒にと誘われたが、実家には行けても流石に祖父母の家までは付いていく事はできずにそれを断った。

ーー会いたくなったら連絡ください。すぐに飛んで帰ってきますから。

出かけ際、シンが言った言葉が忘れられない。あいつなら本当に飛んで帰って来かねない。

母方の祖父母の家は車で5時間、電車や飛行機でもそれなりの時間はかかる。遠方から遊びに来た孫達との再会を楽しんでいるであろう祖父母の気持ちを組むと自分のエゴで引き戻す事はしたくない。散々迷った揚げ句、静かに携帯をベッドに伏せて置いた。そして、立ち上がると隣の部屋へと向かう。

シンが居なくなってから苦しくて…胸が締め付けられる程苦しくて…。シンの温もりを感じる事ができない広いベッドで1人で眠るのは寂しすぎた。1人にはちょうどよいサイズの、でも硬くて寝心地の悪いソファーが今日も湊の寝床になる。ソファーで寝てるなんてシンが知ったら怒るだろう。

ーー湊さん!もう歳なんですからこんな所で寝たら身体をおかしくしますよっ!!……と。

部屋を見渡せばあちらこちらから聞こえてくるシンの声が今はツラい。幻聴ではなく本物の声が聞きたい…。それを耳から消すように見たくもないテレビをつけた。画面からは笑い声が聞こえてくる。笑う気分ではないが今はつられるように笑ってみた。が、虚しさだけが募っていく。

引きつられるような笑みはいつしか曇った笑みに変わっていた。

以前この部屋で1人で暮らしていた日の事を思い出す。あの頃は1人でも淋しいなんて感じもしなかった。悠々自適な暮らしを自分なりに楽しく過ごしていたはずだった。なのに温もりを知ってしまった今は1人でこの家に居る事がこんなにも苦しいんだと気がついてしまった。

今夜も一人きりで眠りにつく寂しさに押しつぶされそうになる身体を両手で抱きしめて眠りにつく。

ーー湊さん……。

シンの声が耳元で聞こえてくる。

「会いてぇよ……」

そう小さく呟き布団を頭までかぶる。眠れそうにない気持ちのまま無理矢理目を閉じた。

その時、携帯の音が鳴った。

シンからだ。

LINEには画像が添付されていた。

軽く丸めた雪が手のひらに乗っていた。ふわふわな雪なのが画像だけで十分伝わってくる。

ーーかき氷にしたら美味そうだな…。そう考えたらさっきまでできなかった笑みが自然と出来た。

『祖父母の家の方は雪が降っていました。こっちは雪も降っていないのに寒いですね』

(寒いですね…?)

まるでこっちの今の寒さを体感しているようないい方だ。

なんて返信しようか迷っていると、誰かが外階段を上る足音が聞こえてきた。

その足音は湊の部屋の前で止まった。

ソファーから身を乗り出し怖怖と玄関を見る。

ガチャーーー。

鍵を開ける音がすると、扉が開いた。

「……え?」

湊の目が大きく見開かれる。

そんなはわけない…だって帰宅は明後日の予定なはず……。

「……シン………?」

コートのフードを顔深くまで被ったシンが玄関先に立っていた。

両手いっぱいに荷物を抱え

「ただいま…湊さん」

固まる湊に目一杯の笑顔で言った。

ソファーから慌てて這い出るとシンの元に駆け寄る。

「お前…なんで……?」

驚きながら尋ねる湊に

「早く帰ってきたら迷惑でしたか?」

荷物を置き、フードを取ると待ち焦がれた顔が現れた。鼻を赤くして湊を見つめるシンに嬉しさと同時に困惑が入り混じる。

「だって…お前帰りは明後日じゃ」

「怒られました……」

はにかんだ笑顔でシンが言った。

「え……?」

シンは靴を脱ぎ湊の傍に寄ると抱きしめた。シンの身体からは冷たい冬の匂いがした。

「祖父母に話しました。湊さんの事」

「はぁ?なんでっ…?」

別に話す必要なんてない。もし、反対されでもしたら…ならば隠しておけば良い。なのにどうして…?

湊の気持ちをくみ取るようにシンは続けた。

「俺の大切な人を祖父母にも知って欲しかった。だから、今回は湊さんの話をしに行ったんです…」

「反対されたらどう……」そんな湊の言葉を遮(さえぎ)るように

「覚悟はしていました。でも…」

そう言ってシンは思い出し笑いをする。

「俺より桜子たちや両親が上手く説得してくれました」

「………なっ」

湊は目を見開き驚いた。

見てもいない光景が頭の中で再現される。自分の知らないところでシンたちが必死になって説得している姿を想像すると 溢れる感情を堪えきれなくなっていた。

シンは湊の目を真っ直ぐ捉えると

「みんな…湊さんが大好きなんです…」

誇らしげにそう言ったシンが優しく微笑む。そんなシンを見つめながら湊の目には涙が溢れてきた。

「……っ」

言葉に詰まる。それでもどうにかして

「怒られたって……?」

そう涙声で湊が聞いた。

「湊さんを1人残してきたって言ったら怒られました。大切な人を1人にするんじゃないっ。て、祖父母に追い出されて…」

シンが追い出される姿を想像したら笑えてきた。笑いながら湊の瞳に溜まった涙が溢れ頬を伝った。

その涙をシンは親指ですくい取り

「次来る時は湊さんも必ず連れて来るように言われました…今度は一緒に行ってくれますよね…?」

頬を伝う涙は後から後から流れてくる。


ーーああそうか……1人じゃないんだ…。


湊は遠い昔の記憶が蘇っていた。カミングアウトをした後、両親から見放され友達にも言えず、世界でたった1人きりだと思っていたあの頃。自分には家族というものを望んではいけない、と。一生縁のないものだと思っていたあの頃を。なのに…シンと出会ってから気がつけば自分の周りにはシンが居て、シンの家族が居て、そのままの自分を受け止めてくれる人達がこんなにも居る事を知った。

それはとても温かく…優しいと言う事を知った…。

「いいのか……」

「あたりまえじゃないですか。湊さんは俺の家族なんですから」

当然のように言ったシンの言葉が湊の胸に突き刺さる。

ーー『家族』

望んで手に入るものではない。だけど、今確かに湊の周りには家族という温かくも心地よい人達がいてくれる。その中に自分も含まれているのかと思うとなんだか照れくさくもあった。




「ところで…」そう言ったシンの視線の先は部屋の奥だった。

「湊さん…もしかしてベッドで寝てないんですか?」

シンが見つめる先にはソファーに置いたままの枕と布団があった。

(あっ!……)

「えっ…と…」

言い訳を考える湊に

「俺がいなくて寂しくて寝れなかった?」

意地悪そうにシンが言う。

「あれはっ!テレビを見ながら寝ようとしてて…」

やっと思いついた言い訳も

「俺に会いたくて会いたくて仕方なかったんじゃないですか?」

湊を見下ろしながらそう言ってくるシンの耳には入らない。

「だからっ…」

少しムキになる湊に

「素直じゃねぇな…」

そう言って流し目をおくる。その表情は年下のはずなのに湊よりもずっと大人に見えた。

「……」

黙る湊の手を取り

「俺は会いたくて仕方なかったです…」

取った手を引き寄せ抱きしめた。

「こうしてアンタに触れたくて…抱きしめたくて…いつもアンタの事でいっぱいでした。湊さんは違うんですか?」

「俺だって……」

吶(ども)る湊に顔を近づけてきて

「ん?…」と、覗き込む。

近すぎるシンの顔から視線をそらす。

「俺だって。お前の事ばっか考えてて…だから…」

「だから…?」

聞き返すシンを視界で捉えながら瞬きを繰り返し挙動な目線をする。

「お前のいないベッドで寝るのが…なんか…できなくて……」

「だからソファーで寝てたの?」

黙って湊はコクンと頷く。

「もぅ……どうしてそんなに可愛いこと言うんですかっ……はああぁぁ……」

湊を抱きしめる手に力が入る。

「今夜は我慢しようってきめてたのに…」

そう言って湊の手を引き寝室へ向かう。

そっと湊をベッドに横たえると

「湊さん……いいですか?」

その上に跨(またが)り湊に尋ねる。

シンの言葉の意味を理解すると頬を紅潮した湊は「好きにしろ……」そう言って、シンの首に手を回し引き寄せた。


3日ぶりのベッドは固いソファーと違い柔らかくて、寝返りがうてるほど広くて、なによりシンの温もりが心地よかった…。



【あとがき】

あっ、舞台は湊のアパートです♪


初乗車してからどっぷり沼に落ちた作者です笑

湊さんの愛おしさが増々増殖しています笑 書きたい事は山程ありますがネタばれになるのでやめておきますね。

ただ一つだけ…ライブで号泣したのは初めてです笑 最高でした!


それでは…また…

2025.1.7

月乃水萌



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